第14話 鈴子と瑛子
資金計画担当者はハシケンと鈴子が担った。でも実質は鈴子が取り仕切った。
制作費を1千万円、プラス予備3百万円とした。申し合わせ事項は、各人負担は最初の切符引受の10万円負担のみ。前売り券販売と借入で調達し、利益を出す事業と位置づけた。
「鈴ちゃんの銀行との交渉はさすがやったね。ウチの土地では、追加担保がない限りこれ以上貸せませんという銀行を説得したんやから」とハシケンが言った。
「銀行員はそれが儲かるとなると貸します。そら、裁判官相手の方がどんなけ難しいか…。きちんと予想損益を出して利益が出ることを証明したらええだけ。『一館で客呼んでもたいしたことありまへんやろぅ』と銀行の人が言ったでしょ。それが有り難かった。配給せんとあかん。それで全国の映画館主に趣意書を書いて出したのね。みんな苦労の思いは一緒やと思ったの。完成したら上映して欲しいと書いてね。意外と反響があってね。中には僅かですがと、カンパが入っていたりして、びっくりした」と鈴子。
「反響があった映画館の手紙を見せて、これが担保ですには驚いたわ」と、一応資金担当者でもあったハシケンが云い、こう続けた。
「『弁護士は依頼者の利益になるように行動します。銀行は取引先の利益になるように行動すべきです』と言ったら、銀行は黙ってしまった。あの時はスーとしたわ。弁護士先生の押しとバッチはすごいと思たよ」
「使えるものは何でも使わんとね。ハシケン、あんたの交渉はあかん。経営者失格や。あんな弱腰でどうする。借りてやるぐらいの態度やないと。でも、お陰で利益が出る計算書が出来たわけ」と、鈴子は少し鼻高であった。
「僕かて協力したんやで。あそこの支店長に協力してくれなんだら、預金をよそに移すゆうたんや」と豊。
「そら、歯医者さんは金持ちやからな」と瑛子。
「それだけやのうて、金持ちの患者さんにあの銀行はケチやと言いふらすと言えと鈴子は言うねん」
「言ったら、支店長どない答えよった」と瑛子。
「支店長笑って、シネマさんはええ友達持ちはったなぁーやて」と豊。
「そこにまだ援軍や、商店街の会長と会計係の登場。支店長これには参ったと言わんばかりに、『そない、いじめんとって下さい』と協力約束してくれた」とは、商店街会計係伊助の話。商店主たちの預金量は無視できなかったし、何より店頭で悪口を言われることが耐えられなかったのである。これも鈴子の入れ知恵であった。
「悪いやっちゃななぁー。人を脅す弁護士か」と長山が言うと、
「弁護士って正義の味方みたいに思われてるけど、ヤクザな商売よ。私なんて可愛い方」と舌を出した。
「皆のおかげや。感謝や」とハシケン。
「せやな、タダでいっぱい映画見せてもうたお礼や」と一同。
かくて、映画は完成したと言いたいところだが、ひと悶着が起きた。例の雨宮の脚本である。
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