第4話

 僕は時間のない大家さんに気を遣ったわけではないが、このアパートに住むことに決めた。

「あのう、田代さん、僕ここにお世話になろうと思います。ついては、お家賃の支払いはどうしたらよろしいでしょうか?」

「それだったら、近日ここに書いてある口座に振り込んでおいてくれたらいい」

「本当に礼金とかはいらないのでしょうか?」

 僕はあとから請求されても困るので、思い切って訊いた。

「ああ、本当だ。私は別に仕事を持っているので、こんなアパートの収入で生活を成り立たせているわけではないのだ。むしろ困っている人に住居を提供しようと思っているくらいだ。じゃあタダでもいいじゃないじゃないかと思うだろうが、やはり修繕費や固定資産税というやっかいなものもあるから、そうはいかないんだよ」

 田代さんは僕を正面に見ながら残念そうな顔でいった。

「僕らにはわからない、いろんなことがあるんですね」

「まあね」

「田代さん、さっそくですが、きょうからお世話になりたいと思いますがよろしいでしょうか」

「きみさえよければ、こちらは一向にかまわないよ」

「よろしくお願いします」

 僕は頭を深くさげていった。

「そうと決まったら、ちょっと急いでるんで……。ああそれと電気やガス、それに水道は自分で申請しといて」

「はい」

「もしよかったら、さっきのところまで乗せて行くけど」

「お願いします」

 僕は部屋の鍵を受け取り、自分で鍵を閉めてから田代さんのクルマに乗り込んだ。

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