CHAPTER 6
22世紀を迎えた現代の東京においても、旧世紀を彷彿させる外観の建築物は存外に多い。次にヘンドリクスが足を運んだ、足立区の安アパートもその一つであった。
「――というわけだ。セイクロスト帝国の命により、地球守護の任を帯びている君にも是非、我々
「宣伝ってのは人を動かすためにも大切なことだからな。もちろん、拒否する理由なんてないぜ。このファイブスター家第44代当主、フルアクセル・ドミニオン・ファイブスター様にどーんと任せてくれ!」
「うむ、君にそう言ってもらえるのは大変心強い。……ところで、そのファイブスター家当主の君が、なぜこのような住まいに?」
「いやぁ〜、テルスレイド陛下から地球守護の任務を受けて、ウッキウキで地球まで来たはいいものの……勢いで飛び出しちゃったもんだから、無一文でさぁ。ここでフリーターやって何とか食い繋いでるってわけ! ささ、オレの特製もやし鍋、冷めないうちに食べちゃいな! 今ならなんと、ポン酢もあるぜ!」
「あぁ、うむ、貰おうか」
その一室で質素に暮らしている――フルアクセル・ドミニオン・ファイブスター、21歳。通称、アクセル。
かのセイクロスト帝国に仕える
身長は185cm。地球とは異なる世界の人類なのだということを感じさせる、白色の総髪。5色の輝きを宿す、切れ目の瞳。
窓辺のハンガーに掛けられている純白のショートジャケットは、優美な長身と甘いマスクを持つ彼にはよく似合いそう、なのだが――どてらを着てコタツに潜っている今の姿からは、あまり想像がつかない。
「……これはクーポン券かね」
「おおっと。たった数十円のクーポン券でも馬鹿にするんじゃあないぜ? クーポンを笑う奴はクーポンに泣く」
「……そうか」
「そうとも! しかもクリスマスセールとやらのおかげで、今週はショートケーキが安いんだ! 全く、地球の文化ってのは太っ腹だぜ!」
ふと、コタツの端に退けられていたチラシやクーポン券が目に入る。どうやら見た目以上に、聖騎士という由緒正しき出自からはかけ離れた暮らしを送っているようであった。
この地球での生活で学んだ教訓を格言の如く語り、ドヤァと胸を張る彼の背後では――「ファイブスター」という名の所以でもある、5体もの精霊達が呆れ返った様子で
燃えるような
鋭利な牙を持つ蒼き「海竜」、カイドラゴン。
部屋の殆どを占拠している「岩巨人」、ガンガイア。
翡翠色の甲殻で身を固める「風甲虫」、フウカブト。
桃色の翼をはためかせる「愛天使」、アイエンゼル。
彼ら5体は全員、アクセルに付き従う精霊なのだという。異世界の魔法といい、科学的にはまるで説明がつかない存在なのだが――呆れ果てたようで目を細めている彼らの姿は、なんとも人間臭い。
――だが。セイクロスト帝国の武官としてはトップエリートである、聖騎士達の中においても。
精霊1体を従えられるのは、類稀なる才能と弛まぬ鍛錬を積み重ねてきた、真の強者たる「精霊騎士」だけであると聞く。
それを、5体。ならば、このアクセルという男は一体、どれほどの修練を重ねてきたというのだろう。……尤も、当の精霊達は彼を主人と慕うどころか、呆れたように見つめているのだが。
「実はな、ファイブスター。君に頼みたい任務が、もう一つある」
「うん? おぉ、何でも言ってくれ。時給さえ弾んでくれりゃあ、レジ打ちでも土木でも配達でも皿洗いでも大活躍だぜ! 特に最近はヒーローショーに凝っててな、レッド役のスーツアクションなら――」
「無論、弾むとも。君が第1皇帝とのパイプ役を引き受けてくれるのであれば、な」
「――って、パイプ? ルクファード陛下のか?」
そんな精霊達から目を逸らしつつ、ヘンドリクスは本題を伝える。彼はアクセルに対して戦力としてはもちろん、異世界との「橋渡し」としても期待しているのだ。
「表立って地球と交流されているのはテルスレイド陛下だが、本来のトップは第1皇帝である彼だからな。貴重な聖騎士の命を預かる以上、お伺いは立てねばなるまい。元
「ははぁ、それで国連側の帝国人としてオレにパイプ役を……ってことか。そんなにやべー奴らなの?」
「機甲電人六戦鬼は強敵だ。恐らく6機全てと戦うことになれば、彼の『魔人』をも凌ぐ脅威となりかねん」
「……ヴァイガイオン以上、ねぇ」
鍋から取り出したもやしを頬張りながら、アクセルは目を細めて肘をつく。
聖騎士達の頂点に立つ、ジークロルフ・アイスラーが率いる精鋭部隊――SACRED-SABERSに所属していた彼は、かつて
そのテルスレイドの力を以てしても、1人ではまるで歯が立たなかった魔人ヴァイガイオン。今回の相手がそれ以上と聞き、彼は僅かに肩を震わせる。
――恐れではなく、昂り故に。これは地球でいうところの、「武者震い」であった。
「なるほどね……だいたい分かったぜ。しかしそういうことなら、『グランガルド王国』の姫さんに頼んだ方がいい」
「なに……? 君は、『レグティエイラ』を知っているのか」
「なんだ、知らなかったのか? 皇族との付き合いが長い上流貴族なら、みんな知ってるぜ。あの姫さんとルクファード陛下は、古くからの幼馴染だってよ」
その誘いに乗る一方で、彼はもう一つの用件に対しては、別の人物を頼るよう勧める。それはヘンドリクスの友人にして、異世界の王女でもある1人の女性であった。
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