0250 遭逢

 本当に信じられない……。あんなに人の不幸をたのに笑うことのできる人がこの世に存在しているなんて……。私はおそらくあの瞬間を一生忘れないような気がする……。

 

「ひゃぁーーーーっはっはっはーーー」

 

 あの声も、笑い方も、顔も……、どれも理性という知的能力を備えた人間とは思えませんでした。古代アリストテレスの時代では、人間にしか備わっていないと言われた理性も、現代では哺乳類の多くは理性的動物であり、人間はそのうちの一種に過ぎません。すなわち鳥嶋さんは、哺乳類にも属していない事になりました。

 

「いけなみさんの番だよ」

「ああっ、そうだったね、はーい」

「きゃはっ」

 そう、このトランプのジョーカーの絵の、ピエロか悪魔か不可解な不気味でいかがわしいこの表情のように奇怪千万きかいせんばんでした……。

「えええっ!ババ引いた?!」

「きゃははっ」

「もうー、陸くんも奈菜実ちゃんもみんなババ抜き強いなあー」

 

 ――およそ2時間前

「おお、池浪耀。X-ファイルできた?」

「編集長……私やだなあ、このタイトル……『私たちが見たビッグフットの正体』って。記事の内容は、外国人技能実習生の日本での労働条件や職場環境から見えてくる、失踪者数の増加傾向を裏付けるような、しっかり社会問題を取り上げた内容になってるのに、何なんですかね、このタイトル……」

「まあ、上層部が気に入ったんならいいんじゃないか?」

「私は別にいいですけど……」

 その時、私の『スカウター』が近距離に敵が接近したことを知らせた。そう、その敵の名はジョーカー!

「おい、池浪、お前今日の午後って休暇なん?」

「…………」

 ブーブブッ「ん?なんか来た」

 新着メッセージ[いけあか]

[休暇です]

「おい、近距離でLINEをするな」

「…………」

 

 私は今、自分の気が済むまで鳥嶋さんとは『口を聞かないキャンペーン中』だ。今日こうして赤心の家に遊びに来ることも、お土産を持ってくることも、今のところ教えるつもりは一切ありません。

「あの、池浪さん」

「奈菜実ちゃん、どしたの?」

「出版社の仕事って、楽しいですか」

「うん! とっても楽しいよ! 時には楽しいことばかりじゃなくて、大変な事もあるけれど、大変な事を乗り越えた時に感じる楽しさは、もっと大きいんだよね!」

「そうなんだぁ……」

「興味あるのかな?」

「将来の夢は……いくつあっても構いませんよね?」

「もちろん! 奈菜実ちゃんの年頃は私もそうだったなあ……」

「どんな夢がありましたか?」

「そうだねえ、小学校の先生…とか」

「あはっ、池浪さん似合いそう……」

「嬉しいな……」

「ぼくはね、けいさつかんになるよ」

「へえー、陸くん、すごいねー。きっとなれるよ!」

「えへへ、そうだよねー」

「じゃあ、これからに、ふたりにはこの、ブルーサンドストーンをあげまーす」

「かっこいいなまえだね」

「すごくきれい……」

「ブルーサンドストーンは『努力が実る』っていう力があるんだよー」

 

 

 

「それ、とても綺麗な石ですね」

 

 

 

「えっ、わかります?」

 これが、彼女と私との初めての出会いだった。

 




 アレルギー性カテゴライズ〈剛編〉【終】

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アレルギー性カテゴライズ㊤<剛編> こみちなおり @KOMINAO

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