第11話 

『おーい、魔物やーー出ておいで~。』

「…。(やめろ創造主。)」

『別にいいじゃないかマイモンスターよ。どうせ俺の声はマイモンスターにしか聞こえないのだし。』

「…。(そういう問題ではない。」

 一応後方にいるとはいえ、何が起きるか分からんのだ。危険な目には会いたくない。


「救世主様。前方の騎士らより連絡が入りまして、前方の方に複数の魔物が現れたようです。」

「こぶ!(なに!)」

 思ったそばからあらわれた。


『おいマイモンスター!その魔物を見に前方へ移動しようぜ!』

「…。(拒否する。)」

 戦闘に巻き込まれたらどうする。

 だが、今後の為に魔物がどんなものか見てみたい。どうにかして後方から見れないものだろうか。


「姫様。前方の物見の者より魔法通信が入りましたのでお見せいたします。」

「お願いします。救世主様もこちらへ。」

「こぶ。」

 馬車の外から従者の1人が声を掛けてきた。

 魔法通信とやらで前方で行われている魔物と騎士団の戦闘を映像で見ることができるらしい。


『へーテレビ中継みたいで便利だねそれ。さぁマイモンスター早く見てよ。』

「…。(分かってる。)」

 オデは従者が映し出している映像を姫の隣に座り見る。姫の侍女が見易いように移動してくれた。


『どれどれ、魔物はマイモンスターより醜いかな~。』

「…。」

 無視する。

 映像を覗くと大型犬くらいのタヌキっぽい生物数体が、隊列を組んだ騎士団に飛び掛かっていた。騎士団は慣れているのか魔物の攻撃を盾で受け流し、その近くの他の騎士が剣で攻撃していた。もうすでに戦場には無数の魔物の死骸が転がっていた。


『意外とアニマルな魔物だな~。これじゃあマイモンスターの方が見た目化け物だよ~。ぶー。』

「…。(創造主は何を期待してるんだ。)」

 まぁだが魔物を見た感じ、思っていたよりも危険はなさそうだ。騎士団が強いってこともあるだろうが。


「どうですか救世主様。」

「コブブノコ。(魔物の動きが単調で戦いやすそうだ。)」

 魔物は突進しかしていない。


「あの魔物は低位の魔物でして、御覧の通り知能は低いのです。サイズ的にも小型に類しておりますし。ただ集団で行動し、夜中に森を出て近隣の畑などを荒らすため、ほっとくと国民に甚大な被害を出すのです。」

「こぶ。(そうなのか。)」

 映像を再びみると、木々の間から続々とあの魔物が這い出てきていた。

 この数が畑を襲ったら確かに被害はとんでもないことになるだろう。


『本当に動きが突進の一辺倒だなこいつら。魔王センスないな。く~俺だったらもっといい動きをするモンスターを作り出せるのに~。』

「…。(創造主は何に対抗しているんだ。あと魔物は魔王が作り出しているなんて話はあったか?)」

『あれなかったけ?でも大抵の物語では魔王が魔物作り出しているし、この世界でもきっとそうに違いない!』

「…。(創作と現実を混ぜ合わせるな。)」

 こんな大量の魔物を作り出すとなるとどれぐらいの労力と時間がかかるだろうか。それを考えれば魔王が魔物を作り出している説は無いだろう。


「それにしてもやはり変ですね。」

「コブン?(なにがだ?)」

「事前に聞いていたとはいえこの量の魔物は流石に驚きです。そしてこの大軍の魔物をつい先ほどまで周辺住民や巡回兵等が気が付かなかったなんてありえません。」

「コブノコココ。(違う地域からやってきたのでは?)」

「違う地域からやってきた線も少し考えましたが、この森の周りは平原と住居スペースで囲まれています。平原には常にとは言いませんが夜中も警備巡回兵が見回っておりますし、本道と比べ少ないですが商人や魔物ハンターの方などが通る道もあります。」

「こぶ。(そうなのか。)」

「そしてなにより、この森にだって狩人や魔物ハンターが入ります。従者に軽く住民たちに聞き込みや魔物ハンター事務所を調べさせましたが、ここ最近において森に入り行方不明になったものや怪我を負ったものはいないとのことでした。本当にこの魔物らが突如として現れたとしか思えません。」

「コブブ。(突如としてか。)」

 魔物らが突如としてこの場所で産まれたとかありえるだろうか。


『お姫様の言う通りなら確かに変な話だね~。』

「…。(創造主は何か思いついたことはあるか?)」

『う~ん。いくつかあるけど…。1つは何者かが魔物をこの森に運び込んだ説。』

「…。(この大量の魔物をか?)」

 それは流石に無理だろう。


『まぁこの方法は俺ならこうできるって話だからね~。マイモンスターを始め俺が作るモンスターは初めはこぶし大の石状態なんだよ。それに力を注ぎこんで発現させるって方法を取っている。理由は持ち運びしやすいから。作ったモンスターをすぐ使うってことは滅多にないからね。』

「…。(なるほど。それならば可能か。)」

『だけどこの場合だと、大量のモンスターの発現だからとんでもない量の力が必要になる。』

「…。(ならできないか。それともかなり力のある者が持ち込んだのか。)」

『まぁ、発現させるのに力が必要ないって可能性もあるし、この方法も可能性の1つでしかない。』

「…。(ふむ。他にはあるのか創造主?)」

 意外にも創造主がちゃんとした考えをしていて驚いた。ほかの可能性はなんだろう。


『ん~他には。ファンタジーな世界だし空間を越えてやってきたとか、なんなら地中を掘ってきたとか、人に化けてきたとか。』

「…。(なんでもありだな。)」

『ヒントが少ないからね。想像ばかりが広がっちゃうよ。』

「…。(まぁしかし逆に色々な可能性があることが分かった。)」

 ひとまずはこの魔物の群れを騎士団が退治してから考えればいいだろう。


「っ!これはなんですか!?」

「?」

 突如、オデが創造主と胸中で会話している横で映像を見ていた姫が声を荒げた。それと同時に前方の方から大勢の怒声が響き始めた。

 オデは慌てて映像を見る。そこには一戸建てぐらいの大きさのある化け物が騎士団の前に現れていた。

 その大魔物は腕が4本あり、体の表面は石やコケで覆われていた。大きな口があり、その口でタヌキ魔物の死骸を頬張っていた。

 騎士団が切りかかろうとするも、腕で薙ぎ払ってくるため近づけないでいた。


「固まらずに囲め!一カ所に集まれば腕を避け辛くなるぞ!」

 映像の中で騎士団長と思わしき人物が声を出している。


「誰か。」

「はっ。」

 姫が人を呼び命令する。

「未知の大型魔物と遭遇と王宮に伝達を。それと騎士団員を数名連れて行き、念のために避難所に避難させている周辺住民を王都の城壁の中まで避難させなさい。」

「承知いたしました。」

 従者の1人が近くにいた騎士団員に声を掛け、連れて行った。


『おー面白くなってきたな!』

「…。(他人事だからと。)」

『よーしマイモンスターよ。俺らも逃げるとしようぜ。』

「…。(意外だな。創造主なら戦闘に参加しようぜとか言うかと思ったのだが。)」

 何を考えているのだろうか。


『流石にガチでやばそうな時くらいは真面目な意見を言うさ。状況を見た感じ、誰もあの大型魔物のことを知らないみたいだから用心に越したことはない。実はあの魔物は「RPGの物語終盤ボス級の魔物です!」とかだったらしゃれにならんだろう。マイモンスターなんかひとひねりで潰されちゃうかもしれないぜ。』

「…。(騎士団と大型魔物の戦闘風景を見た感じ流石にそこまでは強くなさそうだが確かに用心に越したことはないか。)」

 何が起きてからでは遅い。


『というわけで逃げよう逃げよう!』

「…。(だが。)」

 姫をちらりと見ると、映像を見ながら周りの従者に色々と指示を出している。普通なら姫が一番初めに逃げなければいけない立場であるはずなのに。


『お姫様は仕事あるみたいだし、ほっとこうぜ。マイモンスターがただ居てもじゃまなだけだろう。』

「…。(確かにそうではあるが。)」

 逃げ出した後に王宮での待遇が悪くなったらどうするのだ。


「救世主様。」

「こぶ。」

 オデの視線に気が付いたのか姫が声を掛けてくる。


「救世主様はお逃げください。相手は戦闘力が未知数の魔物です。万が一救世主様に何かがあったらいけません。救世主様はこの世界の希望です。どうかお逃げください。」

『うお~過保護。まぁ姫もそう言っているしぜ!』

「…。(だが。)」

 このまま逃げていいのだろうか。昨日までは何かがあったらすぐ逃げようと考えていたのに、いざとなると心に引っ掛かりを覚える。


『騎士団いるんだしなんとかなるって!それにいざとなったらお姫様も逃げるでしょう。』

「…。(…。わかった逃げる。)」

 心に突っかかりを覚えるがオデは冷静に考えてこの状況は逃げるべきと判断した。よし逃げよう。

 そう思い馬車から出ようとした瞬間。


「落ち着け―――!混乱するな!落ち着いて列を整えろ!」


 騎士団員の叫びと騎士団団長の怒声が響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る