龍の指輪

zizi

第1話 1

 頭を掻き毟るようにして目を醒ますと、枕元の時計は8時半を少し回っていた。

 約束の時間までには充分ある――そう思いながら寝床から出ると、ゆっくりとベランダのガラス戸をあける。そこには、いまの気持と同じ鈍色にびいろの空が展がっていた。

 窓からの景色を眺めながらいつものように背伸びと深呼吸をひとつしたあと、ゆっくりと部屋のなかを見回した。

 きょうでこの部屋ともお別れになるかもしれない。これまでそんな気分になったことはなかったが、なんだか少し寂しい気持がした。

 湯を沸かし、容器の底に残ったインスタントコーヒーを淹れると、食パンを2つに折りかぶりついた。朝を感じさせない味気ない朝食だった。

 簡単に朝食をすませると、部屋を出るまでに少し片づけものをすることにした。そうはいってもほとんど荷造りは完了している。あとは細かいものをダンボールの箱に放り込んでガムテープで封をするだけだ。

 小さな冷蔵庫、電子レンジ、カラーボックスがふたつ、それにプラスチックの衣装箱が2箱、あとは本などの入ったダンボールの箱と布団が1組あるだけなので、軽トラック1台で余りある。

 あと3日でこの部屋の賃貸契約が終了する。それまでに次の部屋を探さなければならない。別にこれまで放っておいたわけではなく、友人に紹介されたアパートの大家の都合がつかなくて、下見が今日になってしまった。

 とにかくこの部屋を空けなければならないから下見などどうでもよかった。だが貸主と一面識もなかったのでそうもいかない。

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