第2話 あの子が泣いている夢

 気が付くと僕は小さな公園の真ん中にいた。知っている公園だ。小さい頃よく遊んでいた公園で、家から少しだけ遠いところにある。ぐるっと周囲を見渡すと、女の子がベンチに座っている。それ以外は特に気になるところはない。女の子は悩んでいるのだろうか。重たい雰囲気を纏っている。よく見るとその女の子は、水瀬さんに似ているように思える。そして何故だろう。この少女に懐かしさを感じるのだ。不思議と足が勝手に動いて、女の子の隣に座っていた。

「ねえ、君、大丈夫?」

そう声をかけると、

「だれ?」

と返ってきた。当然の反応だ。

「えっと...。」

ここで名乗ったところでだから誰だよとなってしまうので、どう答えようかと考えた後、

「僕の名前は羽吹想。君が悩んでるように見えたから気になって声をかけたんだよ。」

結局普通に名乗ってしまった。客観的に見て、不審者だと思う。事案だと思う。

「そっか...。」

ひとまず怪しい者だとは思われていないようだ。安心。

「...わたし、超能力者なんだ。」

 どうやら悩みを話してくれるようだが、拍子抜けしてしまった。少女は自分が超能力者だと言った。すごく思い悩んでるように見えていたのでもっと深刻な内容かと思えば、子供のホラ吹きではないか。だが少女は真剣だ。そんなわけ、ないよな。

「へえー超能力者?すごいね。どんな事ができるの?」

極めて落ち着いて返答すると、

「なんでもできるの。」

と言う。何でもとはつまり何でもと言うことか。

「へえー何でも。それで、君が悩んでるのは超能力のことなの?」

「そう。わたし、うまれたときからしぬかもしれない病気をもっていて、それを超能力でなおしたの。おかあさんも、病気になったからなおした。くるしそうなおかあさんをみてられなかった。おかあさんがいなくなるのはいやだった。だからなおした。」

なるほど。様子からして到底嘘だとは思えない。これは確かに纏う空気も重くなる訳だ。自分は生まれつき命に関わる病気で、お母さんも苦しむタイプの病気になってしまった。超能力があるのなら、当然治すだろう。それがどうして悩みになるのだろうか?

「重い病気治すなんてすごいじゃん!じゃあ君もお母さんも元気になったんだね!」

「げんきになった。けど、わたし、が...。」

「うん。」

「いのちをけずるの。ちからをつかうとわたしのいのちがけずられるの。わたしもお母さんも、いのちをたすけたから、わたし、ほかの人よりずっと早くにしぬ...!それがいつなのか、わからなくて、こわいの...!」

そう、少女は吐き出した。今にも泣き出しそうだ。僕には超能力がないので、少女の気持ちを理解することは難しそうだ。だがこの少女が水瀬さんに似ているせいか、酷く心が痛かった。

 何も返せずにいると、いつの間にか隣にいる少女は水瀬さんに変わり、彼女は泣いていた。むせび泣く彼女の隣、僕は慌てふためくばかりである。

「時が経つ毎にっ...死が近づいてるのが...!怖い...!まだ死にたくないよ!」



 そこで目が覚めた。夢の中の幼い水瀬さんに似た少女に懐かしさを感じたのは何故だろう。少女が水瀬さんに変わったことには一切違和感を抱かずに受け入れていたのは、夢だったからと言うことか。

 あの少女は幼い頃の水瀬さんだと断定して良さそうだ。だが、幼い水瀬さんが何を話していたかは忘れてしまった。簡単に忘れて良いとは言い難い話を聞かされた筈だと自分を責め、必死に思い出そうとするが、こればかりは夢なので仕方ない。ただ一つ覚えているのは、彼女が自分を超能力者だと言ったことだけだった。非科学を断固として信じない僕には、その発言は印象に残ったのだろう。せめてもっと重要な部分を覚えていればよかったものを...!

 水瀬さんとよく目が合うのに何か関係した夢なのかも知れない。とりあえず何かの手掛かりになるかと思って、忘れてしまわないうちに紙とペンを手に取った。5月27日の夢にて、自称超能力者の少女水瀬さんが現在の水瀬さんに変わり咽び泣いていた。そうメモを取ると、学校に向かう準備に取り掛かった。

 それにしても、全体的になんとなく覚えのあるような夢だった。モヤモヤする。


 窓に張り付いて動かないらとめがけて前進!!!!

「にゃー」

迷惑そうに鳴くらとを無視してとにかく撫でまくった。癒しだ。今日も頑張ろう。らと、可愛い。

「あら想おはよう。」

「おはよ。」

「らと嫌がってない?かっちゃかれるよ?」

「んー。」

母さんに忠告された。自分でもわかっている。このまま続ければやられる。だが手が止まらないのだ!らとが!可愛い!嗚呼!

「にゃあ!」

「はい。かっちゃかれました羽吹です。皆さんおはようございます。」

右手に浅く引っかき傷が出来たが、そんなことはどうでも良いのだ。

「あんたらとが関わるとキャラ変わるよねー。」

そうなのだ。取り乱してしまうのだ。それもこれもらとが可愛いから。らとに取り乱すところを見てアホだと思われるのは心外なので、学校などでは極力らとの話題は避けてきた。

「朝ごはん食べなさい。」

もふもふ、なでなで。

「朝ごはん食べなさい。」

もふもふ、なでなで。可愛いなあ。かっちゃかれても尚触り続ける僕。

「朝ごはん食べなさい。」

「朝ごはん食べなさい。」

「朝ごはん食べなさい。」

母さんが壊れた。名残惜しいがそろそろ終わりにしよう。

「ごめんなさい!いただきます!」


 そうして朝食を終え、いつも通りに家を出るのだった。今朝見た夢が少し引っかかるが考えるのは後にしよう。

 そしてらとが可愛い。



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