0243 目撃

「NPO法人いきいき北木島地域振興センターさんですね」

 そこは地域活性化を目指す事業サポートを行っている、特定非営利活動法人だった。

「代表の藤原ふじわら研二けんじです」

「理事の池田いけだあきらです」

「さきほどチラッと怪しい大男を見かけたと……」池浪は恐る恐る質問した。お二人の第一印象は、いい意味で『マリオとルイージ』が完璧な比喩表現ではないだろうか、と俺は思う。

「この池田さんがね、島じゃ見掛けん大男がおったっ言うんで、探しに行ったんじゃ」

「せぇじゃて、わしが見たんはそりゃもう、怪しい大男じゃった」

「そして見つけたんは、背広姿でグラサン掛けて、縦にも横にもでけぇ、ヤクザみてぇじゃった」

 それは……、俺たちも……見た。ていうか喋った。残念ながら、藤田さんと池田さんが目撃したという大男は、俺たちが中華そば屋さんで喋ったフランクなノリの貫禄あるおじ様だった。

「貴重な情報、ありがとうございました」

「おおー、土産じゃけぇこれ持って行きられー」

 藤原さんが持たせてくれたのは『島育ち』と書かれた瀬戸の海苔だった。

「どうして島の人はこんなに良くしてくれるんやろなあ」

「雑誌記者だから……? でしょうか」

「おいおい」

 

 俺たちは島の南東に移動してみることにした。港近くの駐在所には、今朝の空き巣の事件もあってか警官たちが何人もいた。

「耀ちゃんと鳥嶋さん」

「あー蛍ちゃん、こんなとこでー」

「蛍さん、どうされたので?」

「ああ、空き巣のこと、ウチの向かえじゃけぇ心配で……」

「警官に何か聞けましたか?」

「まだ、なーんも」

「そうですか……」

「耀ちゃんあのな、私にはほんまのこと言うてほしいんじゃ」

「えっ?!」

「島に来たほんまの理由はなんか?」

「やっぱ蛍ちゃんにはかなわんなぁ」

 姉には妹の嘘など、まるでお見通しのようだった。池浪は事の次第を丁寧に説明し、何とか蛍さんの理解を得たようだだった。

「よう! 蛍と耀じゃのう! それと、鳥嶋君じゃろ!」

「あー、大河たいがさんじゃ」

「がっはっはっはー! 二人ともゆっくりして行きんせー」

「ええけぇ、おめぇは仕事しろー」大河さんはすぐに蛍さんになされた。

「鳥嶋さん、耀をお願いします」

 蛍さんのお願いとなれば断る理由はない。

「任せてください」

 

 蛍さんと別れて俺たちはもう一度、写真が撮られた付近を回ってみた。こっちの港付近の集落も人は割と多めだ。

「ここにも魚介食品加工場があるな」

「お話し聞いてみますか」

「工場長の庚申こうしん和弘かずひろです。従業員に聞いてみましたが怪しい人物は見掛けてないようですよ」

「そうですか……」俺はどうしても工場長の繋がった眉毛ばかり目がいってしまった。協力的な人に対して、誠に不謹慎だった。

 そのこともあって、池浪が工場長と話している間、俺は女性の総務部長さんから話を聞いた。

「総務部長の吉田よしだ桃子ももこです。事務員の子たちにも聞いてみたんですが、いないみたいですねぇ……」見たところ……、事務員の子たちは若い子たちだった。だから何だという事は一切ない。ただ吉田さんには管理職オーラがあった。

「社長の犬飼いぬかい洋次郎ようじろうです。怪しいっていうのは、どんな人物なんで?」社長は鼻息を荒くして俺に聞き入った。それはゴシップ好きか、野次馬根性丸出しといった雰囲気だ。

 俺は出来るだけオカルトな雰囲気は出さずに、気を付けて説明した。

「そうですか、それは島の人たちも困っていることでしょうね」

「畑が荒らされたり、空き巣があったりと、その怪しい人物と関連があるかどうかはまだ解っていませんが、関連がないのであればハッキリさせたいもので……」

 池浪は事実と憶測を可能な限り混同させないよう、意識して話しているようだった。

「ご協力できることがあれば、また言ってください。これ、もしよければどうぞ」

「いやー、いいんでしょうか、ありがとうございます」

 社長が差し出してくれたもの、それはこちらの工場で作られた『シャコのかまぼこ』だそうだ。これは……デスクと編集長に持って帰ろう!と思った。

「この後も島内を回る予定ですかな」

「少しだけ山に入ってみます」

「おお、それは大変そうだ」

 

 いやいや、俺は山に入るなんて、そんなプラン聞いてないですよ耀さん? そう心の中でつぶやいたのだった。

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