第2話
指定された場所に着いたのは、約束の時間の15分ほど前だった。
以前来たことのある場所だったので迷うことはなかった。
懐かしさにあと押しされて街の風情を愉しんでいたとき、左ハンドルのシルバー・メタリックのベンツがすうっと僕の横に停まった。と同時にドアウインドーが降ろされ、なかから白髪で丸顔の一見紳士風の男が声をかけてきた。
「
「はい」
僕は自己紹介する間もなく、急いで助手席のドアをあけて乗り込んだ。
目的のアパートまでは5分ほどでついた。
クルマを降りると、目の前に2階建てで1階4室の合計8室の小ぢんまりとした建物があった。両隣に建物はなく、少し空間があるといった住居の密集するこのあたりでは珍しい光景になっている。
建物の裏側は3メートルほどの奥行きの庭があり、フェンスの向こうは水面まで7メートルはゆうにあるコンクリートで整備された川が流れている。都内を縦断する誰もが知るところの神田川だ。
外壁は何年も何十年も手入れを忘れているらしく、あちこちでペンキが剥がれ、そこかしこに雨染みがほころびのように跡を残している。白い壁には薄くなった緑色で、「志摩荘」と書かれてある。大家の田代さんの出身が三重県の志摩半島なのだろうか。それにしても中途半端なネーミングだと僕は思った。
正直、自分が抱いていたイメージとは多少ギャップがあったことに落胆をした。でも、いまの僕にはそんな贅沢なことをいっている余裕はない。
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