第5話 分りにくかった文革
1967年から68年にかけて、世界では〈スチューデント・パワー〉の嵐が吹き荒れた。私の大学3年、4年のときである。フランスでは学生街カルチェラタンでは激しいデモが連日行われ、最後はド・ゴール大統領が軍隊を出動させてこれを鎮圧する事態になった(5月危機)。アメリカではベトナム反戦運動・公民権運動に学生やマイノリティーが先頭に立った。日本では学園の民主化を求めて全共闘の嵐が吹き荒れた。中国でも若い紅衛兵達が毛語録を手に「造反有理」を叫び行進した。
若者たちの反乱?西側のそれとは違った。毛沢東は彼らを謁見し、代表と握手しているではないか。
今では文革は毛沢東が劉少奇・鄧小平らの実権派に仕掛けた権力闘争とされるが、中国の情報の鎖国によって分りにくかった。本を読んだが、知識人の間でも評価は2分され、すっきりとするものはなかった。
国家主席劉少奇が人民大会堂で北京大学の学生や紅衛兵に糾弾されたときこのように語った。
「プロレタリア文化大革命をどのように推進するのか、君たちははっきりと分っていない。君たちからどうやって革命をするのかと聞かれれば、正直なところ、わたしにも分らない。おそらく多くの党中央の同志や、工作組のメンバーも分らないのではないか」。
劉少奇すら分らないこの革命、分っていたのは毛沢東だけということになる。
この1週間後、毛沢東は壁新聞で「司令部を砲撃しょう―わたしの大字報」を出す。司令部とは「反動的なブルジョア階級の立場に立つ」、実権派を指す。そうしてもう一つの司令部を作る。それが江青を頭に置いた文革小組である。「大胆に造反する。造反しないのは100%修正主義(資本主義の道を歩む)ということだ」と毛沢東は語る。紅衛兵たちはわからないまま、小組の出す指令に従って実権派幹部を次々連れ出し恥辱の三角帽を被せ、殴打し、糾弾した。その嵐はすさまじく、遂には国家主席劉少奇に及び失脚し非業の死を遂げるに至るのである。
毛沢東は政策の失敗によって、実権から遠ざけられたが、革命の英雄である。崇拝の対象ですらあった。実際の革命に遅れてきた世代が「革命に参加したかったのだ」と私は理解する。これを上手く煽り利用したのが毛沢東だと云える。さすが革命の戦略家である。
1966年から10年間大学の入学試験は行われなかった(労、農、革命出身階層や政治活動歴で選抜)。大学は教育や研究の場ではなく、政治運動の場となった。行き過ぎて邪魔になった紅衛兵や学生、文革に反対の大学の学者・研究者などの「知識分子」は、労働の実態を知るべきである、として、各地方の農村へ派遣(下方)された。
劉少奇が失脚(党除名)したのは68年10月である。ここで終わらず、その後長引いたのは実権派の勢力が軍や、地方幹部にいかに根を下ろしていたか語っている。劉少奇は切ったが、鄧小平は除名させず首の皮一枚でも残しておかねばならない理由がここにあったと思う。
毛沢東は、鄧小平の力量は認めていたが、その考え、路線はつねに警戒し否定していた。文革路線さえ継続してくれるのなら彼が後継でもいいと考えていたが、鄧小平は文革には最後まで首を振らなかった。毛沢東が最後に後継に指名したのが華国鋒、中間の繋ぎである。江青ら4人組造反派(文革路線は彼らであるが、彼らでは国を纏められないと毛沢東は見ていた)VS鄧小平ら改革派の決戦になり、多分鄧小平が勝ち残るだろうと、毛沢東は読んでいたと思うのである。
江青は小組のメンバー以外本当に嫌われていた。それも知ってなぜ毛沢東は?江青は毛沢東の名を使っても彼を絶対裏切らないとみていたからだ。毛沢東はNO,2を絶対信用していなかった。劉少奇、林彪しかり、周恩来はNO2には絶対なりたくなかったと云われている。江青ら4人組は上海グループと呼ばれ、新華社や人民日報の宣伝分野を握っていた。鄧小平は自分は軍人ですいというぐらい軍部を掌握していた。古参の将軍たちはみな鄧小平を認めていた。その将軍たちを追い落とす、軍に文革の拠点を持ちたい、江青と林彪が手を結び紅衛兵後の文革を担ったのである。こうして林彪はNO2毛沢東の後継者指名を受ける地位まで上った。毛沢東は林彪を抱き込むことによって軍を掌握したことになる。文と武が権力の二輪車なのである。上海グループも毛後継を握りたかった。江青VS林彪となった。林彪が毛沢東を暗殺するクーデターに失敗して飛行機で逃げてモンゴルで撃墜された林彪事件は全く謎の多い事件である。わたしはクーデター計画を立てなければならないところまで追いつめられた。それも察知されていて上手にはめられたとみている。
本来ここで、江青4人組の天下になるのであるが、林彪事件は毛沢東の威信を傷つけたことは間違いなっかった。それと毛沢東は林彪後の軍の混乱を何よりしんぱいしたのである。鄧小平の呼び戻しはこうしてなされた。江青VS鄧小平(+周恩来)の構図になっていよいよ文革はラストページになっていくのである。
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