霧島連山・高千穂峰で死にそうになった件(5)

木村さんは、この斜面のとりあえずのゴールまで登ったところで、立ち止まって待っていてくれた。遠くて、どんな表情をしていたのかはわからない。ただ、登山口でいっしょになってしまったのが運の尽き、とは思っていたに違いない。


無様な格好で私が斜面を這いつくばって上っている間、朝から登っていたと思われる人が何人か、すごい勢いで転がるように下って来た。

若い女の子が一人で、私よりずっと年上のオッちゃんも一人で。

オッちゃんは「おぉ、ここはキツいよねぇ。がんばれがんばれ」と声をかけてくれた。


今回は、私は夫の出張について九州に来たのであり、いっしょに大分の温泉に一泊し、翌日に夫は福岡へ仕事に、私はその間、開通間もない(?)九州新幹線でぐるっと九州を一周して、最終日に福岡で合流していっしょに帰るということになっていた。こんなところで朽ち果てるわけにはいかない。


もはや、「待ってろ、くまモ〜ン!」どころではなく、「(夫の)M夫くんに会うんだ」。その一念だった。


これは、過酷な登山なのだ。

私はようやっと観光モードを振り捨てて、この難局を生き延びると覚悟を決めた。


表面の硬い土が靴にこすられて時々さらさらと粉っぽく浮いてくるために、何度も足を滑らせながら、岩場を這い上がる。ただ、目の前の岩の出っ張りだけに意識を集中して。

そうやってヘロヘロになって、やっと私は木村さんのところに到達した。

あと少しというところで、木村さんが手を出して引っ張り上げてくれた。


水を飲んで休憩しようと言ってくれた。水を飲むということすら、私は頭になかった。靴を見せてと言う木村さんに見せると、「この靴ではキツいね」と。自分の靴底を見せて、こういう靴じゃないとと言う。

深くて太い溝のついた、ごつごつした靴底だ。溝というより、ソール素材の太いスパイクがたくさん突き出てるという感じ。


一方、私のエアロビシューズは、フローリングの床を傷つけず、なおかつツルッと滑らないようにということで、全体的にはぺったりと平板で、おそらく靴底の柔軟性を高めるための細くて細かい溝が張り巡らされているだけだ。砂粒くらいしか挟まらないような溝だ。しかも、足を包む部分も柔らかくて安定感がない。


こんなところからして、もうダメダメだったのだ。

それにしても、初心者向きの山はどこへ行った!? 全然、じゃないんですけど?


その直後の行程をよく覚えてないのだけど、ほどなくして今朝のプラットホームで小耳に挟んだ話を思い出させる場所があった。


か・つ・ら・く。

この4文字とともに、私には実は山というものが合わないのかもしれないと思い知ることになる。

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