第13話

『はーいという訳でにげましょー。』

「ココブコココ?(急になげやりになってないか?)」

創造主の声がゆるい。


『たった今こっちの方で嫌なことがあったんだよ~。まぁ、気にすんな。』

「…。」

とてつもなく気になるのだが…。先ほどまでとのテンションが違いすぎる。


「救世主様、一度城にお戻りください。」

「ココブン?(姫はどうするのだ?)」

「私はここに残り全体の指揮を取ります。本来指揮をとる騎士団長が魔物を抑えておりますので。」

姫がそう言い前方を見る。前方からは騎士達の怒声と魔物の咆哮が響いてくる。

オデがちらりと前方の戦闘光景を映した映像を見ると、騎士団長が最前列に立ち魔物と相対していた。近くの騎士に指示を出しつつ継ぎ接ぎ魔物を切り伏せていた。確かにこれでは全体の指揮は執れないだろう。


「いえ、姫もお逃げくだされ。」

とここで、オデと姫が乗っていた馬車を操縦していた壮年の男が声を挟んだ。

「じぃ。」

姫が壮年に向かいそう言った。その声は少し安堵した声であり、顔つきが和らいでいた。

だが姫は少し目を瞑り、数秒のち瞳を開けると再び先ほどまでの凛々しい顔に戻っていた。


「いいえ、私はここに残ります。全体を指揮する者がいなければあの魔物を倒すどころか、この場に抑え続けることもできない。すぐに隊列が崩壊します。」

姫がキッパリとそう言った。


『アイスクリームやけ食いなう!』

「…。(創造主うるさい。)」


「ええ、姫のおっしゃる通りです。もうすでに前方の戦闘組と中方の控えとの連携が危うい。すぐに指揮をとる必要があるでしょう。…ですがそれは姫でなくてもよいはず。」

壮年が深々と礼を取りながら言う。


「では誰が指揮を執ると言うのですか?」

姫が壮年を見つめて問う。


『はいはーい!俺がとる~!ストラテジーゲームで鍛えた腕を魅せてやんよ!』

「…。(…。)」

大事な場面での茶々入れはやめて欲しい。


「私が。私が指揮を執ります。」

そう言って壮年が姫を見つめ返す。

しばし沈黙が流れ


「そうですね。」

そう言って姫が少し微笑んだ。

「じぃ…。かつて騎士団長としてこの騎士団を率いて無敗を誇っていた貴方ならこの状況を立て直せるでしょう。」

姫が静かに言った。

それに対して壮年は黙って頭を下げている。


「分かりました。貴方にこの騎士団の指揮を任せます。」

『うっアイス食べ過ぎた。』

「はっ。」

姫の命令に壮年が敬礼をとる。その礼はとても自然で美しかった。

もう創造主のことは無視する。


「ですが騎士達の隊列が立て直るまでは私が指揮を執ります。じぃはその間は補佐をお願いします。」

「大丈夫ですか?」

「心配無用です。私も王族として軍の指揮を学んでいます。じぃ程までとは流石にいきませんが上手く立て直して見せます。それが王族としての私の役目です!」

姫が凛々しい声で言い切った。


『俺もトイレに行ってお腹の調子を立て直して来るぜ…。』


「じぃ。貴方こそいいのですか?引退後は老害とならないよう騎士団には関わらないようにしていたのでは?」

姫が壮年に聞く。

「はっはっはっ。それこそ心配無用ですぞ姫。私情を優先して姫を危険な目に合わせるほど老いぼれてはおりませぬ。」

『はっはっはっ。もう俺のお腹は心配無用!もう一度アイスだって食えちゃうぜ!』

壮年は愉快そうに笑い、そして目を鋭くした。


「頼もしいです。…では救世主様しばらくのお別れです。護衛を付けますのでどうか安全にお逃げください。」

姫がオデに向かってそう言った。


「こぶぶ。(わかった。)」

結局オデはここにいても役には立たない。

姫はオデに護衛役として彼女の侍女を付けてくれた。


『おお~いわゆる戦闘メイドって奴?モノホンだ~!』

「こぶぶ!フゴココフブ(逃げよう!二人とも無事で。)」

オデはそう言って(姫と創造主にしか通じないが)侍女と共に走りだした。



それにしても創造主がやかましかった。

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