第3話 旅立ち


それから6ヵ月が過ぎた時点でその日が訪れた。

「明日村を出る。」

季節が変わり新芽が芽生え始めるころだった。

その間もいろんな村を探索し女子供だけが残っている村に提案し一つの大きな村に成長した。

15歳前後の少年少女を集めて戦闘訓練と村の防備訓練を絶えなく続けた。

それを含め森の探索も進行し洞窟のようなところも探し出したがリサがそこにはものすごく強い魔物が住み着いているからあきらめろとすすめられ探索しなかった場所もある。いつか部下を含めて俺も強くなれば探索する予定に残しておいた。

そして村の南西地域にある山も偵察を兼ねて調べた結果鉄と金脈があるところを見つけたこれは採掘する方法とインゴットや貨幣に作る技術がないためおいておくようにした。

東の山には緑と青い光を放つ宝石や銀色で光を放つ金属も見つけ出したがやっぱり技術がないため当分は放置するようにした。

この6か月間村も変わり人口は700人に増え、村の規模が大きくなった。3分の1は15歳前後の少年少女の治安隊であって狩り、警戒、戦闘訓練などを行っている。3分の1は大人の女性たちでなっている生産担当であって農業、村の補修、村の木柵や壁の建設などを担当している。

それで一通りの整理ができて体系も完璧に準備されたことを確認した俺はリサのその宣言いこう言った。

「そうか。ならお前が帰ってくるまで待とう。」

「……約束……した記憶はないけど?」

「別に約束を交わしてはないがリサは俺を助けてくれた。助けてくれるなら俺はリサが帰ってくるまで待つとした。なら。それはいわゆる暗黙的な約束を交わしたとみるべきだろう。」

俺はかつて村長になった時、リサが助けてくれるなら待つとした。

その時は口喧嘩して終わったが、俺の中ではそれは恩だと認識している。

「それともなんだ?待たなくてもいいのか?」

俺の言葉にリサはわざとらしくかわいい笑顔を作って答えた。

「ダメ。待ってて。」

俺もまた微笑む。

「俺の村に危害を加えようとする連中が現れない限り俺は力をためて待つと約束しよう。」

明日リサはこの村を去る。

明日は送別会を開くか。

俺はリサのための送別会を準備するので一日を送った。


そして次の日。

朝から狩りに出たレックスが帰ってきて、大きいイノシシとメリとジョンが支度をした。

そんな中、一団の白い衣服と鎧で武装した連中が現れた。

フルプレートでピカピカ輝いている金属、兜には白い羽が風に揺られていた。

腰に掛けている剣は銀色の紋章が陽ざしを浴びて光を反射する。

その白い集団は全員白い馬に乗っていた。ロイキンから奪った馬とは比べ物にならない大き図体を持っている。

その中にはフルプレートの騎士により護衛されている馬車があった。

同じく純白外部と黒のフレームで作られている馬車であった。

騎士と同様馬車の門には金箔を打った紋章が刻まれている。

要するに金持ちの集団であり、俺たちなど相手にならない強者の集団ということだ。

その集団は俺の村に近づいた。そして村の門を見て戦闘に立っていた騎士が大声を上げた。

「門を開けろ!」

こいつは何言ってる?

「門を開けてほしいなら自分が誰か明かすのは先だろう!」

俺が当然の疑問を口にしたが相手は聞かなかった。

問答無用で剣を抜いて水平に持ち上げた。

「神聖斬<<セイクリッドスラッシュ>>!」

男の叫び声が放たれた瞬間剣に白い光が宿って騎士はそのまま剣を薙ぎ払った。

白い光は弓から放たれた矢のように剣から離れ門にぶつかった。

―ドカン!

爆発音とともに門は粉々に破壊された。

それを見て怒りを感じたが俺は黙って状況を確認した。

騎士の行動にも関わらず後ろで待機している馬と騎士たちは微動もしていない。

つまりこの行動がなれているということであり、俺たちは脅威にならないということだろう。

そしてもう一つ。俺たちを攻撃する意思もないということだ。

俺は歯を食いしばって状況を把握しようとしているレックスとメリを呼んだ。

「村のみんなを安静させろ。あいつらは俺たちを殺すために来たわけではない。家に入って待機しろと伝えておけ。」

二人は壁から降りていく。

俺は続いて珍しく渋い顔をしているジョンを呼んだ。

「ジョン。お前は村の財物をなるべく多く馬車に詰め込んで森の方向に移動しろ。仮設基地に運んでそこで待機だ。」

「了解!」

「時間はあんまりとるなよ。やつらが村に入って5分経ったらその時点で移動しろ。」

ジョンは壁から飛び降り走りだした。

俺も壁から降りて門を破った騎士の前まで進み腰を折って挨拶をする。

「すみませんでした。ご尊名を伺いしてもよろしいでしょうか?」

騎士は馬の上でその兜のバイザーを上げて顔を表した。

「何だ?まだ子供ではないか!この村はガキが長をやっているのか!うははははは!」

その点に関しては別に怒りなどは生じなかった。

横から見れば確か子供だ。

身長も小さいからな。

だけどこっちは丁寧に名前を聞いた。

それに答えろ。

「ご尊名は?」

俺は再び聞く。

男は口元を吊り上げて嘲笑して馬から降りた。

「お前なんかに教える名前などない。」

あ、そう。

別に興味はない。

俺は腰を伸ばして男を見ながら口を開けた。

「この村になんか御用でもあるのでしょうか?」

答え次第では逃げるしかない。

勝てるわけがないし勝てたとしても損が多すぎる。

ここは逃げるのが最適な行動だ。

「まあ、お前が長なら知ってるかも知れないがこの村に勇者様がいらっしゃるはずだ。」

俺は男を観察した。

白い鎧と豪華な金箔の紋章。

金持ち。貴族またはそれに準じる高位階級の人物。冷酷な性格と自己自身に対する自信感過剰の人間。

リサが勇者だと正直に言うべきか。

「私が勇者よ!」

その時俺の後ろから旅の支度を終えたリサが歩いてきた。

もう荷物の準備は終わっているようであった。

「お…あなたが勇者様?…」

男は疑うようにリサを見つめる。

そこには嫌悪や見下ろすような雰囲気は一切ない。

ただ判断しようと懸命に努力しているだけだった。

男が口を開けて何かを話そうとする瞬間。

馬に乗った騎士たちと馬車が村の中に入ってきた。

そしてバイザーを開けていた前に立っていた男が大声を上げた。

「バストン!勇者様の村に何のことをしてるんだ!」

黒い髭が円満な曲線を描く中年の男であった。

渋い顔をした男の大声にバストンと呼ばれた男は即に左胸に右手を当てて腰を折る。

「はっ!聖女様のおなりであるのに無礼にも門を閉めていたのでつい……。」

「その考え方はすばらしい!だがここもまた勇者様の故郷!それは無礼である!」

「はっ!二度と同じことをしないため注意いたします!」

中年の男は馬上で頷き馬から降りて止まった馬車の門の前に立った。

(ちょっと待ってよ。聖女ってなに?)

俺の疑問はすぐ解かれた。

「聖女様!勇者様の村に到着いたしました!門を開けてもよろしいでしょうか?」

「うむ!開くとよい!」

その声を聴いた俺は驚愕した。

(え?子供の声じゃねぇか!まさか子供?)

あんな豪華で大きい馬車に乗っているのが子供なのか?

そして中年の男はゆっくり門を開けて門の横で膝をついた。

そして高い馬車の階段をよちよちと短い脚で降りてくる子供がいた。

あれは精々十歳の子供だ。

その子供は馬車から降りたら大きく伸びをして壮大な溜息をついた。

「勇者様は本当に遠いところに住んでいるな…。」

「お手間をとらせて申し訳ありませんでした。」

「うむ!そなたのせいではない!」

(いやいや。子供。言葉使いがおかしいぞ?)

夏の日の下の森を思い出す鮮明な緑色の髪が大きく白い帽子から飛び出ていて子供特有の大きな目と歩き方は危うさを感じさせる。

自然に手を伸ばして助けてやりたい気持ちを煽らせる子供だった。

だけどその子供は子供でありながらフンフンとウキウキした歩き方をしてこっちに近づいた。

そしてまずリサに向かって挨拶をした。

「勇者様!アイリンです!」

「待っていたよ!アイリンちゃん!」

リサと子供。アイリンと呼ばれた子供は互いに向かって挨拶をした。

それと誰が先でもなく互いに抱きついた。

「勇者様!」

「アイリンちゃん!」

まるで長く別れていた姉妹が再会したようであった。

ワイワイ騒いで二人は大喜びする。

俺と騎士たちはそれを呆れたような顔でただ見ていた。

やがて二人は興奮を収めて話した。

「私たちは互い未来が見えるよ!そしてアイリンちゃんが来ることをわかっていた。」

「互いが未来が見えるということだから会う日を待っていたの!」

それを聞き中年の男はえへんと咳払いをした。

「ま…まっていたのだ!」

……まだ慣れていないのか……。

中年の男は馬に掛けていた大きい袋から小さな袋を出して俺に差し出した。

カチンとした金属がぶつかる音が聞こえた。

「おい!小僧!」

そしてそれを俺に投げた俺は一手でそれを掴み。中年の男を見て視線で問う。

「門を破壊したお詫びの金だ。それぐらいなら門を鉄に変えても余る金額だ。」

俺は袋を開けようともせずにそれを後ろで待機していたレックスに投げた。

振り向くもせずに俺は中年の男を見て言った。

「別にリサを迎えに来たのなら不満などありません。でもせっかくくださったお金です。頂戴いたします。」

バストンはそれを見て前に出ようとしたが中年の男が制止した。

中年の男は大笑いして俺に近づいた。

そして兜を外し、ガントレットも外して俺に手を指し延ばす。

「いい度胸だ。男ならそれぐらいしないとな。」

俺は差し伸びた手を握る。

力強さと固いたこが感じられる手だった。

「小僧。名前は?」

「リチャードと申します。」

「よい名前だ。俺はトナムーという。聖騎士だ。」

そこでやっと俺は思い出したことを口にした。

「俺は田舎で生まれ育ったものです。聖女様や聖騎士が何か知りません。それについて話してくれると助かりますが。」

中年の男はそれを見て髭を手でいじる。

そして聖女と聖女に使える侍女たちも疲れていることを確認して頷いた。

「聖女様の許可があれば一晩休憩して出発するとしよう。」

その言葉に聖女と呼ばれた子供が大喜びする。

「そうしようではないか!我々はここまで来るのに散々苦労した。さすがにそなたたちも疲れただろう?」

俺はレックスを呼びジョンを呼び戻しに送り、メリと共に聖女一行が泊める場所を準備させた。

聖騎士と聖女。見るからにこいつらは。

貴族ではない。

貴族なら俺ら平民に金など渡すわけがない。俺たちは彼らにとって動物かそれ以下だ。動物のねぐらの門を破壊したことで何の意味も持たないはずだ。

その上に金まで渡すと?

ありえない。

だから俺には聖騎士は何かと聖女って何かを知らないといけないし味方にできるなら味方にしておくべきだ。

そのため俺は彼らを歓迎した。もともと用意していたイノシシのバーベキューを提供した。酒も備蓄していたのを提供した。そのおかげで聖騎士たちは大喜びした。

心配だったのは女に手を出したりしたら困るもんだったが彼らは一切そんなことはしなかった。

俺の右にはリサと聖女が一緒にワイワイ騒いで話をしている。

最近の彼女からは消えて行った笑顔だった。

俺は安堵した。

「おい小僧!酒は飲まないのか!」

「そうだ!そうだ!飲めよ!隊長!」

左を見るといつの間にか息ぴったりのレックスとトナムーがいた。

「まずレックスお前はまだ子供だ。酒はもっと大人になってからにしろ。そしてトナムーさんは子供に何おすすめしているのですか?」

俺の言葉にレックスはブウブウと揶揄した。

「かたくななやつだな!」

「隊長はそういうことがダメなんだよ!いつも渋い顔して!つまれねぇ!」

こいつ酒に酔ったら普段よりいらっとくるな。

俺は杯を手に持って内容を一気に飲み込んだ。

そして杯をテーブルに置いた俺はレックスとトナムーを見て厳しいしわを作った。

「こんなのがうまいと思ってるのか?レックス。トナムーさん。舌に何か問題があるのではないか?」

それを聞きトナムーは爆笑した。

「うははははは!」

レックスは鼻を抱えて爆笑する。

「うまいとも!隊長!うますぎるよ!うはははは!」

不愉快。俺はレックスを無視して笑っているトナムーに話しかける。

「昼の続きですが。聖女様と聖騎士はなんですか?」

涙を催していたトナムーはそれを拭き取り答えた。

「ふふふ。そうだな。どう説明すればよいかな…。すまんが俺は誰かに聖騎士について説明したことはない。その上に誰かにそんなことを説明するのもいやだな…。」

俺は深くうなずいた。

(めんどくさいだけだろ。おっさん……。)

その会話にいきなりバストンが混ぜてきた。

「俺様が答えてやろう!小僧!おいしい肉と酒を献上したお前に対する俺からの教えだ。ありがたく思え!」

俺は黙って彼を見た。

もう酒を十分に飲んだのか目が空を泳いでいる。

「聖騎士は女神様に一生を捧げると誓い!教会の剣となり、信者たちの盾となるものだ!我々は常に自分自身を磨き上げ悪魔と立ち向かう正義の象徴とならん!」

そしてそこまで言ったバストンが倒れて眠りについた。

ぼんこつめ。

全然役に立たないやつだ。

吐き気がするような気持ちになった。

現実を知らないバカだ。

「聖騎士って誰でもできるのですか?」

その問いにトナムーが首を傾けた。

「小僧。聖騎士になりたいのか?」

「いや…。違いま……。」

「なに!隊長!聖騎士になりたいのかぁぁぁぁぁぁ?!」

俺の否定の声はレックスの大声で制止された。

―なんだと!

―ダメ!兄ちゃんは私の大切な人だから!

―私たちを見捨てるつもり?!

くっそレックスめ。明日起きたらそのけりを何回でも蹴ってやろう。

「うるさい!俺は聖騎士にならない!お前らの命を俺に預けたのと同じく俺の命もお前たちに預けた!当たり前のことを今更言わせるな!」

俺の言葉に幾人かは涙を流し、幾人かは感動の叫びを上げた。

それを見てトナムーは驚いて言う。

「フム。小僧。貴様は相当愛されているな。」

「当然です。一集団の長であるためにはそれに相応する能力と力がないといけませんから。」

「ははは!そうか!そうか!まさにその通りだ!」

何が喜ばしいのか。

「聖騎士になるためにはまず体力試験を通過して、そのあと女神様に対する信仰心を試される。その両方を通過したら聖女様による試験を通過しないといけない。そこまでできたら研修騎士となる。そのあとの訓練と実績で自分自身を証明できたら聖騎士になる。」

俺は眉間をひそめるしかなかった。

(このおっさん。わざと俺の質問に答えなかったのか……。)

俺の心を読んだのかトナムーはにやりと微笑む。

「価値ない人間に情報を渡すわけないだろう。」

「俺みたいな僻地の村長に教えるということは対して秘密の情報には聞こえませんが?」

「さあて。何のことやら。」

トナムーがとぼけるのを見ながら俺は続いて質問する。

「聖女様はどんな存在ですか?」

「質問ばかりはいやだ。魚心あれば水心だろう。」

俺のしわを深める一方であった。

「俺みたいな凡人の話なんて聞きたくもないでしょう。」

俺のその言葉にトナムーは首を振って否定を表した。

「小僧。それは悪い癖だ。直したほうがいい。」

俺はその言葉の意味を理解できなかったため首を傾けた。

何でだ?

何が悪い?

俺はトナムーに聞くより自分自身でそう言った理由を追及始めた。

他人が俺を知りたがった。そして俺はそれに対して俺は凡人であるため知りたがらないと判断した。

ってこれの何が悪い?

そしていくつかの可能性を頭に浮かべて答え合わせを始める。

「一、俺に対して本当に興味を持っている人に対しての無礼である。二、何かを隠そうとしているように見える。三、信頼を深めようとする相手を敵に回せる可能性がある。何番ですか?」

俺の問いに酒を楽しく飲んでいたトナムーの手がピタリと止まる。

そしてゆっくり首をこっちに向ける。

その眼には明らかな警戒の光が宿っている。

「以前誰かに言われたことがあるのか。」

「自分の頭で浮かんだ答えですが?」

「…小僧。相当頭が切れるやつだな。お前は……。」

俺はトナムーを見てにっこりと微笑む。

「否定はしません。」

トナムーは腕を組み俺を見つめる。

俺も負けずにトナムーを見つめる。

互いがそう睨んで間もなく横から声をかけられた。

「ねえ!リチャード!」

リサの声に自然に俺はそっちを向いた。

「何だ?…ってお前酒飲んだのか!」

「へへへっ~。」

何この顔。

やっちゃった!☆でへっ見たいな顔してるんだよ。しかも酒臭い。

次また酒飲もうとしたら止めてやる。

もちろんボコボコにされる覚悟もしないといけないが。

「あんた私たちについて行かない?」

ついて行く?どこに?

「俺は魔王倒しなんかできんぞ。」

「違う!途中まで!べランクス学院に入学するの!」

俺は興味を持ち始めた。

「何だそのべランクス学院っていうところは?」

「それがね!…」

リサはそこまで言ってうとうとしながら居眠りした。

(……はあ……この酔っ払い……。)

いらいらする中で彼女は話を続ける。

「あらゆる知識を教える学院だって!リチャードも興味あるでしょう?」

「興味ある。」

俺は素直に頷いた。

「本当!?じゃ!」

俺はリサを制止した。

「だけど俺には金がない。」

「あ……。」

リサが低めに声が漏れる。

「そこがどこかわからないが、そこに滞在するためのお金も、その学院に入るための金もない。」

まあ、誰かに借りれば簡単に解決だろうけど。

「そうなんだ……。」

リサが悲しむとこを見て俺は溜息をついた。

正直言ってその学院に入るべきだと思っている。

聖騎士という存在。そして聖女という存在。

いや、それだけではない。

ここで得られる知識は限られている。

俺は貴族たちに勝つために知識と力を必要としている。

今ついて行くと伝えない理由はただ一つ。

村人たちが見ているからだ。

俺がここで「うん!付いて行く!」としたらどうなる。

彼らの気持ちは?彼らの中でも行きたがる人がいるかも知れない。

だからそう簡単に言えなかった。

「私が払ってやるよ!兄ちゃん!」

アイリンは勇者であるリサの前だからか普通の言葉使いに戻っていた。

トナムーは咳払いをしたがアイリンは舌をベーだしてフンと鼻を鳴らした。

「アイリンはね?金持ちなの!」

うきうきしながら自慢する子供はかわいいもんだ。

俺は軽くアイリンの頭を撫でてやった。

「ありがとう。でも俺には俺が守るべき村民がいる。」

悩ましいことだ。アイリンは頭を撫でられへらへらしていたが、俺の言葉にパアァッと明るく変わった。

嫌な予感が頭をすり抜けていく。

なんだこれ?

俺の前進に寒気が走り鳥肌が立つ。

「じゃあ!聖騎士をこの村を守れと命令してやる!」

「プフッ!」

レックスは酔って目がとろんとしていたが、一気に覚めてこっちを見る。

飲んでいた酒が宙を飛び服がビショビショになっていた。

俺もまたその発言の衝撃で正気にならなかった。

トナムーもまた同じであったが、結構あることなのか溜息を深く長くついて無視し始めた。

(止めろよ!おっさん!)

アイリンは俺の袖を引っ張る。

「ねえ!それでいいでしょう!」

「いや!いいわけ…どうだろうね…。」

俺の弱みをこの瞬間自覚した。

アイリンが涙を浮かべてこっちを見つめてくると気が弱くなった。

そこで断りの言葉がはっきり出なかった。

「いいじゃん!ねえ!そうしようよ!」

攻めが続く。

俺は条件付きの降伏文を突き出した。

「わかった!わかったからこれ離して!聖騎士さんは仕事があるからいい!付いて行くよ!」

俺は仕方なくそう答えるしかなかった。

ただの子供の駄々をこねることならともかく彼女は聖女だ。

リサのお供であり、権力者だ。

何より重要なのは。

この上ないほどのチャンスだ。

知識と力を得るために必要な物資を彼女が提供するのだ。

これを逃したらまたの機会がいつ訪れるか知らない。




涙の別れが続いた。

レックスは子供のようにワンワン泣きながら俺にしがみついた。

「行かないで!」

「村長代理。しっかりしろ。」

「お前がないと生きて行けないよ!」

「うるさい。」

熊のようなデカイ図体して無様に泣いて騒ぐな。

ジョンは笑って手を振っている。

メリは静かにはしているが涙をボロボロ落としている。

俺はレックスをどかせてメリに近づいた。

ちょっと青めの髪に大きな青い瞳が似合う顔の小さな女の子だ。

身長はリサぐらいに大きい。俺より身長が高いのでやけに落ち込む。

俺はそんなメリに近寄る。

「泣かないでくれ。」

「うう…。」

俺はメリの頬を渡って流れ落ちる涙を手で拭いてやった。

「かわいい顔がメッチャクッチャだぞ?」

「うう…。お兄さん…待ってるからね?絶対帰ってきて?」

「勿論だ。当たり前のことだ。」

メリは何かを決心したか顔を上げて俺に目線を合わせて言った。

「何かちょうだい!」

俺はメリの豹変に驚いたが何がいいか考えたが渡せるものに思い出した。

「これをあげよう。」

俺はメリにポケットの中に入っていたものをメリに渡した。

「これは…?」

本当にくれるとは思わなかっただろう。メリは泣きながらきょとんとしている。

「暇つぶしで作っていた彫り物だ。お前にやろう。」

彫ったものは何かを見つめている狐。

素人のものとしてはよくできた彫刻だ。

メリはそれを両手でギュッと握った後頷いた。

「待ってるからね?」

「ここで待ってろ。俺は帰ってくる。」

「あははは!うん!わかった。」

メリは涙目で俺の言葉に笑ってくれた。

隣に目を向けるとジョンがにやけながら俺を見つめている。

「ジョン。村のみんなを守ってくれ。」

「うん!わかった!」

「それと決してレックスに逆らうな。時に不満を感じるかも知れないけどそれでも我慢しろ。我慢できない時はメリに相談しろ。わかったな?」

「俺をなんだと思ってるんだよ!兄さん!」

「実の弟だと思っている。」

「え…?」

「…何照れてるんだ。」

ジョンは普段見ない顔をした。

モジモジしながら身をよじるジョンの頭をやさしくなでる。

「頼んだぞ。」

村のみんなの涙の別れとともに村を出た。


俺は揺れる馬車の中に座っていた。向こうにはリサとアイリンが楽しく会話している。

リサは昨日確か酒を多めに飲んだはずなのに何の変化もなかった。

平和だな。

陽ざしが馬車の窓を通って俺の顔を晒す。

いやなことだ。

殺す相手をわかるために殺す相手から学ぶことになるだろう。

敵を知れなければ計画は立てられないから仕方がないことだが。

頭でわかっていて心でも頭に従うわけもいかないから。

そして俺は緊張がほぐれて深い眠りに身を任せるようになった。



リチャードが眠ったのを見てアイリンはこそこそ動いてリチャードの隣に座った。

一緒に乗っていた侍女たちは唖然として止めようとしたが、アイリンは口に指を立てて静かにさせた。

それを見てリサは怖い顔をするがアイリンは気にせずリチャードの足に頭を乗せて横になった。

そしてすぐ上に見えるリチャードの顔を見つめた。

「かの者は美貌で有名であった。かのものの黄金の絹のような髪と不純物一つ混ざらなかった目は見る人たちを魅了するには十分以上に溢れていた。」

アイリンは手を伸ばしてリチャードの髪を少し触ってみた。

色んなゴミがついているがたしか金髪。

顔たちも神殿に飾られている彫刻を思い出せるほど完璧に整っている。

もしこの人があんな僻地ではなく都市や領主直轄地で生まれたらきっと腐敗した貴族のおもちゃになっていただろう。

いや。おもちゃになって終わりではない。利用できるすべてを利用して復讐したはず。

まるで今みたいに。

アイリンはまだ子供ではあるが、教会により保護されて育った。

子供の頃から女神様の加護の中で彼女はいろんな経験をしていろんなものを見てきた。

そして女神様の意思に従い、悪を滅ぼし善を追及した。

だけど聖騎士と教会ができるところまでは限界がある。

そのための勇者である。

人々に希望を与え魔を滅ぼす偉大なる存在。

でもそれからも外れた存在がいる。

目の前に見える男がそうであった。

「お姉ちゃん。姉さんは最後まで見えた?」

その問いは誰かにとっては個人の死を意味するだろう。

その問いは魔王と戦う者たちには魔王を倒す未来を意味するだろう。

だけどリサとアイリンにとってはその問いの意味はたった一つしかない。

「いや。見えない。」

「お姉ちゃんもそうなのか…。」

リチャード。

彼の未来はどうしてなのかまったく見えないのだ。

アイリンは未来に起きることを見て調べて特定の人物の未来も見る。

リサも同じくこれから起こる未来を見てどうすればいいかを決める。

当然二人とも自分と関係ある人の未来は見えるのだ。

だけどどうしてなのかリチャードの未来は見たくても見えない。

アイリンとリサはそれぞれ会う前までもそれをおかしく思っていた。

例えば三人家族が住んでる家があるとしてその家に火事が起きたと仮定する。当然その家からは親二人と子供が一人飛び出る。親二人は火事のせいでちょっと焼けた服を着て出て水を探して火を消すところまで見える。だけど子供はたしか家から出たけどそのあと何をしているのかか見えないとしたら。

これはまるでその子供を見る目に何かをしているようであった。

アイリンはその理由を女神に聞いた。

―試練。

女神から返された答えはただその二文字だった。

何の試練だ?

「お姉ちゃん。お兄ちゃんを見るとね。私思うの。この人はきっと伝説の勇者様の蘇りだとね。」

アイリンはあくびをしてリチャードの足を枕にしてニヤリと笑う。

「姉ちゃんにはちょっと勿体ないね!」

「はあ!?このガキ!」

リサは我慢せずにアイリンに飛び出した。



「お前ら何してる…。」

眠気が覚めてものすごく低い声で俺はそう呟いた。

目の前に見えるの自分の両足にそれぞれ頭を乗せている子供と女の子。

俺はリサとアイリンに向かって洞窟の中で空気が通るような声で怒り出した。

「人の足を勝手に枕にするな……。」

俺は手を伸ばして二人を押したがビクッともしなかった。

もっと力を込めたが動かない。

「……。」

「……。」

「……。」

三人の沈黙が訪れた。

いや、沈黙したのは俺であって二人は沈黙を装った黙りこみであった。

「おい。」

「……。」

「……。」

無反応。

「どけ。」

「……お姉ちゃんが先。」

「……アイリンちゃんが先にどいてよ!」

何競ってるのだよ。

「好きにしろ。」

俺はイライラしながらもう一度寝ようと思ったが。

イライラの気持ちをもっと強くするできことがあった。

二人が俺より先に眠ったのだ。

しかもものすごく幸せな顔での寝顔であった。

いやなやつらだ。





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