霧島連山・高千穂峰で死にそうになった件(4)
そして、だんだん山っぽくなって来た。目の前に、「これが山の裾野だ」とイヤでもわかるような光景が現れた。近づいてその領域に足をかけてみると、硬い岩盤の表面が乾いた土で塗り固められてるような感じで、ところどころゴツゴツと大小の岩(?)が突き出している。
木村さんは器用にひょこひょことそういう出っ張りに足場を取り、サクサク登っていく。
一方の私。なんだか足元がずりずり滑る。傾斜もそれなりにあり、とてもじゃないけど二足歩行では進めない。出っ張りに足だけでなく手もかけて、這いつくばるように登るしかない。これが誰かのブログで見た、小学生女子が泣きながら登ったというところじゃないかと思い当たる。木村さんとの距離はどんどん離れていった。
私は、このあと九州新幹線に乗って、熊本へ行くことになっていた。
ここを乗り切れば、晴れてくまモンに会えるんだ!
「待ってろ、くまモ〜ン!!」と心の中で自分を鼓舞し、とにかく「登って下りて完了させる」ことだけを目標に(天の逆鉾はもはや吹っ飛んだ)、がんばった。それしかない。
木村さんは時々振り向いて、少し待つようなそぶりを見せるのだけど、なんだか差があり過ぎて申し訳なくなってきた。
そこで、殊勝にも私は「申し訳ないので、どうぞ先に行ってください」と笑顔で呼びかけた。すると、いいんですか? って感じで、心配そうながらも木村さんは自分のペースで上がっていった。
私にとってはほとんど絶壁のように見える山の斜面。見上げると、あそこでこの斜面はいったん終わるのだ、という縁(へり)のような部分が見える。さらにその先はここからは見えない。
ため息をついた瞬間、私はぐゎんと目まいを感じた。体調的には生理の終わりかけくらいだったので、そんな時にこんな目に遭わされた体が、ちょっと貧血っぽくなったのかもしれない。
やばいやばいやばい。
諦めて下りた方がいいだろうか。しかし、ここまで来て逆鉾見ないで帰るのか!?
……それはしたくなかった。
しかも、下りるとしたら…と振り向くと、「ここを一人で下りたくない!」というくらいの急斜面が広がっていた。私はたった一人で、何というところに貼り付いているのだろうか。ぴゅ〜と寒々しい風が通り過ぎる。
吹けば飛ぶような小っぽけな虫けら状態だった。
進むも地獄、退くも地獄、とはまさにこのことだった。
なにより、今この瞬間、(私にとっての)絶壁にへばりついていること自体あまりに心細くて、足がすくんでいた。
あとちょっとで、この斜面を登り切ろうとしている木村さんの遠い背中に向かって、私は叫んだ。
「すみませーん。すみませーん」
やっと聞こえて振り向いた木村さんに、涙目になりながら懇願した。
「やっぱり置いていかないでください! 自信がないです」
(なんて迷惑な素人なんだ。。。)
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