第3話
大家の田代さんが案内してくれたのは、1階の4号室だった。
最近ではあまり気にしないので、「4」とか「9」という部屋番号は普通にあるのだが、この古いアパートに4号室があるのが不思議に思えた。
部屋のなかに入ると、意外にも外観からは想像できないくらいきれいなことにちょっとびっくりした。
間取りは、少し広めの台所と6帖のタタミ部屋があり、便所はあったが風呂はついてない。これで家賃は1ヶ月3万円なんだし、なんといっても保証金も敷金も不用なのが魅力だ。いまどき都内でこんな掘り出し物に出会うことはまずない。
さらにラッキーだったのは、前住人がカーテンと照明器具が残しておいてくれた。それだけでもずいぶん出費がおさえられる。
こんな夢のような物件を紹介してくれたのは、自動車工場で働く山本という同僚だった。
僕は1年ほど前まで、派遣社員として自動車工場で働いていた。ところが突然の不況に見舞われ、それはあっという間に世界中に蔓延してしまった。そうなると当然経費削減が求められる。真っ先に矛先が向けられるのは僕らのような派遣社員である。僕自身も例外ではなかった。
突然職を失ってしまった僕は、派遣会社に希望を託したのだけれど、不景気の只中にある現状ではそれほど甘いものではなかった。
比較的仲のよかった同僚の山本クンと何度も今後の身の振り方について語り合った。 考え方が堅実だった山本クンはいち早く就活への行動をしたため、1ヶ月も経たないうちに新しい仕事先を見つけた。ところが要領のわるい僕は、気は焦るものの一向にいい話がなく、しかたなくアルバイトで生計を立てるしかなかった。
少しずつ貯めた金も加速度をもって目減りしはじめ、収入もないのにこんな高い家賃のアパートに住んでることが間違いであることに気づき、僕はたまらなくなって山本クンに相談をした。
快く相談にのってくれた山本クンは、1週間後にいい知らせをくれた。それがこのアパートだった。今回ほど「持つべきものは友だ」と実感したことはない。
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