0110 悪人
「児童養護施設『
「施設っていうよりも、デカい
俺たちは
「今日は急なアポイントで恐縮でした。
「池浪です」
「赤心の家の施設長の
岸部さんは、それは還暦もとうに迎えられてそうなダンディで細身の男性だった。
「今日は、先日亡くなられた白峰由喜恵さんのことで伺いました」
「そうなんだね、うん。僕は白峰さんちとは旧友だったんだ。ずっと仲良くさせてもらってた……」
岸部さんは、少し遠くを見ながら話してくれた。
「僕がここの施設長になってからは、由喜恵さん……自分たちが始めた農園で作ってる野菜はすごいんだって、
「素敵な方だったんですね」池浪は微笑んでいた。
「
「えっ!!」
俺たちは面食らった。まさかここで農協の大橋さんに聞いた『元生徒さん』のことが判るなんて思いもしなかったからだ。
「その方、今はどちらに……」
「埼玉で自分の農園やってるんですよ、夫婦で。来週は
「っしゃ」池浪が小さく
「その時、また私たちもお邪魔してよろしいでしょうか……」
「ええ、もちろん」
「重ねて恐縮です。ありがとうございます」
施設内では中に入るまで、門の外からは分からなかったが
池浪は、何もはばかることなく中庭に出て、その様子を見に行った。俺もつられて
「どなたですか?」
池浪に話し掛けてきたのは、中学生ぐらいだろうか……眼鏡の少女だった。
「私たちね、施設長さんに自然野菜家族さんの野菜のお話しを
「由喜恵さん……のことですか?」
「うん。そうだよ」
「私は
奈菜実ちゃんの眼鏡の奥の瞳は、
「私は
「ゆきえママのおともだちなの?」
奈菜実ちゃんの後ろからひょっこり現れたのは、小学生にあがるかどうかの坊やだった。
「この子は
池浪は陸くんの前にしゃがんだ。
「うん。そう、ゆきえママのおともだち…… はい、これあげる」
その手に見せたのは、
「すごいきれいだね!これくれるの?」
「うん。あげる」
「ありがとう! ……あのね、わるいひとつかまる?」
「えっ?」
「ゆきえママにひどいことしたひと、やっつけてくれる?」
「…………」
池浪は少し黙ってこう言った。
「悪い人は絶対にやっつける」
「ありがとう、おねえさん」
「じゃあまたね」
俺たちは岸部さんに挨拶し、
「いいのか? 小石、あげちゃって」
「……ぷぷっ、いいんですよ」
「なんや?」
「天然小石が50グラム100円の
「お前は駄菓子屋のおばちゃんか」
「鳥嶋さんって、ご出身どちらですか?」
「東京」
「やや関西弁ですよね?」
「おお、中高と大阪の学校やった」
「私は知らないと思いますが、どちらですか?」
「
「うわっ……知ってる。警察署から犯人脱走した所」
「そっちかーい」
その後、俺たちはもう一度『わるいひと』のお宅へ行ってみることにしたのだった。
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