第11話 ドイツ革命5 バリケードに立つハンブルク 

ロシア内戦のルポルタージュの名作『前線』の著者であるラリサ・ライスナー*が『バリケードに立つハンブルク』でハンブルクの10月蜂起に触れて、ハンブルクの街の様子を書いている。


ハンブルクはエルベ川河口にある港町である。街の朝の様子を、

「朝の6時15分前、まだ電灯がないと暗い時刻に、労働者たちの最初の大波が動き始める。

暗闇のなかで、市街電車の上を国鉄電車が行き、さらにその一段高い高架線の上にも、電車の光の帯がうねってゆく。これらすべてが運ぶのは数十万の労働者の大群だが、それだけではない。さらに数十万の失業者が加わっている。失業者たちは、臨時の仕事にありつけないかと期待して、港へ赴き、船着場あたりにたむろするのだ。かれらはそれぞれにグループを作ってそれぞれの親方を取り巻く。・・点呼が済むとこの大部隊は、数百席の小型汽船に分乗する。汽船はあるいは造船所へ、あるいは工場へと向かう」


続けて、労働者の居住区の様子を、

「ハンブルクの労働者たちは、かれらの工場や造船所から遠く離れた街区に居住している。バムベルクと呼ばれる地域が、そのような居住区の一つだ。ここは全体がいわば労働者の一大兵営であって、貸アパートの各戸のようにお互いに似通った建物群が、街路という汚れたむきだしの廊下で結ばれて、びっしりと立ち並んでいる。街路を行けば、鉛色の空の下に水の出ない噴水のある、いくつかの侘しい広場にぶつかるが、それらは広場というよりも、むしろ共同の炊事場か手洗いといった趣がある」


蜂起の数時間前の様子を、

「蜂起の指導者のひとりは、自分の受け持つ区域の指導的なメンバーを順々に訪ねて、行動開始の指示を伝えてまわった。人通りの絶えた街路、眠る建物、疲れた寝息のこもる住居。極貧の労働者がそこに住んでいる。彼は起き上がり、服を着る。なぜとも、どこへとも問わず、一瞬もためらわずに。平静な握手―そしてゆっくりと、闇の中をタバコの火が遠ざかってゆく。

労働者街の別の一隅。妻がドアを開き、夫の身支度を手伝い、台所の卓上に拡げられた地図をろうそくの灯で照らす。やっと気持ちを鎮め、「とうとう、なのね…」とかの女はいう。その声には深いひびきがある、そして解放感も。

三軒目の家では、支度にちょっと手間取った夫にその妻がいう。『さっさとしなさいな!』」

と・・


*ラリサ・ライスナー

1895年ポーランドで生まれる。父はバルト地方出身の大学教授、母はポーランド人だった。10年ほどドイツで生活した後、1905年、ロシアに戻る。1917年の2月革命ではゴーリキーの新聞『新生活』に協力してケレンスキー政権批判の文章を書く。1918年から名作ルポタージュ『前線』を各紙に連載する。1923年、単身ドイツに赴き、ヨーロッパ革命の主要な一環となることを期待されながら失敗に終わったドイツ革命の終幕の立ち会い、その証人として『バリケードに立つハンブルク』を遺した。1926年30歳の若さでなくなる。

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