私も脱藩してみる(1)

「龍馬が脱藩した時に通ったルートというのがある」

「一部が特定され、(檮原(ゆすはら)というところに)今も道として残っている」


このように聞かされたら、行かないわけにはいかない!


というわけで、「私も脱藩してみよう」と檮原行きを旅程の一番に入れていたのだけど、山の上なので遠い。バスで一日がかりだ。しかも公共交通機関で行くには接続が不便で、乗り間違いなどのちょっとの時間のロスも許されない。何かを間違うと、そのあと1、2時間はにっちもさっちもいかないってことになる。


で、いつものお約束発動となるのだが、期待を裏切らないわたくし、さっそく降りるべき駅を乗り越しました(ガイドブックを熟読していたせい)。


気づいたのは、その駅を発車してすぐ。慌てて車掌さんに駆け寄り事情を話したのだけど、その間も列車はゴトゴトと進む。もちろん止まるわけない。

でも、車掌さんはいい人で、よっしゃ、まかしとき! とばかりに、次の駅で降りて待っていてくれたら、この列車が折り返してくる時に回収して、降りたかった駅までタダで連れ戻してあげるってことになった。


助かるわ〜と安心した私。

次の駅で「じゃあ、よろしくお願いします」と、無人駅のホームに降り立った。

そこで、すぐに気づいたのがエラい! 本当に危なかった。

列車が折り返してくるのを待っていたら、檮原行きのバスに間に合わない!!


じ、じゃあ、どうする!?

見回せば、無人駅の周りは草ボウボウの田舎の風情。タクシーどころか、自家用車どころか、人っ子一人、いや子供が二人通り過ぎたが、そんなもんだった。


檮原行きのバスの乗り場は一駅向こう。列車の来た方向へ歩いて戻れば着くのだろうか?? でも、距離も所要時間もわからない。


とにかく、ここでアタフタをやめて黙っていても、何も解決しない。というわけで、「誰かに道を訊くか、タクシーが拾えるところを教えてもらおう」と、人のいそうな方向へ歩き出した。

ほどなく民家が並ぶところに出た。でも、人っ子一人歩いてない。なら、ピンポンする?


迷っていると、とある車庫の中に人影が見えた。

反射的に「あの人を捕まえなければ、あとがない!」とダッシュで駆け寄り、「檮原に行きたいんですけど、降りる駅を間違えて、バスは○分後で……どこかでタクシー拾えませんか!?」と必死で訴える。


すると、呑気な(?)おじさんは呑気な様子で「タクシーねぇ……なんなら、おれが送ってあげようか?」と、もう天の助けとしか言いようがない僥倖を得たのでした。


もう大船に乗ったつもりでおじさんの小型トラックに乗って、「どこから来たの?」など世間話をしてると、「ところで、正直に答えてほしいんだけど、おれは若いお姉さん(←注目!)を乗せてうれしいんだけど、こういう時、知らない男の車に乗るのは怖くないのかい? おれが、おじさんだから大丈夫と思った?」と訊いてきた。

確かに。

「いえ、とてもいい人だと思ったので、そういうことは考えなかった。おじさんは、おじさんじゃないですよ、頼りになりそうでかっこいいですよ」みたいなことを言ったと思う。

そして、「もう、すぐそこやき」というころ、私は思わずおじさんの手を取って「おじさん(←しっかりおじさん呼ばわり)、本当にありがとうございました」とお礼を言った。


バスにも余裕で間に合って、私ともう一人同じ年代くらいの男性を乗せて、一路バスは檮原へ。

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