第6話 2
引越しが完全に終わったのは、午後4時半だった。
大家の田代さんに聞いたところ、全8室のところ現在入居しているのは、2階の1室を除く7室だという。まずは近所挨拶をと思い、さっそくコンビニで買い求めたゴミ袋のパックを手にして101号室からはじめることにした。
101号室をノックすると、ややあって顔を覗かせたのは、白髪頭で背の高い80そこそこの野田という老人だった。隣りの102号室には60なかばの頭の禿げた中肉中背の男性で、名前を井上といった。次の103号室は花木という年のころなら60になるかならないくらいのよくしゃべる女性だった。
3軒に挨拶をすませてみると、3人ともなかなか人のよさそうな住人だったことに少し安堵した。この先どれくらいこのアパートに世話になるかわからないけれど、あまりややこしい人種が多いと毎日の生活がしづらい。
1階への挨拶をすませると、錆の浮き出た手すりを掴みながら鉄製の階段を恐るおそる昇り、2階の部屋を訪ねた。ところが、どの部屋も留守らしくて、まったく返事がなかった。しかたなく僕は自分の部屋にもどることにした。
しばらく部屋でぼんやりしていた僕は、近所の探索を兼ねて隣りの花木さんが教えてくれた銭湯に行ってみることにした。
銭湯は橋を渡って5分ほど歩いたところにあると聞いた。3月も終わりだというのに川を渡って来る風が身を切るように冷たい。
いま歩いている場所はこれまで住んでいたとことはあまりにもかけ離れ過ぎていて、あたりは住居地域なのか人通りも少なく、店らしきものはほとんど見当たらない。あるのはクリーニング屋と古いままの床屋が目についたくらいだ。心細く思った。
通りを右に折れてしばらく行ったところに例の銭湯はあった。これまでは風呂付の部屋だったために長いこと銭湯に行ったことがなかった。少しドキドキしながら銭湯の暖簾をくぐった。
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