霧島連山・高千穂峰で死にそうになった件(8)

下りはもう、滑り降りてくるという感じだった。もうもうと上がる砂ぼこりの中を。


一瞬ラクそうに聞こえるけど、私の足はすでに筋肉痛に冒されており、踏ん張りが利かない。ひざもワラワラ笑っている。油断してると、ひざからカックンと崩れ落ちそうだった。

しかし、バスの時間を考えると、時間を稼げるところでは急いでおくに越したことはない。


決して調子に乗ったわけではないのだけど、できるだけいいリズムで下りて来ていた。そして、立派な階段の、礫に埋もれて段をなしてない坂道を下り切り、自然の形状を活かした形で足場を整備してある少し狭いルートに来た。


そこで見事にやらかした。

私はわずか2、3個の礫で足を滑らし、悲鳴とともにまともにおシリから地面に着地した。そして、ちょうど私のおシリの真ん中にほどよくハマるくらいの岩の出っ張りがあったため、尾てい骨に激痛が走ったのだった。

その痛さではっきりとわかった。尾てい骨に、最低でもヒビが入ったと。


少しの間、立てなかった。心配する木村さん。

何とか立ち上がって、痛いけれど歩けそうなことがわかると、木村さんは私のリュックを貸してと言って、自分のリュックのフックに引っ掛けた。

私のリュックはお出かけ用のおしゃれなもので、背中でワサワサ揺れるような不安定なものだった。それを見かねたのだと思う。

そして、「やっぱり、靴が滑るんだね」と言った。


振動が伝わるたびにお尻は痛かったけれど、身軽になったおかげで少し気持ちも軽くなった。先を急がねばならない。

足元に意識を集中して、慎重かつ大胆に下りていった。下りでは、一歩ごとにしっかり踏ん張っていると、体重がかかる足の筋力はますます保たなくなってくる。ある程度素早く軽快に歩を運ぶ方が、むしろ負担が少ないのだ。


やっと、滑落の危険と隣り合わせの馬の背まで来た。

足はワラワラしていたが、ここでは逆に踏ん張らないと危ない。ひざがカックンとなったら大変だ。また、左右の崖下や遠くの景色を見ないようにしながら、気をしっかりと持って歩く。

——何とか滑落せずに乗り切った。


そしてついに、この日最初に自分の無謀で浅はかな”見たがり・知りたがり・やりたがり病”を呪った、あの急斜面の岩場のてっぺんに降り立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る