第8話 その後のロシア・エリツィン

Wikipediaによると(これって便利です)、

大統領在任中に「ソ連8月クーデター」に対する抵抗を呼びかけロシア連邦の民主化を主導した評価と共に、急速な市場経済移行に伴う市民生活の困窮、ロシアの国際的地位の低下、チェチェン紛争の泥沼化、強権・縁故政治への批判もあった。と書き出しにあります。


エリツィンとゴルバチョフを比べれば、エリツィンはロシア的、荒業師的なイメージで、ゴルバチョフは田舎的な紳士イメージで穏健派、ともすれば優柔不断というイメージも付きまといます。


 エリツィンはエゴール・ガイダルを中心に「ショック療法」と呼ばれる市場化政策を断行します。シャターリン(経済学者・マネタリスト)の市場化「500日計画」を下敷きにしたものです。ガイダルはシャターリンの弟子でした。シャターリンはゴルバチョフの経済顧問であって、この計画はゴルバチョフのもとで作られたもので、エリツィンもこれに同意をします。しかしゴルバチョフはもう少し時間を(5年程度)かけて社民的な混合経済を考え急激な市場化に逡巡します(保守抵抗派の存在も考えて)。これに対してエリツィンらの急進派はゴルバチョフと袂を別ちます。また本来ゴルバチョフ支持であった中道派までもがゴルバチョフの優柔不断さに離反していったのです。


 国際通貨基金(IMF)等の国際機関の協力、助言や経済顧問にゴールドマン・サックスを招いたり、なりふり構わないアメリカの協力を仰いだのですが、この急進的な市場化計画は急激なハイパーインフレーションを起こし、ロシア経済は大混乱に陥り、国民生活は大打撃を受けたのです。

 当時のソ連崩壊前の状況は待ったなしで、500日計画の急進性が極めて魅惑的に感じられたのです。市場経済化すればすぐに経済的・社会的問題点が解決される雰囲気がたぶんにソ連社会内に横溢していたことは確かであったのです。


 エリツィンは政治的にもまた、議会による大統領解任劇、これに対抗した最高会議と人民代議員大会を強制解体し、両者の対立は頂点に達し、反大統領派がたてこもる最高会議ビルを戦車で砲撃し、議会側が降伏(10月政変)するという民主化とは程遠い事態も招きました。また1994年に起きたチェチェン紛争(チェチェン自治共和国の独立問題)に武力介入し泥沼化たことは国際世論から強く非難を受けました。


 このような中で共産党の追い上げも激しく、2回目の大統領選挙は新興財閥の金銭的な支援で辛うじて大統領に選ばれるという状態でした。この新興財閥とは国営企業の民営化過程で、濡れ手で泡を掴んだ国有資産を私物化する存在として国民からは受けがよくなかったのです。日本の場合なら官営工場の払い下げは三井、住友、三菱であったとしても起業家(企業家)に行われたのですが、ロシアの場合は国営企業の経営者をそのまま、民営化した企業の経営者=所有者にしたものが殆どでした。

うまく立ち回ったのは旧官僚や政治家の目先のきく連中だったのです。マフイァもこれに同列しました。こうして権力と新興財閥との癒着構造は政治腐敗の常態化を招き、正常な経済発展を妨げるものとして、国民からのエリツィン政権の支持は低下していきます。低下の中でエリツィンは何人も首相を入れ替えます。1999年にロシア連邦保安庁長官であったウラジーミル・プーチンを首相に据えます。自らの権力を維持するためになりふり構わぬようにも見える行動を繰り返すなど政権はレームダックの様相を呈し始めました。


 エリツィンは1999年12月31日正午にテレビ演説を行い、電撃辞任を表明。後継の大統領として、チェチェン紛争を鎮圧によって終結させたプーチンを指名したのです。辞任演説では「アメリカに習って市場化(資本主義)に移行すれば全てが上手く行くと思っていた」と涙を流して謝罪したのが印象的でした。


ソ連崩壊後、アメリカを含む西側先進諸国は「資本主義の勝利」として、冷戦終結後の世界秩序の在り方を真剣に考えた節が見当たらないように思えるのです。エリツインのロシアの経済移行の指導を担ったのはゴールドマン・サックス*であった。このとき、ロシアは本当に困っていた。西側のメンバーとして向かい入れる本気の援助が要ったのではないかと、今の世界の現状をみて思うのです。


注*人物 

ロバート・エドワード・ルービン

アメリカ合衆国の銀行家・財政家。ゴールドマン・サックス共同会長、国家経済会議(NEC)委員長、財務長官、シティグループの経営執行委員会会長を歴任した。クリントン政権では財政均衡を主導し、レーガン・ブッシュ政権以来の負の遺産である財政赤字の削減に努めた。

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