第2話 身代わりにされたモンスター

「……………コブ?」

 どこだここは?

創造主クリエイターはどこだ?

 オデは誕生したばかりであまり働かない頭で考える。


 オデが生命活動を始めるためには、創造主に力を注がれる必要がある。それ故に近くに創造主がいるはずなのだが。


「な、なんだこいつは!?」

「これが救世主様なのか!?」

「いやいやそんなわけないだろう。きっと失敗したんだ。」

「確かにこんな子供が救世主様なわけが無い。」


「?」

 後ろから声が聞こえる。もしや創造主か?


「「「「「!?」」」」」」

「なんだこの化け物は!?」


 オデが後ろを振り向くとローブを着た人々がオデを見て驚いていた。それにしても化け物呼ばわりとは酷いものだ。


 ローブの人らの顔を見るが創造主は居なかった。創造主の顔を含め一般常識は脳内にインプットされているからわかる。

その一般常識を使い考えると、このローブの人らは気色悪い集団となるのではないだろうか?


「おい化け物何をじろじろと見ている!」

「こんな化け物が出てくるなど救世の祈りは失敗だ。こいつを処分しよう。」

「ああ確かに。この醜さ、きっと悪魔の類に違いない。」

「誰か表の衛兵を呼んできてくれ!」

 ローブの人間らが慌ただしく騒ぎ始める。


「…コブ。」

 思わずため息をつく。こちらは目覚めたら創造主が居なくて混乱しているというのに、オデをみて醜いだの処分だの失礼なことを言ってくる。

確かにオデはインプットされた知識によると創造主によってキモ可愛い?く作られているらしいが、それでも初対面の本人の目の前で言うのは失礼だ。


 まぁそれはともかく置いといて、彼らはオデを処分するとか言っているがどうしたものか。

一応戦闘知識もインプットされてあるとはいえ、この人数差で役に立つとは思えない。さらに知識はあっても体がその動きになれていなければ所詮付け焼刃。なおさらすぐにやられてしまうだろう。

生まれてすぐに死ぬとか酷い一生だ。


「皆さんおまちください!」

 ローブの人らがざわつく中、一人だけ他のローブとは明らかに装飾が違うローブを身につけた女性が声を発した。


「姫様?」

 ローブの1人が声を出す。どうやら装飾が違うローブの主はお姫様らしい。


「その方の右手の甲を見てください。伝承にある聖者の紋章が刻まれているではないですか。」

 そういって姫さんがオデの右手の甲を指で指す。


「おお本当だ。」

「確かに聖者の紋章だ。書物で何度もみた紋様だから間違いない。」

「…ということはこの化け物が救世主様…?」

「ははは…まさか…。」

 ローブの人らがオデの右手の甲を凝視し、乾いた声を絞り出す。


「コブ…。」

 オデも自分の右手の甲に何故か刻まれている紋様を見つめる。

 インプットされた知識の中にあるオデの体の基本構造には、右手の甲に紋様なんてなかったはずだがどういうことだ…?


目覚めてみれば創造主がいないし、代わりに怪しい集団がいて、処分されそうになるし、終いには己の体にいつの間にか刻まれている紋様だ。

頭がますます混乱してくる。


「しかしどうしましょう姫様。現れた救世主様が醜いとは…。」

「国民にどう伝えれば…。」

「救世主様に対してなんて失礼なことを言うのですか!美醜など我々の価値観でしかありません!」

ローブの人らが集まり何やら話し合いをはじめた。

オデも混乱しているが、彼らもなんだか混乱しているようだ。


『ああ、ああ、マイクテスト、マイクテスト。マイク使っていないけどマイクテスト!!』

「コブ!?」

 突如として脳内に声が響き渡った。

…この声はインプットされた知識内にある創造主の声と一致する!


『あー聞こえる?マイモンスター?』

「コブコブ!(聞こえている創造主!)」

 創造主の問いに声を出して答える。

ようやく創造主に会えた。いや、会えてはいないか。だが、これでやっと色々と疑問が解決する。


『おっ!ようやく念話が繋がったか~。そっちの世界の世界間壁プロテクタが固いせいかマイモンスターとのパスが弱くて手こずったよ~。』

「ココブコブ(創造主はどこにいるのだ?この状況はなんだ?)」

 オデは創造主に疑問をぶつける。


『あ~実はね…。』

 創造主がオデの疑問に答え始める。


「コブブブココブ(つまり異世界召喚されそうになった創造主の代わりにオデが召喚されたと?だからここは異世界で、目の前にいるやつらは多分召喚主だと考えられると…。)」

『そういうこと~。うんうん流石俺が生み出したモンスター!理解が早いぜ!』

 オデは頭を抱える。まさか自分が目覚めた場所が異世界とは思わなかった。


「ああ!ごめんなさい救世主様。貴方をほったらかしにしてしまって申し訳ありません。」

 オデが頭を抱えていると、先ほどまでローブの人らと話し合っていた姫が話しかけていた。どうやらオデがこの状況に困っているように思えたのだろう。間違ってはいないか。

ただオデが困っているのは創造主の暴挙についてだが。


『ん~どうしたのマイモンスター?』

「コブ(召喚主のお姫様に声を掛けられた。)」

『うおおおお!お姫様!ねぇ美人?美人?パスが弱いせいで視覚や聴覚が共有できてないんだよね~。思考共有による念話のみとかつまんない!』

「…こぶ。」

 創造主の質問に答えると、創造主のテンションがものすごく上がった。更なる質問を念話で飛ばしてくるがため息をついて無視する。



「どうされましたか救世主様?」

 姫が困惑したように聞いてくる。どうやらオデが創造主との念話で上の空で声を出したのを不審に感じたようだ。


「こぶ(なんでもない)」

 オデはそう答えるが、


「こぶ…?あの、喋ることができないのでしょうか?そもそも私が言っている言葉の意味は分かりますか?」

 オデの言葉の意味が分からなかったようで首を傾げ聞いてくる姫。

 姫の言っている言葉は分かるのでインプットされた知識により、首を縦に振りジェスチャーで答える。


「ああ!よかった。私の言葉の意味は分かるのですね。」

 姫が嬉しそうに言う。よかった。首を縦に振るジェスチャーは日本での意味と同じようだ。


『あれ?おかしいな…。』

「コブ?(どうした創造主?)」

「今のはどういう意味でしょうか…。」

 創造主の発言に返答すると、姫が自分に言われたと勘違いし質問してくる。オデは慌てて首を振り、なんでもないという意味を伝える。


『ああマイモンスター。別に声に出さなくても念じるだけで伝わるぞ。』

「…。(それを先に言ってほしい。)」

『知識に入っているはずなんだけど…。』

 確かに知識に入っていた。だが知識というものは意識しないと出てこないから許してほしい。


『まぁそれは置いといて、さっきマイモンスターとのパスをめちゃんこ急いで強化して聴力を同調して、お姫様との会話を聞いていたのだけど。…姫様の声めっちゃ可愛いな!!』

「…。(いつのまに)」

『それでマイモンスターが喋れないっておかしい。俺が作るモンスターは最低でも日本語は喋ることができるようにしている。だけどそれすら喋ることができずに、初期設定のザ・モンスター語しか喋れないなんておかしい。異世界だから相手の言っている言語の意味がわからないっていうのなら理解できるのだけど、逆だしな。』

 確かに。オデの知識の中を探ると、日本語はもちろんのこと、英語、仏語、中国語、独語がインプットされているが、なぜかどれも発音ができない。

『マイモンスターを作成する時にどこかミスったかな?』

 創造主はさらっというが、それは大問題だ。こんな右も左もわからない異世界において意思疎通が困難なのはかなり大変だ。


「あの、救世主様?ぼ~とされてどうしました?…もしや召喚されたことにより具合が悪くなられたのですか!?」

 創造主に呆れているオデに姫が心配そうに話しかける。


「コブ。(問題ない)」

 オデは首を振り、大丈夫だと答える。


「ごめんなさい。救世主様のお言葉が分からなくて、でもなんとなく大丈夫だって言っているような気がしました。」

 姫が笑顔で答える。


『おお…。お姫様コミュニケーション能力高すぎでしょ。俺が姫の立場で「こぶ」とか言われても絶対わからんって。』

「…。(それは創造主のコミュニケーション能力が低すぎるせいでもあると思う。)」

『おいおいおーい!生まれたばっかの奴が俺の何を知っているんだー!?』

「…。」

 創造主が脳内でギャーギャー騒ぐがもちろん無視する。


「姫様。手筈が整いました。」

 ローブの1人が姫に話しかける。

「分かりました。」

姫がそれに頷く。


「救世主様。色々と疑問に思うことがあると思いますが、それは後ほど説明いたします。救世主様のために、ささやかですが歓迎のパーティーをご用意いたしました。準備が整うまで部屋を用意いたしましたので、どうかごゆっくりおまちください。私も準備がありますので失礼します。」

 姫がオデにそう言って、一礼をして退出していった。それと入れ替わるようにメイドが入室してきた。


「救世主様。どうかこちらへ。」

 メイドが頭を下げ誘導する。


『せっかくだから歓迎パーティーを楽しんできなよマイモンスター。俺は今マイモンスターをこちらの世界に呼び戻すためにパスを強化しているけどまだ時間が掛りそうだから。』

「…。(呼び戻す?そんなことができるのか?)」

『もちろん。自作したモンスターは俺の元に召喚できるようにしてあるのさ。いざという時に盾に……手助けしてもらえるようにね!』

「…」

 今、盾といったな創造主。

『それで、召喚するために俺とマイモンスターとのパス…絆というか繋がりを使うのだけど、世界が違うせいかめちゃくちゃパスの強度が弱い。これだと召喚できないから強化する必要がある。』

「…。(そうなのか。)」

『そうなのよ!それでさっきも言ったけどパス強化に時間かかるからパーティーで時間つぶしておいて。』

「こぶ。」

 創造主もそういうので、オデは歓迎パーティーとやらに招待されることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る