第4話 夢の意味
「ただいま。」
「らとー!非常に可愛いな!」
帰宅して早々にらとを愛でようと近付くが、最近の水瀬さんの様子が気になる。最早誰がどう見ても体調が悪そうだ。あれから日が経ち、あと数日で夏休みというところだが、相変わらず水瀬さんとは何も話せていない。
「なあらと、お前、最近僕の夢によく出てくるんだけど、どういう意味なんだ?それに昔も一時期よく夢に出てきたんだ。意味があるなら教えて欲しい。」
なんて、猫に向かってこんなに真剣に話してもわかるわけないよな。早く着替えて勉強しようと思い立ち上がった。
『意味はある。君はどうしたい?』
...。ん?今、声が...。
『夢の中で、何を見た?』
「え、らと、なのか?今らとが言ったのか?」
振り返ると、らとはまっすぐ僕を見据えていた。耳で聞こえたわけではなく、脳に直接意思が伝わってきた。
「らと...?いや、僕の勘違い、だよな?」
『勘違いだと?それより、大事なことがあるだろう。』
「大事なこと...。...夢のこと...?」
『そうだ。さあ、神の使いであるこの私を、頼るといい。』
全く理解が追いつかない。らとが神の使いだって?だが、現状らとは未知の力で僕と意思疎通ができている。言葉が違うだけで会話がままならないと言うのに、僕が人間で対するらとは猫だ!動物の種さえ違って意思疎通できるのなら、神の使いと言われてもおかしくないのかも知れないが、いやいやいや。決して納得はできないが、らとは何か知っている。言われた通り頼らせて頂こう。
『彼女と君はツインレイだ。』
夢のこと、水瀬さんのことを一通り説明してまずそう言われた。
「ツインレイ?」
『天に還る時、1つの肉体に宿っていた魂が分裂し2つになることがある。その片割れ同士をツインレイという。』
「聞いたことあるな...。だから会ったことあるような変な違和感があったのか。でも昔の夢で会ってたのも多分関係あるよな。」
「じゃあ昔よく夢を見てたのに最近になるまで見てなかったのは何故?」
『それは、単に物理的に距離が開いていたのが大きい。夢を見ていたその昔と今は、近くに住んでいる筈だ。他には、片割れに何か大きな変化があった、もしくはこれから変化が起こる場合に夢を見るなどして伝わることがある。』
物理的距離はいいとして、大きな変化...?それって今水瀬さんの体調が悪いことと関係してるよな?
そうだ、夢の中で彼女が言っていた。自分と母の病気を治したと。それが昔の大きな変化だ。なら今は?もうすでに起こってしまっているのかこれから起こるのか。どちらにせよ、明日は絶対水瀬さんと話そう。なんだか嫌な予感がする。
「そうだ、水瀬さんがツインレイなのはわかったけど、らとまで夢に出てきてたのは何故?」
『簡単だ。それくらいは自分で考えることだ。』
これまでは容易く問いに答えてくれていたのに、急に突き放された。僕を成長させるためだとポジティブに捉えよう。きっとそう。
そして考えてみたが、らとが夢に出てきたのはきっかけに過ぎないのかも知れない。ただの予想だが、最近の夢も昔の夢も、らとがいたおかげで昔の夢を思い出すことができた。らとと戯れていた時に思い出したのだ。らとがいることで思い出せるように昔の夢と現在の夢に登場してくれたのだという答えを出した。
神の使いか...。ここまでいろいろ話を聞かされては、それも頷ける。
らとは元々野良だった。僕がまだ幼くて、らともまだ小さい時だ。道端に子猫が歩いているのを見かけて気になった。近付いても逃げなかったので撫でさせて貰って、それからずっとついて来るのでそのまま飼うことになった。あの時らとが僕についてきたのも、きっと仕えている神の指示だろう。水瀬さんといいらとといい、非科学の実在が証明されようとしている。
密度の高い話をらとから聞いたその日、明日は絶対水瀬さんに声をかけると決意を固め、眠りについた。
翌日、学校に来たのだが、水瀬さんがいない。どうやら欠席らしい。恐らくこのところ続いている体調不良が原因だろう。今日は一段と胸のざわめきを感じていた為に、その事実は僕を不安にさせた。水瀬さんとらとが登場する夢を見た朝など比にならないほどのざわめきで、授業なんて集中できたものではない。
だが、学校にいないことくらい話さない理由にはならない。家に行ってみよう。
そう思って、放課後、SHR後すぐに先生に声をかけた。
「あの、先生。」
「おう、どうした?」
「水瀬さん、今日欠席だったので様子見に行きたくて、住所教えてくれませんか?」
「あー水瀬な。家にいるかはわからないが、あー、まあ、いいだろう。」
そう言って先生は住所を書いたメモを渡してくれたが、この歯切れの悪さはなんだ?家にいるかわからないって、欠席で家以外にどこにいるんだ?欠席理由が体調不良だとすると、考えられるのは病院、とか...。いや、まさか。そんなに悪いのか?確か、夢では、寿命を削るとか言ってたような...。
そこまで思考した瞬間、とてつもない焦燥感に襲われた。早く会いに行かなきゃ...!
「水瀬に会えたら先生にも様子教えてくれよ。てか、お前らそんな仲良かったのか?話してるとこ見たことないけどなあ。」
「さようなら!」
「え、おい!羽吹?...。急に走り出してなんだあいつ大丈夫か?」
最悪の場合が頭を過ぎったのだ。能力を使うと寿命を削る。水瀬さんは幼い頃に大きな力をすでに使っている。そうだ。夢の中で彼女は泣いていたんだ。死が迫っているのが怖いと。違うよな?今がその時だなんて、まだ一言すら交わせていないのに!
マップを開いて住所を検索し、全力で走った。運動は得意ではない。学校から水瀬さんの家まで徒歩圏内といえど、息が苦しい。朝からずっとある胸のざわめきと先程から感じる大きな焦燥感も相まって、すごく苦しかった。
夏を嗅ぎつけた蝉の声、普段はあんなに煩く聞こえているのに、今はほとんど耳に入らなかった。
無情な非科学 人外生物の闇 @jingai_yami
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