0245 危機
さっきまで巨岩の上に座っていた池浪の姿は消えていた。
「池浪ぃーっ」
「おーーっい」
「いーけーなーみーっ!」
「!!!」
俺は、巨岩に駆け登る。やはり居ない。巨岩の裏にも居ない。ここから転落したわけでもない。この辺りの、岩の上から見渡す範囲に……「ん?!」何かある!!
それは何度も見たのことがある『岩肌のようなスマホカバーが装着された池浪のスマートフォン』だった。それは、この巨岩を登る側のちょうど反対側に落ちていた。アイツはずっと写真撮影してたから手に持っていた
ヤバイ。
マズイぞ絶対。
「いーけーなーみーっ!」
「いーけーなーみーっ!」
「おーーーーーーーい!」
「いーけーなーみーっ!」
マズイ。
俺の背中を、冷たい汗が一本の筋を作り流れ落ちた。
手の指先が
パートナーと
「私はそんなに強くありません。……そのことはもう鳥嶋さんには随分とバレちゃってるとは思いますが」池浪……。
ビッグフット。だとしても、その他の
俺は最低だ。
「鳥嶋君、どうか耀を頼む」お父さんの言葉がよみがえる。
駆け回り、叫び回った。スマホが落ちていた方角へ向かって、茂みが掻き分けられ、人が通ったた形跡のある登山道以外の道を駆けた。足がガク付く。恐怖か後悔か、事の深刻さが身体に異変を生じさせる。
「鳥嶋さん、耀をお願いします」……蛍さんと約束したのに。
「駄目だ、見つけられん……」
俺は無意識に
「鳥嶋さん」
俺は声がした方向に飛び付く。
「鳥嶋さんでしたよね」
その人は、魚介食品加工会社の社員の人だった。
「あなたはたしか……」
「吉田です」
そう、女性の管理職の人だ。
「なんでこんな所に?」
「社長と工場長も一緒に来ていますよ。先ほどのお二人の話を聞いて、社長が『是非お手伝いしよう』ということになったんです……。それで、相棒の女性って……」
俺は、現状の
「それは、大変です!すぐここに社長と工場長も呼びます!」
なんていい人たちなんだ。俺は少し気を持ち直す。すぐに社長さんと工場長さんとも合流できた。
「鳥嶋さん、事情は聞きました。手分けしてお探ししましょう」
「すみません、見ず知らずの
「いやー、ウチもね、四国から移ってきた余所者なんです。でもこの島の発展の力に寄与できればと
やはり凄くいい人たちだ。俺たちは一旦別れ、手分けして周囲を捜索した。そのとき俺の時計はすでに16時半を差していた……。マズイ、もう陽が落ちてきている。
「頼んだぞ、アイツのこと。守り導くのがお前の役目だ」くそっ!悪いのは俺だ!俺が池浪から目を離さなければ! 宮藤編集長……どうすれば。
まず浪乃荘旅館に連絡しよう。
その時だった。
聞き覚えのある着信音が鳴った。あの池浪のスマホだ。俺はこんな時に自分の物ではないなどと言ってられぬと、画面を見た。
[蛍ちゃん]
着信は蛍さんからだった。俺は
「耀ちゃん!耀ちゃん!」
「蛍さん!鳥嶋です!」俺は現状の
「わかった。たぶん耀は大丈夫」
「そんな……」
「あの子は秋葉山では絶対に遭難したりせん……。だから私の言うこと落ち着いて聞きんせー」
薄暮どきになって風が冷たい。
「魚介食品加工会社の人とは絶対に関わっては駄目」
ゾッとした。まったく意味は理解できず、ただその言葉に恐怖だけが全身を動けなくさせた。
「ど、どういう、意味なんですか? ざ、残念ながら、今一緒なんですが……」
「えっ?!」
俺はこの事態に協力者が現れた事も簡潔に説明した。
「わかった。この電話はなるべく普通に、平静を装って話しんせー。答えにくい内容は、肯定か否定でええよ。ただ、話しながらでもその人たちの動きには注意して」
俺は、息を呑んだ……。
「はい。わかりました」
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