第19話 最大の話題提供者は原田瑛子

瑛子が隅の席に雨宮を誘って話し出した。


「由美子さんの役やったやろ。難しいだけでなく、困ってしまったの。やってたら、由美子さんの気持ちがようわかってきて、女同士やろ。今度はハシケンの気持ちもようわかってきて。切のうなってね。切のうなったら、なんだかハシケンを好きになってしまって…。誘ったの。ハシケンの気持ちは学生時代からわかっていたし。女って自分を好いてくれる人はどこか離したくないのね。出来るだけ囲っときたいのね。そのくせ言い寄られるとつれなくするの。女って残酷な生き物よ。だから私は肝心な人も決められないで、希望じゃなかったけど生涯独身。由美子さん映画館のせいにしてるけど違うと思う。その時ただ燃えたのよ。その気持ちわかるでしょう。雨ちゃん、あそこのとこの脚本、よう書けてるわ。さすが作家さんやと思った。ハシケンは映画館が上手く行ってなくて、由美子さんにおんぶに抱っこやったから、いじけちゃって手を出した。手の出し方が間違ったのよ。手を出すのは他の女によ。そしたらイーブンになって由美子さんは楽になれたのに」


雨宮に酒を注がせて、瑛子は話を続けた。


「ハシケン『うんー』とか唸るから、『やられたらやり返してスッキリしたらええやんか。何時までもウジウジして。由美子さんも可哀想やわ。私ってそんなに魅力ない?』」と言ってやったの。ハシケンはこう答えたわ。『瑛ちゃん、おおきに、そないゆうてもうて、男として自信のうなってたけど、男冥利に尽きるわ。せやけど、俺はやり返すと言うのは、なんや好きやないねん。あいつは俺に愛想を尽かしとるけど、俺はまだ未練残してる』それ聞いてね、由美子さんに嫉妬した。あの時抱いて欲しかったわ。ハシケンも雨ちゃんもいい格好しいのあかんたれや」と、瑛子は雨宮の胸に顔を寄せて泣きじゃくりだした。


それを見て「ようー!御両人」と伊助が囃したので、瑛子は泣き止んで、「伊助、私を抱く勇気あっか」と、追いかける振りをした。


「俺は気の強い女は、嫁さんでたくさん」と言ったので、皆は笑ってお開きとなった。





***


2013年、11月、『2年11組古希の会』が行われ、50名中22名が出席した。幹事の労を取ったのは五郎であった。生きていたら出席したであろう何人かの名前が読み上げられ、その中に高橋健一の名前があった。


そして、今回、最大の話題提供者は原田瑛子で、彼女が昨年結婚したことである。結婚相手は35歳若い、テレビドラマのあのイビられる婿殿であった。皆はイビるべく手ぐすねを引いているが、例によって瑛子から30分遅れると電話が入った。


今日、アトラクションとして映画が上演される。あの団令子の映画の題名が分ったのである。1959年仲代達也初主演の『野獣死すべし』 *である。老いてもなお、腕が確かな木本映写技師がそのフィルムを探し出して、映してくれるのである。団令子で、もし見えなかったら、瑛子が自分のを見せると息巻いている。

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