第3.5話 不調の恐怖
入学当初から何故か気になる男の子がいた。好きとかそういうのじゃなくて、本当にわからないんだけど、惹かれる。あまりに気になるからつい見つめちゃって、何度も目があった。あまりに気になるから目があっても逸らさないでそのまま見つめてたけど、羽吹くんの方が先にそっぽを向いちゃう。
まあ、それは良いんだけど、授業にも集中しなきゃだし。なんなんだろう。絶対覚えはないのに会って話したことがあるような、変な感覚。いつもなら不思議だなあで済ませちゃうけど、今回のこの変な感じはどうしても無視できない。頻繁に目が合うってことは羽吹くんももしかしたら同じ気持ちなのかも知れない。
よし、今日は思い切って声をかけてみよう。行動してみないと何も変わらないし、変な感じの正体が少しでもわかると良いな。
そう決心した日のことだった。いつもなら笑顔で平気だよって言えてた程度の体調不良が今日は一段と酷い。学校に着いた時は平気だったのに、3限目の数学の途中あたりから急に襲ってきた激しい頭痛とめまい。それに体がすごく重たい。どうしよう、保健室、行かなきゃ...。いやその前に、先生に、言わなきゃ...。でも...間に...合わな...。
目が覚めると、病院のベッドの上だった。そばにいたお母さんから、学校で倒れて救急車で病院に運ばれたことを聞いた。あーあ、お母さんに心配かけちゃったな。
「ねえ、大丈夫なの?辛いなら学校休んだほうが良いわ。」
「ふふ、ここまで酷いのは今日が初めてだよ。」
そういって苦笑した。
「でも学校楽しいし、友達に会いたい。休みたくない。」
「そう。彩春がそう言うなら止めないけど、やっぱり心配。」
ほら。心配してる。口でもそう言ってるし表情も態度も。嫌だな。心配かけたくない。特にお母さんには。だってお母さんは、私が頑張って助けたんだもん。あまり覚えてないけど、私が生かした。これは私のエゴ。生かしたからにはやっぱり幸せに生きて欲しい。元気で、笑顔でいて欲しい。じゃないと私のしたことが間違いになっちゃうし、お母さん自身も絶対辛いはず。ねえ、心配しないでよ。
「明日は土曜だし、2日休めるから平気。ゆっくりすることに今決めた。」
「今日がその土曜なの。彩春が病院に運ばれたのは昨日のことよ。」
「えっそうだったの!?まあ、でも、1日あるなら十分だよ。大丈夫。」
そう言って笑って見せた。
「わかった。でも、少しでも辛かったらちゃんと休みなさいね。」
「うん。わかってる。ありがとう。」
それから退院して家に帰った。夜が明けて何事もなく平和な日曜日を過ごし、今日は月曜日。1限に体育があって今は2限が終わったところだけど、特に異常はない。3限目の先生に頼まれて人数分のプリントを運んでいるところだ。
「っ...!」
今までは平気だったのにな。よろけてプリントをばら撒いてしまった。急いで拾わないと。でも、まだ頭がっ...。私、だって、病気してないし、健康体なのに...。全然辛くな、いや、不調は本物、でも、え?あれ?
「彩春ちゃん大丈夫!?」
突然同じ係の凛ちゃんの声が聞こえた。凛ちゃんも先生の持ち物が入ったカゴを持ってたのに、私がばら撒いたプリントはほとんど凛ちゃんが拾ってくれた。
「ごめん、ありがとう。」
「ううん全然!それより大丈夫?保健室行く?」
「大丈夫だよっ!ちょっとぐらってきただけ。」
「そっか。なら良いんだけど、無理しないでね。」
「うん。心配してくれてありがとう。」
ありがとう、なんて言ってはいるけど、本当は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。心配させたくない。されたくない。迷惑、かけちゃったな...。
このくらいなら今までも何度もあった。それなのに、倒れた日から小さな不調を怖いと感じるようになった。一瞬のめまい、弱めの頭痛、手の震え、常に少しある体のだるさ。最近ではほんのちょっと意識が飛ぶことがあったり、急に息が苦しくなったりすることもある。どんどん頻繁になってエスカレートしていく不調に耐えるので精一杯で、羽吹くんに声をかけようとしていたことも忘れてしまった。
どうしよう。明らかに私、体調悪い。病気じゃないのにこんなになるのって、やっぱり能力の代償だよね。私、もうすぐ死ぬのかな。でも、学校休みたくない...!もっとみんなと勉強したいし、もっとたくさん遊びたい!体育祭も文化祭もまだだし、来年は修学旅行だって!せめて、お願いせめて卒業までは!卒業まではまだ生きていたい!嫌だ、死にたくない、まだ死にたくないよ!嫌だ!
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