私も脱藩してみる(3)
山の上の檮原のバス停に降り立つと、吹き渡る風の音とうぐいすの声しか聞こえない。時が止まってるみたいだった。
さっそく道を訊きたかったけど、誰も通らない。
とりあえず、役場へ行けば観光案内が受けられそうということで、そっちの方へ歩き出すけれど、どれくらい歩くのか、この道で合ってるのか(←常にこれが問題)、やっぱり確かめたい。
そう思いながら、うぐいすの高らかな美しい声を聞きつつ歩いていると、その声に人間の鳴きまねの声が混じってるのに気づいた。見回すと、一人のおばあちゃんが「ほーほけきょけきょ」とこれまた高らかに歌いながら歩いてくるのが見えた。
おばあちゃんに役場の場所を聞いて無事に辿り着き、役場の人が交代で対応してるらしい観光案内を受けて、脱藩ルートマップみたいなのをもらって、また歩き出した。
途中で、博物館か郷土資料館みたいなところで、歴史を含めたこの周辺の知識をちょっとなぞった。
結局、「脱藩の道」は森のような林のような木立に添って続いている、どちらかというとそれほど特別感はない感じの道だった。舗装されてはいなかった気がするけど、もっと、けもの道みたいなワイルドなものを想像していた。
しばらくその入り口(?)にたたずんで、道の続く先を眺めた。
晴れてて気持ちがいい。風もさわさわとさわやか。そして、誰もいない。
乙女ねーやんに別れを告げて、熱い志を抱いてこの道を急いだ龍馬。
の、後ろ姿が見えるような気がした。時間が一気に150年くらい後戻りしたような、不思議な感覚を覚える。
いや、苦労して(私が)ここまで来たのだから、それくらい感じて帰りたい。
なので、一生懸命、龍馬に思いを馳せ、目の前の風景を心に焼き付けました。
そして、少し私もその道を歩いてみた。全部歩き抜こうとすると時間内に帰れなくなるので、ほかにも見たいものもあったし、ちょっと脱藩して、すぐ引き返した。
それでも、あの時の空気感は今でも鮮明に感覚として残ってます。
あとは、龍馬関係の銅像があるところを見たり、家はそれなりに並んでいるのに人の姿がほとんど見られない村の道を歩きながら、こういうところに住んでいたら、どういう暮らしなのだろう? と想像したり。
時間配分で失敗したら帰れなくなるので、計画を粛々と進めていたら、帰りのバスまでにけっこう余裕ができてしまった。
バスの待合所で、明日以降の予定をどうするかガイドブックを眺めていると、どうしても誰かに確かめたい事案が出てきた。
そこで、さっきから待合所でしゃべっているオッちゃんたちに教えてもらおうと声をかける。確か、地図を見せて、行き方とか所要時間とかを訊いたんだったと思うけど、それで紹介されたのが、これまで散々話に登場してるタクシーのオッちゃんだったというわけでした。
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