第22話 ヒトラーの『我が闘争』・世界政策と国内政策

c)ヒトラーの世界政策

ヒトラーの考える大国はいとも簡単である。国土が広いこと、人口が多いこと(多数の兵隊を持てるからでしょうか)、あとは人種的に優れているかということの3つである。そして、中国、アメリカ、ロシアを上げます。彼にとっては、アジア人は問題外で、ロシアは人種的に劣等であると切り捨てる。イギリスは海外に植民地をたくさん持つ大国としている。フランスも海外の植民地を持つ国でイギリスと対抗していると位置づける。

第一次大戦時の外交戦略は、ヨーロッパに獲得すべき土地があるとしたら、それはどの点から見てもロシアを犠牲にして行われるべきであったのに、そうしなかった。日露戦争時に、ドイツはロシアに戦争を仕掛けるべきであった。そうすればロシア革命もなかったかもしれないし、ロシアの南下政策で対立していたイギリスの機嫌を取れたのではないか、第一次世界大戦もなかったのではないか、それを独墺同盟という愚劣なものを結んでしまったと、当時の政治指導者を怒るのである。


ヒトラーはドイツは世界に植民地を求める英国方式を取らないとする。すなわち、ヨーロッパ大陸に覇を求めればいいのではないか、東方政策である。そうすれば、英国と衝突することはない。彼流の外交政策が語られる。英国には同盟を期待していたようである。

フランスについては永遠の敵であり、屈辱的なベルサィユ条約を押し付けた不倶戴天の敵と断言する。これでは、東方と言いながら二方面作戦になってしまうことになる。


d)ヒトラーの国内政策

年々増えていく人口を養いうる土地が何より大切と考える。

『国内開発、すなわち土地の生産力を上げるとしても、その増加率は無制限ではありえない。収穫の乏しい飢饉がある場合もあるだろう。土地は、これを征服するだけの力と、これを耕作せんとする意思を有する人民のためのものである。他国が版図を拡大し、栄えゆくとき、自分たちだけが一人苦しもうとする国民であっていいのだろうか。国内開発では不十分である』

そして考えられる二つを提示する。


(イ)年々の過剰人口数百万を移住させるための新しい土地を手に入れる。


(ロ)産業と貿易を盛んにして外国の購買力に訴え、国民がその利益によって生活し得るように努力しなければならない。


どれが一番いいかと言えば、それは(イ)であるとする。理由は計り知れない利益があるからである。

『(ロ)を取れば平和が必要である。平和主義者はそう言っている。もし、これらの平和主義者の寝言に立脚して行動していたら、我々は現在所有する領土の三分の一も持っていなかったであろう』と恫喝する(うん、うなずけそうになる)。

 ここで、ヒトラーも日本も正解を間違ったと私は思う。


ヒトラーによると、

『ヨーロッパ国家の本国を、その植民地、対外貿易に比較すると驚くほど少ない。頂点はヨーロッパ内にあるが、その底辺は各地に広がっていた。(要は海外植民地に依存しているのではないかというのです)。その底辺が自己の大陸内(国内交易、消費)にあって、頂点がそれ以外に触れている(海外との貿易)国』アメリカが対比されます。アメリカの素晴らしい力とヨーロッパの植民地列強の大部分の無力とを説明し(居酒屋談義ならなんとなく、フンフンと頷きたくなってしまう)、その形を強い理想国家とする。

要は、第一次世界大戦の敗北によって、世界分割の分前には預かることは無理なのでヨーロッパ大陸を自己の生存圏とすればいいということである(ロシアは迷惑千万だ)。


ドイツはイギリスに並ぶ生産力を持ち、高い科学技術力をもち、カメラや電気、化学や薬品では並ぶものがなかったほどだった。植民地主義、軍国的膨張主義以外になかったのか・・これを生かす方法はなかったのか、戦後日本・西ドイツの発展を見ればいいと思う。やはり、正解は間違ったのだ。


土地と人口論については否定された『マルサスの人口論』*を一歩も出てはいない。


*1798年、人口は制限されなければ幾何級数的に増加するが、食糧生産は算術級数的にしか増加しない、という命題を示したもの。

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