0104 評判

「シロシューキョー?」

 池浪は水筒のキャップを閉めながら老婆にたずねた。

「そうだよ、白い建物で、揃いの白い服みんなで着て、怪しいことしてるから、シロシューキョーだよ」

 ふーん。婆さんらしいわ。

「怪しいことって? 例えばどんなことでしょうか?」

 おお、それな。

「畑で怪しい草でも作ってんだろー、大麻か何かじゃないのかい? あー怖いわ」

「という噂…… なんですね?」

 ――どうせそれだけでしょ?

「うるさいね! 早く消えておくれよ!」

 ――はいはい。消えますよ。


「どーもー」

 池浪は老婆に粗品を渡して、俺に追い付いた。

「これは……ますます気になりますね。教団の資金源は大麻草だったのか?! 調べ甲斐がいある~ある~」

 かなり尊敬できる前向き思考だ。

 ――その後も、道行く地元の人たちに話を聞いたが、シロシューキョーとやらの評判は決まって良いものではなかった。ある人は『テロ集団だ』、またある人は『教祖は実は生きている』だの、微塵みじんもこの団体が地域の中に溶け込んでいた様子は感じられなかった。ただどんな対応だとしても、池浪は律儀りちぎにその都度、粗品を渡して歩いた。

「池浪、会社の付録のあまり物でも粗品に配ってるのか?」

「粗品? ああこれ、モンモリロナイトですよ」

 ――まさかの石プレゼント?!

「石もらって嬉しいのは、お前だけだろ?」

「そんなことありませんよー、このモンモリロナイトは、柔らかいのでくだいて畑などに撒くと肥料がわりになるんです!」

 池浪はすこぶるドヤ顔だ。

「ミネラルたっぷりで水槽の添加剤にも最適ですから、喜んでいただけますよ!」

 ――恐るべしモンモリナントカ!

 

「これは、結構な山道になりそうですね……」

 確かにそうだった。遠くから見えた『小高い丘の上』は、ふもとからは『山の頂上』だった。

「これぐらい、余裕やろ」

 そうでもなかった……。『スーツに革靴』の俺を尻目しりめに、池浪はアスリートのごとく先を行く。そして立ち止まり、何かを拾った……。


「また石か?」


 そしてそれをじっと見つめ、……投げ捨てた。

「なんでやねんっ」思わずツッコミがれた。

「鳥嶋さーん! 広いですよー」先にゴールした池浪は、こちらにサファリハットを振って呼び掛けた。

 頂上の光景は、俺が想像してたものとは相異あいことなっていた。陸上競技場ほどのフィールドには、ほぼ一面に農作畑が広がっており、噂の『白い施設』はその中央にアパート一棟ほどのたたずまいを見せていた。

「農作……畑だよな」

「大麻草はなさそうですね」

 そりゃ当たり前だ。

 ――畑の作物は、収穫されているものもあれば、そうでない場所もある。辺りに人の気配はなく、俺たちは『白い施設』に足を向けた。


「すみませーん! ……誰もいないのでしょうか」

「看板があるな……」

 

『無農薬・有機栽培のオーガニックファーム 自然野菜家族』

 

「普通……。ですね」

「ナントカ教、マルマル分院みたいな感じやと思ってたんだがな……」

「えっと、たしか殺された代表者のお名前は……<白峰由喜恵しらみねゆきえ>さんですね」

「死んだ場所は?」

「施設の敷地内……、だそうです」

 ――めちゃめちゃ広くてわかんねえわ。

「でも屋外……、なんだな」

「そうですね」

「ふ~ん。え~っと、郵便受けは~空っぽかな~」

「鳥嶋さん、さすがにそれは……」

 

梶谷かじたに不動産 ―見積書在中―』

 

「見積書? みたいですね……」

「……まあ、ここには誰も居ないみたいだし、まともに話を聞ける地域住民は居ねーし、この梶谷さんのトコ行ってみるしかないやーん」

「よっしゃー! じゃあ、とりあえず下山しましょー!」

 また来た道を戻るのかと思うと、いささか億劫おっくうに感じないはずはなかったが、やっとまともに話が聞ける相手に会えそうだと、復路の足取りはやや軽くなった。

「あっ! 鳥嶋さん! ちょっとこの石!」

「石はもうええわ」

 次、この場所を確認しに来る時は『タクシー』か『レンタカー』にする!

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