第3話 ドイツ賠償問題とベルリン封鎖

ドイツ賠償問題

ヨーロッパの戦後処理で最大の問題はドイツ問題であった。最初に上がった問題は賠償問題であった。1945年8月2日に締結されたポツダム協定では、ソ連は東欧と占領地域(東独地域)からドイツ資産を排他的に徴収できる権利を手に入れ、ポーランドへの賠償はソ連の分から配分されることとなった。イギリスとアメリカ、フランスはその占領地域(西独地域)と中立国にあるドイツ資産から西側連合国の賠償を受け取ることになった。ソ連は西側賠償の内一部を受け取る権利(15%)を持った。それらは食糧・石炭・金属等の物資で受け取ることであった。

占領期および分断時代初期に押し進められた賠償政策はデモンタージュとよばれる工場・機械設備の接収であった。管理下に置いて生産した物資の接収も含んだものであった」。これらは敗戦国であったドイツには過酷なもので、特にソ連占領地域では過酷であった。西側連合国の占領下にあり、西独政府の成立後も国際管理下に置かれることとなっていたドイツ最大の工業地帯ルール地方においても激しいデモンタージュが続けられていた。その有様は国外からも同情の声を呼ぶほどであった。


ベルリン封鎖

1948年6月、ソビエト連邦政府が西ベルリンに向かう全ての鉄道と道路を封鎖した事件であり、冷戦初期を象徴する事件である。首都ベルリンはソ連占領地域の中にあり、米英ソ仏の共同管理下にあった。発端は西側占領地域で通貨改革がソ連に相談なく行われたことであった。当時ドイツ全域で流通していた旧通貨(ライヒスマルク)は戦時に膨張して価値が下落していたため経済の復興のためには新通貨の発行が不可欠と考えられていた。マーシャルプランの一環として行われた。

ポツダム宣言でも「ドイツを経済的に一体とみなす」とされていたが、西側はソ連が占領地域で土地改革を実施し、社会主義化を進めていることに不信感を持ち、西側占領地域だけの通貨改革に踏み切った。ソ連占領地域内にあり4国共同管理下のベルリンでは、6月25日になって西側管理下のベルリン(西ベルリン)で新通貨の流通が始まった。ソ連はこの措置に対し、ドイツを東西を分裂させる暴挙で、ポツダム宣言違反であるとして対抗措置としてベルリン閉鎖を実行したのである(空路だけは残した)。

 ソ連占領圏でも対抗して新通貨(オストマルク)の発行が行われたが、経済政策上は全く違っていた。西側地域では新通貨発行と同時に、それまでの経済統制をやめ、自由価格制にもどし市場経済を復活させた。このことが西側地域の経済活動の活発化につながった。東側では新通貨は発行されたが、統制経済はそのままだったので経済活動は停滞したままであった。


スターリンは閉鎖によって西ベルリンへの食糧・石炭・医療用品・生活用品をストップして、アメリカ軍など西側の占領部隊が撤退せざるを得なくなると考えた。これに対して米軍司令官クレイ将軍は、物資の空輸による補給を決意、「大空輸作戦」で対抗した。これは6月末より15ヶ月にわたり延べ27万回、総輸送量183万トンに達し、西ベルリンの市民生活と占領軍を守った。

これによって西ドイツ、東ドイツの分断国家化は必至となった。世界は米ソの全面対決への展開を恐れたが、ソ連のスターリンが譲歩し、国連の場で両国外相による交渉が行われ、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)が樹立された直後の1949年5月11日、ベルリン封鎖を解除した。そして同年10月、ドイツ民主共和国(東ドイツ)が建国された。


ドイツが東西の分裂国家となった翌年(1950年)、ついに、冷たい戦争は東アジアの半島で熱い戦争となって火を噴いた。ソ連とアメリカによって占領され、分断国家となっていた朝鮮においてであった。大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の間で起きたのである。朝鮮戦争の記述に入る前にアメリカの外交政策の概要を見ておこう。


トルーマン・ドクトリン

1947年3月、トルーマンは、トルコ・ギリシャ両国内の共産勢力を攻撃する名目で両国政府への支援を行うとの声明(トルーマン・ドクトリン)を発し、ソ連(共産主義勢力)の封じ込めを実行に移した。6月にはマーシャル国務長官が全ヨーロッパ諸国への経済援助計画を公表、援助をきっかけにヨーロッパへの影響力強化を目指した。

 これにはソ連が猛反発、49年にはソ連と東欧諸国との間でコメコン(経済相互援助会議)を設立、共産主義諸国の結束を一段と強化した。こうしてヨーロッパでは東欧と西欧が向かい合い、あたかも戦争状態のような対立が表面化した。冷戦の始まりであった。


この教書の中でトルーマンは、世界のほぼ全ての国々が否応なく「二つの生活様式」、即ち自由主義と全体主義の選択を迫られているという二元論的な外交理念を提示すると同時に、「武装した少数者や外部からの圧力による征服の試みに抵抗している自由な諸国民を支持することこそ合衆国の政策でなければならないと信じる」と世界の警察になることを語った。そして、ギリシャやトルコが全体主義者の手に落ちればその影響は両国のみに留まらないと主張し、両国に対する経済的・軍事的援助として、1948年6月末までに4億ドルの支出と民間人・軍人の顧問団派遣を認めるよう議会に要請し認められた。こののち、トルーマン・ドクトリンはアメリカの外交政策を縛ることになる。


マーシャルプラン(欧州復興計画)

共産主義の脅威は何もソ連・東欧によるものだけではなかった。第2次世界大戦は連合国側の勝利であった。しかし実際はアメリカの一人勝ちであった。

ヨーロッパ大陸は全て戦場と化し、戦勝国とはいえ東部戦線、西部戦線で戦ったソ連、フランスの被害は甚大で、英国はドイツの空襲を受けた。これに比し、アメリカは軍需物資、資本の援助国となり英国に代わり最大の債権国家となった。


戦争前と比べて、ヨーロッパ大陸の鉱工業生産は大きく落ち込み、農業生産も落ち込み、経済は振るわず輸出は60%にまで落ち込んだ。そこに戦時債務が大きくのしかかった。元々、ヨーロッパは労働運動が盛んなところで、社会主義政党が力を持っていた。イタリア共産党は西欧最大の共産主義政党であり、フランスでは1945年10月に行われた議会選挙では共産党が第一党となった。

東欧諸国の共産化はソ連の後押しがあってのものであるが、第二次世界大戦中の反ファシズム闘争や大戦末期のソ連軍による解放の中から生まれた人民民主主義の初期の政治形態(共産党を中心に人民戦線諸政党も参加する連合政権の形)はある程度人民に支持されたものでもあったのである。


アメリカは最初、対ドイツに対しては援助を行わない方針であったが、ドイツを含めヨーロッパ経済を復興し、安定させない限り、共産化の波は防げないと見たのである。ある意味、トルーマン・ドクトリン(封じ込め政策)とマーシャルプランは対をなすものであった。そしてこのプランは何もソ連・東欧を排除したものではなかった。

これについて英仏ソ3国外相会談がパリで行われた。英仏は全欧州が共同で計画を作成することを求めたのに対し、ソ連は「小国が大国に追随することになる」として反対、欧州各国が必要な援助額を個別に算定し、その合計額を米国に提示する方法を主張した。

共同計画の策定を主張する英仏は、その前提として各国が保有する資源の現況を調査する必要があるとしたが、ソ連はこれを経済主権の侵害であるとして頑強に反対した。3国外相会談は決裂した。スターリンは援助計画に東欧が参加すれば、ソ連と東欧との紐帯は弱まる。ソ連の安全保障上の問題であると判断したのである。


東欧の中で西欧諸国との関係が深かったチェコ・スロヴァキアは、マーシャルプランの受け入れを決定した。ソ連はチェコ・スロバキアに圧力をかけチェコはこれを取り下げた。チェコ・スロバキアは東欧の中では一番工業化が進んだ国で抜けられるのを困ったのである。このようにして東欧諸国の主権は脅かされていったのである。一国の中に外国軍が駐留するとはそういうことを意味する。対抗する形でソ連と東欧諸国との間でコメコン(経済協力機構)が作られた。


米国内においても、米ソ協調を志向するウォレス*は、マーシャルのハーヴァード演説直後はこの計画を支持したが、ソ連や東欧の不参加が明らかになってからは態度を硬化し、政府が考えるような援助方式では独占資本ばかりを利する上に、いたずらに対立を生み戦争を招く危険があるとして反対した。これに代わる独自案としてウォレスは、援助を国連経由で実施するという構想を提唱し、被災の程度が著しい国に優先的に援助を供与すること、援助対象には東欧を含むこと、対象国の政治体制の如何を問わないことを力説した。


*注釈:

ヘンリー・A・ウォレスはルーズベルトの下で副大統領を勤め、要職を任されるなどルーズベルトに信頼されたが、後に意見が衝突、1944年の四選出馬に際しては副大統領候補に指名されず、事実上更迭された。民主党はルーズベルトの健康状態を懸念し、ミズーリ州選出のベテラン上院議員トルーマンを副大統領候補に推す。ただしルーズベルトはウォレスを商務長官にすることで報いた。ウォレスは同職を1945年3月から1946年9月まで務めた。反核、反帝国主義を訴え、徹底した平和主義で、大統領職には就けなかったが、アメリカの良心と呼ばれた。四選時にウォレスが副大統領であったら・・歴史にもしはないのだが、もしを考えてしまう。


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