拝啓 過去の自分へ

春日井 帝蘭

今思えば、それが終わりの音だった。


 カランコロンと、どこか遠くで音がした。否、目の前で鳴った音だけれども、どうしてか遠くで鳴ってるような気がして、それほどまで私は動揺しているようだった。


「あ〜ぁ、箸ちゃんがぁー」


 そう適当に呟く相方(不本意ながらこの表現が一番しっくりくる)の言葉も、目の前というか、窓の下で現在進行形で起きている出来事も、どこか非現実じみていて。


「……はは、夢か。これは夢だな」


 馬鹿みたいな、現実逃避まで始まっていた。頭の片隅にいる、何処か冷静な私は、現実だと受け入れ始めたが、心の方はどうしても受け入れられなかった。


「今日が夢なら良かったよね……小テスト……。って、さっきから何見てん……って、ふーむ、なるほど」


 一人ボケツッコミならぬ、一人会話をして納得した相方の視線は、私と同じ窓の下に向いていた。


 ──正確に言うならば、私達がいる二階の教室から見える、一階の渡り廊下に。


 夏は暑さに、冬は寒さに晒される、外に剥き出しにされた渡り廊下には、一組の男女が立っていた。


「いや〜、まさかホントに実践する人っているんだねぇ」


 今にもケラケラ笑いだしそうな声音で相方はそう言うも、私は同調して笑うことは出来なかった。


 都市伝説、迷信、学校の七不思議、それらに類する、思春期特有の有名な噂話。


 曰く、件の場所で告白すれば永遠に結ばれる、だの、絶対に告白が成功する、だの、在り来りな話。


 普段の私ならば、


「え、マジ?夢じゃないの?うわぁ、マジでやるやついるんだ!」


 とでも言いながら、それはそれは楽しく愉快に、二、三日は笑いの種として話していただろう。


 ──向かい合っている男女の片割れが、私のよく知る人物でなければ。


「って、あれ?もしかして告られてんのって……」


 そう、よく知る人物で、尚且つ、認めたくはないが、そう、認めるのは癪だが、私はその人物に対して──


「センパイじゃん」


 俗に言う、恋心を抱いていたのだった。


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