第4話

「そして今回、三度目ってわけ。なんて不思議な縁。これって運命やね!身上書を読んでいてローザという名前に出会ったときはびっくりしたよ。接見に行っても、顔かたちは忘れていても、その名前と屋台で飲んだ記憶は忘れていなかったよ。向こうは俺のことなんてもう分かりはしない。やー、その節はなんて名乗れないしね」


「先生、運命なのだから頑張って!」恵子は少し興奮していた。


「情状酌量の余地が大きい事件だから、そこに持ち込んで出来るだけ軽い刑を考えたんだが、ローザは『やってない』と言うんだ。事件があったその日の夜はズート二人一緒で、部屋で過ごしているんだ。子供は夫の祖母の所に行っていていなかったのだ。マンションといってもアパートに毛が生えたみたいなもので、大声を上げて喧嘩でもすれば、両隣、階上まで丸聞えなんだ。その日もそれらの部屋の住人は口論を聞いていると言うのだ。警察の調書読めばやっていると言えるし、本人の話を聞けばあながち嘘を言っているとは思えないし、困ったよ。ただ、ローザは一度だけ部屋から出ているのだよ。時間にして5分。両隣の主婦が廊下で喧嘩になり、何事とローザが止めに入ってすぐ収まったのだが、部屋に帰ってみると夫は血まみれになって倒れて居たというんだ。慌てて救急車を呼んだのだが駄目だった。たった5分の間に誰かが外から入って事に及ぶなんて考えられないと警察はいうのだ」


「ローザは不幸せな女なんだ。幸せが来そうになったら去っていく。家は平野で漬物屋をやっていて、金持ちではなかったが、不自由なく育てられたそうだ。最初の亭主は呉服の営業マンだった。近所のお花の師匠の所に出入りしていて、そこに習いに来ていたローザを見染めたってわけだ。1年ほど幸せな新婚生活を送ったが、亭主がその師匠と駆け落ちをしてしまった。傷ついたローザは実家にも帰らず、やけになっていたときに拾ってくれたのが、ストリップの座長だった。そこの座付きの男に惚れられて、夫婦になって出来たのがあの子だ。3年ほど一緒だったが、その亭主はバクチで借金を作ってとんずらした。ローザはこの様な世界が嫌になった。子供もいる。旅から旅のこんな稼業をいつまでもしているわけにはいかないと、一念発起、やめて実家に詫びを入れて帰って、店を手伝いながら介護士の資格を取って、病院の看護助手の仕事に就いたのだ。そこに入院してきた今の亭主に出会ったと云う訳で、亭主が事故を起こすまでは仲が良かったそうだ。男が事故さえ起こしてなければと思うとね・・」


恵子は圭吾のその話を聞いて、自分に照らして泣いた。女の幸、不幸は男に頼るとこが多いのが現実なのだ。それに比べて、何があったか知らないが、生活費は不自由なく貰って、圭吾に子供にも逢わせない妻に恵子は腹が立った。「弁護士夫人、上等じゃないか!」

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