第15話 由美子の不倫

その問題の個所とは、ハシケンの妻、由美子が不倫をする個所である。瑛子が役を渋った個所でもあり、由美子が映画作りに反対した理由の一つでもあった。


ハシケンがとんでもないことを言いだしたのだ。


「雨ちゃん、実はな、由美子が不倫しょってん。映画館をめぐってうまいこといってないんや。特に両親が死んでからはあいつ遠慮がのうなってな」


「思い過ごしと違うか。仮にそうでも映画制作とは関係ないやろぅ」と聞かされた雨宮は驚き困惑し、そう言うしかなかった。


「思い過ごしも何も、冗談でこんなこと言えるか。ええ映画作りたいんや。ドキュメンタリー風といえば、リアリズムやろ。嘘が入っとってはアカンのん違うんかなぁー」とハシケンはポツリと言った。


「奥さん了承か」


「アホか、そんなん言えるか」


「でも、後でどないなるか考えたことあるんか」


「そらある。でもな、俺らが作る一生に1本の映画やろ。見るお客さんにも出けるだけええもん提供せんといかんと思うねん。脚本に加えてくれや。今のままやったら、あんまり綺麗ごと過ぎる。お前も作家やろ」。


雨宮はハシケンのこの映画に懸ける思いに、首を縦に振ったのである。


それを瑛子に言うと、「雨ちゃん、アホ違うか、夫婦別れ起こさせて作る値打ちがある映画か。みんなの記念になる映画がそんなんやったら私辞めさせて貰うわ」とごてたのである。雨宮はみなに図った。誰も喋らない沈黙の会議であった。半時間も経った頃、長山がこう切り出した。クラスでも問題が起きて膠着状態になったときは、長山の一言が解決してくれることが多かった。みなは長山から出る言葉を待った。


「この映画の趣旨はいろいろあるけど、ハシケンを応援することが一番や。そして制作の責任者は雨宮や。二人の決定に任せ、僕らは応援するだけや。僕はハシケンと由美子さんを信じてる」ときっぱりと言い切った。


それで、瑛子も納得し、「いい映画を作る」に決定したのであった。カメラマンの木本さんは脚本を読んで、「ホンマでっか。これ撮るんですかぁ」と驚いた。雨宮はこのことによって、この映画は深みを増したと思っている。

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