第5話 朝鮮戦争1・戦争前の状況

朝鮮戦争


戦争は悲惨である。まして同じ国の民が戦わねばならないとしたら・・朝鮮戦争は統一をめぐって、大国のイデオロギーの違いで、戦線が行ったり来たりしたのでさらに悲劇的であった。この国の混乱の始まりには日本も責任を持つ。今も敵対し分断されたままである。


(1)戦争前の状況


第2次世界大戦では、対ドイツ戦争で協力したアメリカとソ連であったが、占領した地域の在り方を巡って、その体制の違いはいかんともし難かった。ヨーロッパに於いてはドイツが西ドイツ、東ドイツという形で分割国家となって東西冷戦がすでに開始されていたが、アジアに於いては朝鮮半島で熱い戦いとなった。第2次大戦が終わって、最初の戦争であった。結果、ドイツは統一されたが、朝鮮半島はいまだ分断国家のままである。


第二次世界大戦中、1943年に開かれたカイロ会談においては、朝鮮の日本の植民地支配からの解放が取り決められ、1945年2月のヤルタ会談でのアメリカ・ソ連間で締結されたソ連の対日参戦密約(ヤルタ協定)においては、朝鮮を当面の間、連合国の信託統治におくこととしていた。

1945年8月9日、大日本帝国に宣戦布告したソ連は満州と朝鮮半島北部に侵攻を開始した。この状況を受けてアメリカは対応を検討し、ソ連軍が単独で朝鮮半島を占領する事態を防ぐため、ソ連に対し半島を北緯38度線で分割占領案を提示した。ソ連はこれに同意し、8月17日、38度線以北の日本軍はソ連軍に、以南はアメリカ軍に降伏することが決定された。


日本が降伏文書に調印した1945年9月2日以降、朝鮮では呂運亨らによって9月6日に朝鮮人民共和国が宣言された他、中国で活動をしていた大韓民国臨時政府(李承晩、、金九など)によって設立された臨時政府も朝鮮の正統な政府としての立場を主張していた。しかし、アメリカ及びソ連は朝鮮人による自主的な政府樹立の動きを承認せず、北緯38度線以北にソ連軍が、以南にアメリカ軍が進駐し、共産主義体制、資本主義体制をそれぞれの支配地域で確立していった。


38度線以北(北朝鮮)では、ソ連軍政は、以前から存在した共産主義系の独立運動組職を包容し、主要な親日派人士を弾劾・粛清していった。だが、ソ連軍政は当時少数の勢力に過ぎなかった金日成のゲリラ一派を重用し、朝鮮国内派や中国派といった他の共産主義分派達を、金日成率いる朝鮮共産党(後の朝鮮労働党)の下へ強制的に編入させた。

そして、1948年9月9日に金日成を首班とする朝鮮民主主義人民共和国の樹立が宣布されて、社会主義政権が発足した。10月12日にソ連の承認を受けることでソ連軍政は終結した。


38度線以南(南朝鮮)では、1945年9月7日、アメリカ合衆国極東軍司令部(最高司令官マッカーサー)が南朝鮮に軍政を布くこと宣言する。しかし、統治に当たった軍政庁は、朝鮮を効果的に統治する経験も能力も有さなかったことから、朝鮮総督府に従事していた日本人や親日派の朝鮮人人士をそのまま登用し、実質的に朝鮮総督府を継承した。

1946年1月、李承晩が信託統治の反対声明書を発表する。1946年10月1日、大邱10月事件が起き、南朝鮮人230万人がアメリカ軍政に抗議して蜂起し、136名の犠牲者がでた。李承晩などの南朝鮮単独の独立を強行する動きに対して、1948年3月には独立運動家の金九らが、南朝鮮の単独総選挙反対声明を発表する。このような政治的対立が生じ騒乱状態となり、ストライキや主要人物の暗殺が相次いだ。1948年には大韓民国の独立を認めない済州島民や左派勢力などによる済州島四・三事件*が起き、反乱住民に鎮圧部隊を南朝鮮から送り込んで鎮圧を図った。

1948年5月10日、国連臨時朝鮮委員団(UNTCOK)の監視下で、南朝鮮では制憲国会を構成するための総選挙が600人を超えるテロ犠牲者を出しながら実行された。制憲国会は李承晩を議長に選出し、7月17日に憲法を制定・公布し、李承晩を初代大統領に選出した。これにより、公式的には1948年8月15日に大韓民国第一共和国がアメリカに承認され、アメリカ軍政は廃止された。


もし日本がポツダム宣言を8月の最初の数日のうちに受け入れていれば、広島の原爆投下もなく、ソ連の参戦もなかったのである。そして、それは朝鮮の分割占領もなかったことを意味する。たった1週間の日数の違いによって、広島と朝鮮の運命は大きく違ったものになったのである。

朝鮮半島に統一独立国家を樹立するという民族の願いはかなわず、体制の違う2国の占領の下で分割した2つの国家がソウルと平城に生まれることになった。

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