霧島連山・高千穂峰で死にそうになった件(7)
せっかくの見晴らしだったのに、見るべきものも見ずに、私はなんとか馬の背を歩き切った。
ふだんだったら景色を見ないなんて残念に思うところだけど、とにかく生還することが目標だ。
また水を飲むなどして軽く休憩したあと、これまた途中をあまり覚えてないのだけど、最後の「本当にずっとひたすら上へ上へと登る」ところに話を進めたい。
もはや記憶が曖昧なところもあり、行程が前後したりしてるかもしれないけれど、馬の背のあとも登山道として足場の整えられたところを登って来たのだと思う。
そして、最後のところは、本来ならちゃんと階段として整備されてるようなルートだった。手すりも、人工的な段々もあるようだった。本来なら。
ところが、話によると、数年前に近隣の山が噴火して、その時にトンでもない量の細かい礫が飛んできて、階段などすべてを覆い尽くしてしまったらしい。それでしばらくは登山も禁止になっており、2年前に解禁されたばかりなのだと言う。
大豆前後の大きさの無数の礫が降り積もった、もはや階段とは呼べない坂を上る。一歩足を踏み出し、3分の2ずり下がって、それ以上下がらないように踏ん張る(坂になった砂浜を登ると思っていただくとよいかと)。手すりで体を支えるために腕の力も使う。一歩以下ずつしか進めないのに、使うエネルギーは一歩以上なのだ。もちろん、ずっと上りで。
ここへ来て、私のわずかに残ったエネルギーもいっぺんに奪い取られ、一気に機嫌が悪くなった。人間、いや私の場合、あまりに体がつらいと不機嫌になる。もう愛想笑いもできないどころか、普通の顔や怒った顔すらできない。能面でムッツリ、表情がなくなるのである。
歩いても歩いても上に行けない。
木村さんは、あの必殺の靴のおかげが、私から見るとラクラクかと思う感じで上っていく。ここでも、また、ものすごい差がついた。
最後、もう目的地が見えているのに、そこで四方八方から天の逆鉾を舐めるように鑑賞し写真を撮ってる木村さんが見えるのに、私はまだ礫地獄の中でもがいていた。
いい加減、木村さんが下りて来て、急がないと帰りのバスに乗れないと急かしてきた。
すみません、わかってるんですけど、進まないんです。。。
でも、どんなに遅くても、機械的にでも足を動かしていればいつかは着く。木村さんに付き添われる形で、私は何とか目的地に到達した。
そして、ヘロヘロ朦朧の状態で天の逆鉾を写真に収め、木村さんに「せっかくだから、ここまで来たという印に」と大急ぎで促されて、天の逆鉾の前に立たされ写真を撮られ、さあ、もうすぐに下りなければ! という感じで、文字通りあっという間に下りの途についた。
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