第2話 初陣

十五歳で父を亡くした俺は、半年も過ぎないうちに母も亡くした。母さんは俺にごめんなさいと言っていた。攻めたことを後悔していたと思う。だから俺はこう言った。


「母さん…一緒にいてくれてありがとう。家族でいてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。俺にとって父さんがこの世の一人しかいないように母さんも一人しかいない。だから…俺にとっては大切な…大切な人なんだ。そして…ごめんなさい。あの時…黙っていれば…お父さんは死ななかったと後悔している…本当に…ごめんなさい…。」


母さんは泣きながら俺を抱いてくれた。


俺も母さんを抱きしめてひたすら謝っていた。


そして夫を亡くした衝撃と生きる意味を亡くしてしまったお母さんは衰弱死になった。


その時は、もう泣いていなかった。これで俺に残る唯一の家族はお爺さんしか残ってない。


俺は冷めている。


お爺さんは戦争に引き抜かれたんだろう。


老人だから、まともな防具や武器すら与えられていないかも知らない。


肉壁のような扱いになって死んだのかも知らない。


俺は心の中で流れる涙を拭いて、村人を集めて国つくりを開始した。


第一に始めたのは、‘法‘を作ることだ。


お父さんはいつもお爺さんから知恵を借りたり村の仲間たちから話を聞いてその場の方針を決めていた。


でもそんなの真似したくない。


俺が決めたルールが全てだと思わせなければならない。


俺という長の命令によって何もかもを成し遂げる集団を作る。それが重要だ。


一、村長はリチャードだ。


二、リチャードが言うことはすべて従う。


三、リチャードは村の皆を平等に遇する。


四、リチャードは村の皆の要求に対して必ず答える。


こんな狂った四法律をみんなは受けてくれた。


それは多分、この絶望的な状況で、畑を作り、ゴリオス王国の暴政に立ち向かうためには一致団結しないといけないと思ったなのかもしれない。


それとも、数日前に行ったリサと俺の激論のせいかも知らない。








「そんなのできるわけないよ!ゴリオス王国と戦うって!みんな本気で思っているの?!」


リサが村の広場に集まったみんなに向かって叫んでいた。村人たちは目をそらして下を見る。


大きな木の下に設置されている小さな壇上でリサは非難するように村の皆に向かってそう言って、次は俺を見て話を続けた。


「リチャード!国を作るって!どうやって!たった五百名の人数で!しかも男はもう子供しかないんだよ!それでどうやって!それに武器は?!みんなを騙したかも知らないけど私は騙されないわ!」


俺は簡単に答えた。


「簡単な質問だね。これからも人は増える。」


「その人たちがこの村を占領しようとするかも知れないじゃん!」


俺はリサを見て嘲笑した。


「愚問だな。ここまで村に来た人々はみんなどんな状態だった?」


さすがのリサも気づいたようだった。


「負傷者…または…病人。」


「そう。しかもこれから村に来る人間はほとんどが女性だろう。理由はわかってるな?」


この前の惨劇がこの村だけであるはずがない。


「だ!…だったら武器は?!戦うすべは?!」


「武器は商人から買う。」


「そんな金どこにいるの!」


「森に入って、魔物狩りをする。特にこの周辺の森は外部に出ないぐらい強い


魔物がうろついているはずだから、商人ならだれでも大金を払っても手に入れたい素材を手に入れるだろう。」


そこまで聞いて、リサは呆れた顔をした。


「は!皆を殺す気ね!」


「違う。俺が死ぬ気だ。」


その言葉を聞いた村の皆はポカンとした顔をして俺を見つめる。


その中で、リサは震える声でこう言った。


「何よ…それ…」


「実際死のうとは思ってない。だけど、村の皆を危険な目に遭わせて後ろに下がっていようとは思わない。」


そこまで言って、俺は付け加えた。


「だからリサ。お前の力を貸してくれ。」


そう言った瞬間リサの顔は鬼のように醜く歪み俺を睨みつけた。


「リチャード…あんた最悪ね…。」


「好きに言ってくれて構わない。君の力が必要だ。助けてくれ。」


リサは勇者だ。それが本当だということはもうわかっている。今までの流れに嘘はないと判断できる。


勇者が何かはこの村から出たことはないけど聞いた噂で知っている。


魔物に立ち向かい魔王と一騎打ちができる存在。


リサの力を借りれば、魔物なんて瞬殺だ。


そして俺もそれに加えて、強くならないといけない。


これから俺が村の皆を守るんだ。


「戦うすべは?」


リサは半分あきらめたような顔をしてそういった。


「すべては経験で補うつもりだ。ある程度強くなったら、山賊討伐に向かって動く予定だ。」


「山賊討伐?」


リサは疑問符を浮かべてそう言った。


「そう。北に行けば山賊がうろついているだろう。それを討伐する。その経験で戦うすべを身に着ける。」


「そんな無茶なことができるわけないじゃん!」


俺は首を横に振った。


「無茶ではない。魔物を討伐した後、商人から武器と剣術先生を招待する予定だ。それだけでいい。あとは俺が何とかする。」


壇上の俺とリサは互いを見つめあっていた。


何も言わずに、沈黙が訪れて、静かな時間が過ぎた。


やがて彼女は言った。


「リチャード。私はあんたを助けない。今、私があんたを助けてしまうと。あんたはどんどん戻れなくなるはずだから。」


「そうか。」


俺はただそれを聞いて頷いた。


なら、仕方ない。


時間というものは過ぎたら戻らない。


人間に取って後悔というものがどれだけ辛く苦しいものかは言わなくても皆わかるものだ。


俺はそれを利用する。復讐の鬼に仕立て上げてどんな犠牲にも躊躇わないようにする。


「どうやって復習するんだよ!」


だけどそれはリサの叫びによって止められた。


まるで、俺の考えが読まれたような気がして、ぴくっとしてしまった。


魔獣は強い。だけど世の中にはそんな魔獣と戦って、倒して、その素材を手に入れて金をもらうものも存在する。冒険者だ。


「覚悟があるもの、どんな困難にも立ち向かおうとするもの、死の覚悟が決まったものを募集して魔獣殺しに向かう。弱い魔獣を見つけ出して殺す。どんどん強くなればそれにふさわしい次のものを狙い殺す。言葉ほど簡単にできるわけではないことはわかっている。だけどそれしかない。」


「…あんた…それでできると思うの?」


「心配はいらないこれからこの村に入るものを…」


「リチャード!」


リサが俺に向かって大声を出した。


その目には涙が浮かんでいて、そして怒りにも失望にも見えるような目で、歯を向きだして震えていた。


「…あんた本気で言ってるの?」


「……たぶんお爺さんやお父さん…お母さんが見たら俺を許さないだろう。最悪な連中を裁くために、その最悪な人間になるつもりかと叱るかも知らない。」


俺は微かに笑った。


「だけど俺を叱るべき家族はもういない。」


俺は歯を噛みながら言った。


「君は…リサは…家族を失う痛みを知ってるよな。リサがその痛みを乗り越えた切っ掛けが何かはわからないけど、俺は…俺は復讐をしないとお父さんとお母さんに合わせる顔がない。」


「…私が…私が何とかしてあげる。だから…」


俺はリサに向かってこう言った。


「だったら力を貸してくれ。俺にはリサが必要なんだ。」


リサは口元を吊り上げて嘲笑った。


「あんた最悪ね…卑怯だよ…その言い方。」


リサは少し考えて提案した。


「…協力する。だけど…その代わりに条件がある…。」


「条件?」


首を傾けて疑問を表す俺にリサは言った。


「私が村を出て帰ってくるまで、待ってて。」


「俺は村民がまた悲しむようなことが起きたら我慢しない。その条件でいいならリサが帰ってくるまで待とう。」


リサは目を閉じて、何回か深呼吸を繰り返して覚悟を改めた後、目を開いて村の皆を見て言った。


「皆聞いて!私!勇者なの!だから危険な魔獣も討伐できる!でも…それより重要なのは…未来が見えるの!」


いきなりの告白にさすがに俺も意表を突かれた。止めようとした瞬間リサは大声で続いた。


「私が見た未来にはリチャードが死ぬ未来が見えたの!皆はそれでいいの?!」


一瞬躊躇した。


そうか。


だからあんなに俺を止めようとしたのか。


リサの今までの言動が一瞬で理解できた。


なぜ勇者ということを話して、代わりに復讐してあげるとか。


なるほど。


…死ぬのか。


俺は死んでしまうのか。


でもこれはいい機会だ。これはうまく利用するか。


「死ぬのは俺だけか?」


リサがゆっくり村の皆に向いていた首をこっちに動く。


そして震える声を抑えようと必死に頑張ったせいで途切れる言葉で口を開く。


「今…なんと…言った?」


「死ぬのは俺だけかと聞いた。」


「リチャード。あんた…。」


「死ぬのが俺だけなら、俺はそれで構わな…。」


「リチャード!」


リサは大声を出して俺の首元を両手で掴んだ。


その力は確かそんな小さく細い体では似合わない力だった。


いくら身長が低く軽いとしても男を地面から浮くように持ち上げるという事ができるとは。


俺はちょっと安心したから微笑んだ。


それをどう受け入れたのかリサの顔はもっと酷く歪んでしまった。


「いい加減にしないと本当に打ちのめしてやるわよ!」


「死ぬのは俺だけなら、村の皆をこんなことに巻き込んだ罪滅ぼしには十分だろう。」


「ふざけないで!罪滅ぼし?!村の皆はあんたに同意して!…。」


リサが戸惑う。


それはそうだろう。


「そうだ。村の皆は同意したことだ。だけどその切っ掛けをあげたのは俺だ。俺がもし黙っていれば反旗を翻すことはなかっただろう。」


リサはいろいろ話したいことが多かっただろう。


例えば、同意した村人も責任んを負うべきとか、復讐したいという気持ちは変わらないのかなど。


リチャードを、俺を…犠牲にしていいのか。


俺はため息をついて話した。


「このまま続けても埒が明かない。この件はまた後日に話そう。それまでは手伝わせてもらう。」


リサはただそれを聞いてじっとして俯いたまま何もい言わなかった。








その日から俺は村長として村を導いた。


その中で一番驚いたのは、俺よりも幼い女の子たちが俺に従って魔物狩りに出向かったことだった。


村から一日は歩かないと辿り着けない暗闇の森まで淡々と歩く。


もちろん幼いとしても僻地の村で育った子供たちだ。貧弱で少し歩いて駄々をこねる子供ではない。


だけどこの日までは野山に出て花を見て明るく軽く笑い声をあげていたその子たちが今でははただ静かに歩くように変わったのだ。


リサもそれを見て何かを感じたのかただ俯いたまま口をつぐむ。


ここ数日その様子が続いていた。


少し心配はしたが心配はそのあと吹き飛ばされた。


森の中に入ってから早々魔物の襲撃が続いていた。


森の外部から現れるのはゴブリンや狼のような魔物がほとんどだ。


雑魚だったが、それでも大人ではない幼い子供や俺より一つや二つ年下の少年少女には恐ろしい敵だ。


村に残っていた大人たちの武器で戦闘を開始した。


俺は長剣を握り、襲ってくるゴブリンに振りかざした。


それはあくまでもリサを真似しての動きだったが効果は凄かった。


リサの動きには到底かなわないがゴブリンを倒すには十分であった。


少年と少女たちには槍と盾を装備させた。


少年たちには盾を装備させ、少女たちにはやりを持たせた。


ゴブリンが現れたら俺とリサが半分以上を相手した。


少年と少女には戦闘に参加してもごく少ない敵の相手を任せた。


多くても三匹。


少年少女の人数は百名。


盾で防御する少年が五十人。槍で攻撃する役の少女が五十人。


この構成には理由があった。まだ幼い少年少女たちに重い武器を持たせなければならない。


なら敵からの攻撃をまず防がないといけないのだ。また、女の子を守るのは男だと教育されている男なら女の子を守るためにも敵からの攻撃を防ごうと頑張るはずだ。


そして槍が盾より重い。女の子のほうが男より成長が早いのだ。


そして少女たちも安全であることが分かれば槍でゴブリンを攻撃するのは比較的に簡単であり、そして女の子でも戦えるという認識を与えるのが重要である。


そのためにこういう構成にしたのだ。


負傷者は無し。


十五匹のゴブリンをリサが八匹を倒し、俺が四匹、少年少女十五人が三匹を倒した。


「リチャード。傷……。」


リサが声をかけてきた。


リサの視線がとどまるところは膝より少し上の部分。


浅い傷だった。


「問題ない。それより初戦闘で皆思ったよりうまくやってくれた。リサのおかげだ。ありがとう。」


リサはそれを聞いて何かを話そうと口を開けたが何も話せずに眉間にしわを寄せて口を閉じてしまった。


そして複雑な顔をした後なんてことないと告げた。


俺はわざと問い詰めようとはしないまま十五人の少年少女に近づいて話した。


そして地に膝をついたり足を延ばして休んでいる彼らにこう言った。


「もうすぐで漏れっちまうところだったぜ。ハハハ!」


みんなは緊張をほぐして微かな微笑みを見せてくれた。


「だって俺もこれが初めての魔物狩りだからね。」


「え?!?!」


「うそ!村長!ものすごく強かった!」


「そう!剣の扱いとかも!」


俺は大きく声をあげて笑った。


「それはただリサを真似しただけさ。それよりみんなよくやってくれたよ。ありがとう。」


「ううん!全然大丈夫!」


「ちょっと怖かったけど…。」


明らかに作り笑顔で偽の明るさを出している。


初めて生きてるモンスターを殺したのだ怖いのは当然だろう。


俺はそんな彼らを見て言った。


「ここからが始まりだ。」


それを口の外に吐き出した瞬間色んなことが頭の中で浮かび消えてゆく。


「俺たちの復讐はここからが始まりだ。俺はわざと君たちを訓練しなかった。何も知らない状態でモンスター狩りに挑んだ。昔の俺ならそんなことは考えるわけがない。だけど今は違う。これからずっと無理難題な状況が続くだろう。そのたびに俺はこういう場面を君たちに与えるようになる。それでも付いてき


てほしい。そうしてくれるなら。俺は…。必ず君たちを強くしてあげる。約束だ。」


まだ幼い子供達には難しいことだろう。


だけど、俺の父が目の前で残酷に殺されたことと自分たちの父や兄が連れ去られたことは子供の心に大きな歪みを産んだ。


少年少女の目には鬼のような青い光の灯が見えていた。


リサは黙ってそれを見ていた。






俺は畑仕事のほとんどを放棄させた。


なぜなら人間は安定すると心の落ち着きを覚えてしまうからだ。


畑が食料をくれてその繰り返しが続いてしまったらみんなの心の中の復讐心はなくなってしまう。


そんなのあってはいけない。


ただ、理由はそれだけではなかった。


この村に残されたもののほとんどは女性。


大規模の畑を作ることは当然不可能で、しかも全員が全員畑に取り掛かれる状況でもない。


その上、家事全般や家の補修などの仕事も多い。


人員を分けたところで村の維持はできるかも知れないけどそれで生き残れる人員は限られている。


冬と夏にそれぞれ酷寒と流行病などの問題が起こった場合。


半数は軽く死ぬ。この状況下でみんなを生き残せる方法はたった一つ。


財を持っているものを襲いその財を奪う。


そう。つまり。


略奪だ。


ただこの場合村民の命が危険に晒される可能性があがってしまう。


計画をキチンと立てないとな…。


残された人員は大人百六十名、子供百名、俺とリサで二名。


合計二百六十二名だ。


誰一人殺させはしない。


俺は幼い子供たちには畑仕事と訓練を並行させた。


大人たちにも訓練と畑仕事の並行した。


村のみんなの実力が一定以上になったときのことだった。




流民たちの群れが現れたのだった。


「どうする?」


リサが村のみんなを代表して聞いてきた。


「受け入れる。」


「なぜ?」


「一番大きい理由は大人の男性はいない。村のみんなに対する脅威にならない。それに人数は多ければ多いほど良い。」


「意外だね。」


「何が?」


「拒むのだと思った。だって村のみんなを守る義務があるでしょうリ《・》チ《・》ャ《・》ー《・》ド《・》には?」


明らかの挑発。


でも俺は笑ってしまった。


「好きに思ってくれ。」


それ以上いう必要はなかった。


計画は問題なく進んでいる。






流民の代表はレックスと呼ばれる俺より一つ年下の少年だった。


体が大きく固い筋肉で身を包まれているの男だ。


「ようこそ。我が村へ。あなたたちを歓迎いたします。」


レックスと自分を紹介した少年は俺に向かって頭を下げて告げた。


「すみません。一晩だけ泊めていただけますか?明日朝早くこの村から去りますからお願いします…。」


少年の顔色は悪く気力を失っているように見えた。


多分何日もかけてこの人々を率いてここまで来たんだろう。


後ろからこっちの雰囲気をうかがう様子から見て散々拒絶されてきたんだろう。


「いいです。ただお聞きしたいことがありますから貴方は私についてきてください。」


それを聞いてレックスの目が少し細くなり明らかに警戒するような態度をとるようになった。


それを見て俺は小さく笑い手を招いた。


「周りを見なさい。大人の男性が見えますか?」


それを聞いてレックスは周囲を見てあっと何かを悟ったように口をあけて謝った。


「すみません…。今までいろいろありまして…。」


「いいです。さあ、こっちらに。」


レックスと俺、そしてリサは村の中央にある大きな家に入った。






「話とは別に大したことではありません。いくつかお聞きしたいだけです。」


小さな食卓が置かれていて互いが椅子に腰を掛ける。


カップに水を注ぎレックスに渡してすぐ俺は話を進めた。


「自分から答えるのは何でもお答えいたします。」


レックスが水を一気に飲みこんで答えた。


「では、まず一つ。あなたの村で何があったんですか?」


「……。村ごと焼きつかれました。」


一瞬の戸惑い。そして暗い顔色をしたままレックスはその巨体を縮めて答えた。


俺はたれ目を作り悲しむような低い音声で口を開けた。


「なるほど…。大変でしたね。」


「はい…。」


「村の大人の男性は徴兵されたのでしょうか?」


「はい。自分はお父さんと山奥でイノシシとモンスター狩りをしていたので…何とか徴兵から免れました。」


「村が焼かれたのはなぜ?」


「徴兵管理官という野郎が……。」


レックスはそこで口を閉じた。


俺は何も言わずにただ待った。


その内面に渦巻く憎悪の一部を感じられたからだ。


そう。


まったく俺と同じ何かを経験した。


「村の娘を…犯そうとして…それで娘の父が抗った結果。この村を見せしめとすると村の家や共同馬小屋とか全部焼かれました。」


なるほど。


利用するか。


「その娘は…?」


その言葉にレックスの体がびくと動いた。


そして全身を震えながら何かを我慢する震える声で答えた。


「私の幼馴染です…。彼女は父が殺された後、騎士の剣で殺されました…。」


「…くっそ騎士ども!」


俺の言葉にレックスは溜息を吐いてうなずいた。


「とても残念でした。」


「いや。いいんです。」


「無神経でした。」


俺を数秒口をつぐんだ後、レックスに聞いた。


「次にお聞きしたいのは、貴方の村は…。いや、あなたの村があった場所からここは遠いでしょうか?」


「そうですね。村から出てもう10日ぐらい経ちました。」


「ではその途中で何回かほかの村を見たことはありますか?」


「はい。四つの村を経てきましたね。」


「ふんーそうですね。ではお聞きしたいですが、その四つの村で何かありましたか?」


俺の最後の質問にレックスの顔が険しく変わった。


眉にしわを寄せて唇を前に出してレックスは聞いた。


「何もなかったです。」


俺は軽く笑って言った。


「なるほど。ここに来るまでほかの村では男がいて、財物とか女を要求したんですね。」


レックスとリサは口を大きく開いて動揺を表した。


「念のために言っておきますが、私はそんなこと要求するつもりはありません。もっと別のことをあなたに要求しようと思っています。」


「別のこと?」


レックスは戸惑いながらも俺の言葉を理解しようとしている。


素晴らしい素質だ。


「そうです。もう食糧も避難のための品もなくなっているはず。あなたが率いてきた彼らをどこに連れて行こうしていますか?」


「それは…。」


「ないでしょう。ただ村が焼かれて戸惑いながらここまで来たはずです。当たり前ですが、村の再建は到底考えられない。したがって新しいところ。できれば食糧が簡単に得られるところに行かなくてはいけない。ですがそんなところそう簡単に見つかるはずがない。そう。あなたはあなたなりにまず行動をとってここまで来ました。」


レックスはそれを聞いて歯を食いしばりながら聞き返した。


「それで?それが何か関係ある?」


言葉使いが変わったレックスを見て俺は微笑んだ。


「わが村に編入するのはどうだ?」


もちろん俺もそれを境に言葉を変えた。


レックスはフンと鼻息を吹いて笑った。


「お断りだ。一晩寝かせてくれるのはありがたいがそれとこれは別だ。」


「恩を貸した人間に対する言葉がそれか?」


「あんたには感謝している。だけど俺についてきてくれたみんなを守る責任が俺にはある。」


「俺もそうだが?」


レックスはあざ笑うように唇を吊り上げた。


「ならわかるだろう。俺を信じてくれる人々をお前が誰か。お前の村民はどういう人たちなのかもわからないのにそう簡単に混ざれるわけがない。」


俺は腕を組んでじっとレックスを見つめた。


レックスも負けずにそんな俺を見つめている。


いい人間だ。


まず俺に対して嘘をつかないこと。とてもつらいはずなのにすぐ甘えたりしないこと。恩は恩とちゃんとわかっていてそれでも譲れないことは譲らない。


こういう人間は裏切りなんかしない。


俺に絶対必要な人材だ今後のために。


「ごもっとも。」


レックスは驚いたように目を丸く大きく開いた。


「俺がどんな人間か知った後村に編入するのも悪くないだろう。そもそも俺に盲目的にしたがってくれないものは味方になってくれても困るのは俺だからな。」


俺は組んでいた腕をほどいて告げた。


「だけど恩は恩だ。お前は恩を返すべきだろう。そこで依頼が一つある。」


「なんだ?」


レックスは興味ありそうに身を乗り出した。


「お前の村の女の子に手を出そうとした村の位置と人数武装を教えてくれ。」


レックスは口をぱっと開いて止まった。


数回頭を振って冷静を取り戻したレックスは言った。


「知ってたのか?まさか…お前も…。」


「誤解しているようだな。言っておくが俺はその村を略奪するつもりだ。」


「略奪だと?たかが少年1人が?」


「もうすぐ大人である17歳だ。1年が過ぎたらな。」


「ふざけんじゃねぇ!たかがお前ひとりで何ができる?!」


「決闘だ。」


「決闘?」


「やるのはお前だけどな。」


「はあ?!」


大声を出したのはリサだった。


「なぜ驚く?」


冷静な俺の言葉にリサはさらに悲鳴のような罵倒を浴びせた。


「このバカ!何を考えてるのよ!」


「略奪の方法だが?」


「そんなのできるわけないでしょう!このくっそばか!」


俺は眉を寄せて不満を表した。


「完璧な作戦が用意されている。それを聞いて判断しろ。それとこの依頼を受けるか受けないかはレックスが決めることだ。」


この会話を聞いて何かを感じたのかレックスが聞いてきた。


「作戦というやらを聞かせてもらおうではないか。」


「いいだろう。」


俺はそのあと数十分にかけて作戦を説明した。それを聞いてリサは俺を嫌悪するような視線を送り、レックスは冷静沈着にそれを聞いて一晩だけ時間をくれと言って用意された空家に去って行った。


その次の日レックスは俺に依頼を受けると告げた。








それから1か月が過ぎた。


俺は俺より幼い少年少女の訓練を終わらせた。みんな槍と盾の使い方は完全に理解してもはやゴブリンなどは相手にならないぐらいになった。


レックスは1か月間俺とリサと絶えなく戦いの練習を重ねた。


俺は1回も勝てないのは当然だとしてもリサもレックスと勝負して引き分けで終わっていた。


「バケモノめ!」


俺の文句にレックスは呆れた顔をした。


「お前がそんなことをいうか?この1か月瞬発力・判断力・観察力たったそれだけでお前より頭二つ大きい俺と対等に勝負できて、結局力任せでやっと倒せた俺としては呆れるぐらいだぜ。」


「……」


リサはそんな俺を見ていつも通りすっきりしない顔で黙々と木剣でレックスと立ち向かった。


「それとこの女はなんだ?何一つ俺より劣らないではないか…。いや…。むしろ本気を隠せているな…。これは…。」


レックスはぶつぶつ嘆きを吐きながらも木剣を持ち上げ姿勢を立て直した。


「行くよ。」


「いつでもどうぞ。」


その言葉と同時にリサの姿が消えた。そして瞬時にレックスの右側に現れすさまじい速度の薙ぎで攻める。


レックスは木剣を斜めに傾きつつその圧力に身を任せて横に跳ぶ。


いつみてもバケモノ同士の戦いだ。


レックスはリサの疾風のような攻撃を流したり、防御しつつ反撃の隙を見ている。もちろんリサはそれをわかっているため、一撃一撃が致命傷になり得る部位を狙っている。


やがて15分ぐらい経った後、両方同時に引き分けを提案するようになる。いつものことだ。


片方は防御だけで疲れ、片方は攻撃だけで脱力している。


「毎日毎日こうやって練習台になることはお断りだ。」


「こっちの台詞よ!あんだけボコボコにしたのに何で立てていられるのよ?」


「はあ?攻撃が成功したことはないんだが?」


「あ、そう?」


リサのいらっと来る言葉使いにもさすがにレックスも慣れてきた。


まあ、二人が仲良くなるのはいい傾向だ。


俺は服についたほこりを叩いて落とし、二人に声をかけた。


「覚悟はできてるな。」


「俺のセリフだな。お前こそ大丈夫か?」


「問題ない。」


淡白にそう答えた俺は計画通り訓練を重なった百名の少年少女を率いて村を去った。








ほかの村に遠征しに行くと言い出した時、十五歳前後の少年少女はもちろん大人たちもあんまり乗り気ではないように見えたが、女の子たちをさらって売り物にしている可能性がある。そんな連中を許せるわけがないと告げた。


それが大前提だったけどたったそれだけで動くわけにはいかない。あの村には食糧と財宝があると言った。


もうすぐ本当の意味の冬が始まる。その前に何とか食糧をため込んでないといけない。


全員が共通に考えることだ。そして新しい住民が加えられた。


みんな女性や十五歳前後のまだ少年少女だ。


そう簡単に見捨てるわけにもいかない。そして住民は増えれば増えるほどよい。


当然やれることが増えるからだ。当然のこと。


それを知っているからこそ村全員の賛成があった。


まあ、重要なのは俺に逆らってはいけないという認識を少しつつ植え込んでいる効果が露わになったのだろう。


「村長!」


前に歩いていた子供が草陰に隠れながら戻ってきた。


「いたか?」


「うん!ネイトン川十個ぐらい離れたところにあった!方向はピアナス星が上る方に!」


「よくやった。ありがとう。」


俺は軽く顎を頷かせた後、みんなを率いて進軍を続ける。


歩いて三十分。方向は北。


そろそろここで休憩し、明日朝計画を実施する。


小さな川が流れる平野で野営を開始する。見つかりやすいがこっちが警戒することもよい環境だ。


俺はみんなを先に寝かせて不寝番につく。


みんなは疲れていたかすぐに眠りについた。


暖かいたき火の熱を浴びながらこれからのことを考える。


「疲れてないのかお前は。」


そんな俺の隣にレックスが座り込む。


「疲れてない。お前は?」


「疲れてないな。狩りをしているとこれよりつらいときはいつもあったからな。」


「そうか。それでも寝たほうがいい。」


「心配するな。俺の役目はちゃんと全うする。」


「それは当然のことだ。その当然以上のことをさせたいから寝ろと言ってるのをわからないのか?」


レックスは俺の発言に小さな声で笑いつつ言った。


「わかった。まあ、ただ寝る前にいいおとぎ話聞かせてもらおうと思ってきたがな。」


「昔々…。」


「……。本気か?」


俺は軽く笑った。


「何が聞きたい?」


「お前の話さ。何があったかを聞かせてくれ。」


あんまり乗り気にならないな…。


だがレックスはもう仲間といってもよいだろう。


「父が徴兵に来た連中に殺され。母は父が死ぬ場面を見て衝撃を受けて死亡。」


「…それは先に言ってくれよ。悪かったな。」


俺はまた軽く笑った。


「別にいいさ。やられたらやり返すだけだ。」


「やり返す?」


何を言ってるか理解できないようだ。


「徴兵管理官というやらは俺の父を殺したあいつだけじゃない。この国に存在するすべての管理だ。どこにもああやってゴリオス王国を賛美し、忠誠を誓い、民を虫のように見る存在はあいつだけではない。俺はそれを許さない。そのすべてのものに復讐をする。」


「……本気で言っているのか?」


「お前はまだ俺を知らないのか?俺はできる。当然であり、自然なことだ。復讐を成し遂げられる存在だ。」


「…ははは…なんとなくできそうで怖いな。」


俺はたき火を見て。


燃え上がる火は右左上下に揺れれ影も踊るように揺られていた。


「お前も俺と同じだろう。」


「うん?」


「殺されたあの子。好きだったろう。」


「…。お前は何から何までただ推測でそこまで知られるのか?」


「お前があの子を話すときただの友達とかの雰囲気ではなかったからな。自分の感情を制御できないほど好きだったからだろう。」


「…そうだ。何があっても助けてあげたかった。だが無力な俺では…ただじっと見てやることしかできなかった。」


俺はたき火から視線を動かしてレックスを見つめた。


酷く歪んだ顔のレックスを見て俺は告げた。


「俺とともにしないか?この王国を滅ぼし貴族と王族をぶっ殺すのさ。」


レックスは笑った。


それはすっきりしているようにも見えて、何かあきらめたようにも見える微笑みだった。


「いいだろう。ついて行ってやる。お前が見てるその先まで。」


「言っておくが血まみれの道だ。覚悟しておけ。」


「エイミを殺したあの騎士をこの手で殺すまでは屈服しないから安心しておけ。」


頼もしい。


「明日からお前は俺を主君と呼べ。」


「はあ?!」


「当たり前だ。これから俺たちは村を超えて都市を作り、州を支配し、やがて国王を殺すのだ。俺は王になり、お前は大将軍となる。当然のことだ。なんだ?それともお前は王になりたいのか?」


「いや!違う!俺は王なんかになりたくない!だけどな…。」


「うるさい。受け入れろ。すぐ慣れる。」


「そういうところが怖いんだよな…。」


レックスは溜息をつきながら寝床に戻った。


俺は二時間の警戒を終えて眠りについた。


明日は忙しくなる。


雲のせいで微かに見える月を見てそう思った。








「隊長。起きろ。」


俺は目をゆっくり開けて沈んだ声で口を開けた。


「その呼び方はなんだ。レックス。」


「主君は俺の趣味ではないからよ。だから隊長と呼ぶことにした。」


体を起こし軽く手足を伸ばせて眠気を追い払った後俺はレックスを直視しながら言った。


「言葉使いも丁寧に変えずに隊長だと?しかも俺たちは隊の名前なんか持ってないしそもそも隊でもないのだが?」


「いいじゃないか!さあ!決戦の日が上ったぜ!行こう!」


「はあ…。まあいい。お前は特別だからな。」


レックスは大きく笑いながら言った。


「うははは!特別か!」


なぜ笑うのかわからないが聞きたくもなかったので無視した。


「みんなは?」


「もう起きて朝ごはん食べて準備万端だ。」


「なぜ俺を起こさなかった。」


「疲れているように見えた。リサも起こさないでおいでって言ったしな。」


確かみんなが準備を終えるまで寝ていたとしたら、そうと疲れていたのだろう。


布団と毛布を整理しながら考えるとそれもそうか…。


朝はレックスとの組手をし、昼には攻撃のための物資準備と村民たちの苦情や要請の検討。夜には特別偵察訓練のためのみんなの指揮をとったりした。レックスが連れてきた少年少女との親睦会の実施。疲れてないと思ったけど疲れていたか…。


やがて荷物の整理が終わった俺は準備していた白いマントを付けてみんなの前に立った。


右にはレックスが、左にはリサが立っていた。


リサは計画を聞いて今まで黙っていた。


普段の彼女なら想像もできない落ち着いた態度だ。


「昨日はよく寝たか?」


「はい!~~~」


変声期の真っ最中の大声が平野に響いた。


「おいおい!元気ではないか!言っておくがこれから人殺しに行くんだぞ!緊張するよりはましだがな!」


あっちこっちで失笑が続いた。


「教えたことはちゃんと覚えているのだな!唱えてみろ!」


「一、村長の指揮に従わないと死ぬ! 二、命令が下ったらすぐ防御態勢を作る!三、いつも通りだ!」


「よく覚えているな。みんな一番重要なのは三番だ。いつも通りのことだ盾で攻撃を防ぎ、槍で仕留める。それだけだ。隣のやつがアホくっさいことしたら尻でも蹴ってやれ!」


「はい!」


朝の点検が終わり出発した。


冬の寒さは今まで狩りで得た動物の皮で凌ぎ俺たちは進む。


そして現れたのは俺が住んでいる村と変わらない平凡な村だ。


レックスから聞いた通りに村を防御するための外壁すらない。


まあ、普通はありえないがこうなっているということはよほど相手はバカかそれとも天才かなのだが、レックスから聞いた話では凡人以下だ。


俺たちは予定通りに堂々と村い近づいた。


すると村から大声が聞こえてきた。


「敵だ!敵襲だ!」


(落ち着いている。警戒はしているな…。)


そのあとすぐ村の外まで一連の連中が軽武装して現れた。


(フン…。武装はそこそこだな…。案外大物がかかったか…。)


自然ににやけてしまった。


笑いたくてたまらん。


アホであるかつ、本当にありがたい豚ともいえる。


軽武装をした連中の中でレックスより頭一つ大きい図体の男が前に出た。


驚くことに馬に乗っている。


そして武装も違う。


鉄の鎧で身を包み、鉄の大検。


ピカピカするほど光沢を出している鎧と剣だ。


それを見ながら俺は隣に歩いているレックスを見てこう伝える。


「レックスお前はああなるなよ。」


「ああ。当然だ。」


鎧に傷一つない。鎧に修理した痕跡もない。剣は宝石まではめ込まれている。


確か武装は重要だがどうだろうか。


だが今見た感覚としては強者ではない。


「ははは!レックス!尻尾を巻いて逃げたお前とまた会うとはな!」


「ロイキン久しぶりだな。お前をぶっ殺しにきた!」


「俺を殺すだと?はあ!冗談がうまくなったじゃないか!お前ら全員ぶっ殺してやる!」


ロイキンと呼ばれた男は馬の手綱を握り剣を抜いた。


それを見て俺は前に出た。


「おい。」


「なんだてめぇは!」


「レックスの主だ。」


「はあ?!ガキ同士でえらいもんだ!」


ロイキンは笑いながら挑発した。


「お前の支配者に口を慎め。」


俺が厳重にそう告げるとロイキンは明らかに憤怒で震えながら怒鳴る。


「…ガキ…お前は殺してくださいと哀願させてやろう!」


「決闘をしないか?」


俺は淡々と告げた。


「決闘だとぉぉぉ?」


嘲笑うように語尾を伸ばしながらロイキンは馬の上で俺を見下ろした。


「お前が勝ったら俺の村とそこで得られるものすべてを上げよう。」


それを聞いたロイキンはいやらしく舌なめずりをした。


「おいおい。お前たちを捕まえて拷問すればわかることだろう?」


(バカめ。一々説明しないと利益の計算もできないのか?)


「よく考えてみろ。売り物が増えるというもんだ。それも損失なしにな。おいしい話だと思うがね。」


「ほお…。」


ロイキンは俺をじっと見つめてきた。俺も負けずにそれをじっと見つめた。


「ククク!よい!俺が勝ったらお前ら全員俺の商品になってもらう!特にお前はいい売り物になりそうだ!最近の貴族のご婦人たちは若い美男性が好みらしいからな!クハハハ!」


愚かだな…。


今の話で人身売買をしていることをなぜ知ってるかそれを知ってなぜ躊躇わないのか。


俺ならそれを気にするだろう。


バカはいらない。予定通りの始末対象だ。


「レックス殺せ。」


「よっしゃ!ロイキン!かかってこい!」


レックスの雄叫びを聞きレックスは馬を突進させた。


俺はその場からさりながら告げておいた。


「馬を殺すなよ。」


「おい!まじか!」


「奪ってお前が乗れ。」


レックスの顔が明らかに明るく変わった。


レックスは剣をしまって弓矢を取り出しロイキンを狙い矢を射た。


シッー。


迫ってくる馬にとんだ矢は馬の頭の横をすりぬいてロイキンの鎧にぶつかりかすり傷を作り落ちてしまった。


「うまいな。」


俺の感嘆にリサは首をひねた。


「はあ?全然ダメじゃん!」


「このくっそガキが!俺の鎧に傷をつけるとは!」


「ほらね?」


「……。」


ロイキンは自分のピカピカ鎧に傷ができたことにいらっと来ている。


レックスはそれを狙ったのだろう。


さすがに狩人の息子だ。うまいもんだ。


ロイキンはそんなに遠くない距離を馬に鞭を打ち続けている。


当然馬はレックスに向かってものすごいスピードで猛烈に突進している。


レックスはそれをちゃんと見て横に身を投げて転ぶ。


ロイキンの大検はレックスに届かずに空振りした。


ロイキンは馬を反転させ再突撃を開始した。


リサはそれを見ながら言った。


「レックスは勝てるの?」


リサの疑問に俺は笑ってしまった。


リサの鉄拳が顔面で受け止めた後、俺はその質問に答えた。


「なぜわざわざ鎧に狙いを定めたかを考えてみろ。」


レックスは再び狙いを定めた。


「当然必要だったからでしょう?」


レックスは深呼吸を繰り返す。


「そうだ。ならなぜ?」


ロイキンが馬の上で両腕を高く上げ大検を頭の上に乗せた。


「わかんない…。」


レックスの矢が弓から離れ、的に向かって走る。


「答えは勝つためだ。」


そして大きく開いた兜と鎧の隙間。正確に言うと喉に矢は深く刺さった。矢の頭部分が喉の後ろに出ているぐらいの致命傷。即死だ。


手綱が緩くなったことを感じ馬はいつも通り速度を落として止まる。


それと同時に馬の上に載っていたロイキンの死体が地面に叩き落とされた。


「うおおおおおおお!」


レックスは雄叫びを高く上げ勝利を満喫した。


俺は腰から剣を抜いて敵に向かって告げた。


「俺たちの勝利だ!武器を捨てて降参しろ!降参しないやつらは全員殺す!」


それでも百名のうち七十は槍や剣を握りあきらめずに突撃を開始した。


何の準備もなく何の連携もない突撃だ。


「レックス!馬に乗ってあいつらを蹂躙しろ!」


「おい!俺は馬に乗ったことねえよ!」


一々うるさいやつだ。


「慣れろ!そのデカイ体と馬鹿力で慣れろ!」


「クッ!わかった!」


馬に乗ったレックスを見つつ俺はリサに告げた。


「みんなを守ってくれ。」


「言われなくてもそうするわよ!」


リサは覚悟を強くしながら防御の前に立った。


「全員!いよいよ戦闘だ!いつも通りだ!盾を持ち上げろ!敵の攻撃を防げ!槍はただ刺すだけで十分だ!あのバカみたいな突撃を見ろ!マックス!まるでお前がメリに蹴られて逃げるようだよ!」


マックスが否定したがみんなは笑って緊張をほぐす。


俺も大声で笑いながら言った。


「初戦闘だ!油断するなよ!俺が強そうな連中は切り落としてやる!レックスが後方から攻撃してくれるさ!」


そこまで話した後、敵との距離は手が見える距離まで近づいた。


「復讐のために!」


「復讐のために!」


俺はみんなを声を聴きなら前に立った。


俺の作戦計画はとても簡単そして完璧だ。


敵将を殺す。


それで終わりだ。


今突撃している連中は予想外だったがそれでも計画通りだといえる。


第一の攻撃。


簡単に敵の剣を流し流すまま腹を切る。


ゴブリンの攻撃よりは強いが、やせたオークの力より弱い。


リサが前で受けた攻撃を流すと後ろで壁となっていた部下が盾の隙間から敵の一陣に槍を刺す。


完全に熟知されて水が流れるような自然の動きで敵を仕留める。


敵の攻撃を流し殺していく。


そんな単純作業している中で見えたのは戦闘に参加していなかった敵五人があっちこっちに逃げる姿だった。


残りの二十五名はどうするべきかわからないのか戸惑いながらその場でじっとしていた。


何をするべきかどうするべきかを瞬時に把握した俺は命令を出した。


「レックス逃げるやつら全員殺せ!」


「おう!」


レックスは馬に完全になれてはいないが力で馬を操っている。


頼もしいやつめ。


俺は次の命令を出した。


「全員防御を固めたまま前に前進!」


「はっ!」


盾での壁を維持しながらの前進は中々体力を奪う。


だけど必要だ。


最初に突撃した七十は多分ロイキンの部下ではない。隊長が殺されても突撃したのだ。


でもなぜだ?何の理由があって突撃したのか?


単純に相手は子供だから勝ち目があると見て?


いや、そうではない。何の連携もなくても突撃は突撃だ。


多分こうだろう。


七十の人間は事前にこういうことが発生したら突撃しろと言われた。


そしてその隙間に五人が逃げる。逃げ先はロイキンに金と武器・防具を与えた存在。


残り二十五人の部下がロイキンに従う部下であろう。


信じていた隊長が殺されたのだ。忠誠心があったら一緒に攻撃を仕掛けたかも知れないが、彼らは武器を捨てて伏せているだけだ。つまり戦闘意思がない。


だから前進しないといけない。


本当にそうなのかどうかを確かめるのだ。


俺たちの前進を見て二十五名は武器を捨てて降参の意思を表した。


見ればどれも平凡な農民だ。


だとしたら逃げた五名がやっぱりロイキンに金を渡した部下だろう。


また一人首を切った後俺は部下たちの様子を見た。


みんな冷静に対応している。


きちんと防御しながら槍で次々と仕留めている。


そして俺が最後の敵の首を切った後レックスは5人の首を縄でまとめて持ってきた。


「ご苦労。」


「簡単だったぜ!」


レックスは笑ってはいたが手綱を握っている手はすごく震えていた。


顔も痙直して不自然な状態だ。


人殺しが初めてである証拠だ。


俺と同じかそれ以下の年の少年少女たちの中では戦闘が終わって泣き出すものもいた。


リサはそんな部下たちを慰めていた。


だけどその中でも何とも思わないもの、怖いけど必死に耐えているものもいた。


俺は待っていた。彼らが泣くのをやめるまで。


本来普通に生きていけばこんな経験はしなくてもよいだろう。


辺境の地で生まれ五十人が暮らす小さな村でそんなに大きくない畑仕事をしながら大人になって愛する人同士で結婚し年を取ることを残念に思いながら子供がまだ育っていく姿を見ながら笑い小さな幸せを満喫しそれで地に帰る。


その人生を今は反逆者と呼ばれる道を歩むことになっているのだ。


俺は部下たちを見て静かに声をかけた。


「勝利した。それが悲しいか?」


誰も答えなかった。


「俺は…うれしい。勝利したことに対してではなく、お前たちが無事で誰一人怪我せずに終わったことに心の底から安堵している。」


みんなが俺に集中している。


「この先このような日々が続くだろう。俺は復讐を諦めてないが…それでも俺は死んだほうがいいのかもと思っている。お前たちをこれ以上に辛い目に合わせるのなら俺が死んでこれ以上の危険を冒す必要はないかもしれないから。」


俺のその言葉に涙を浮かべて誰もが叫ぶ。


―村長!そんなこと言わないで!


―俺たちは戦う!もう二度と家族を手放さない!


―勝った!そう勝ったじゃん!


―兄さん!絶対ついていく!だからそんなこと言わないで!


俺はみんなに向かって優しい笑顔で手を振ってやった。


「そうだ!俺はお前についていくと決めた!それに俺たちは勝利した!胸を張れ!隊長!」


レックスは微笑みを消して真剣な顔でそう告げた。


俺はみんなを一周して見渡した後叫んだ。


「もしこのような日々が続いたとしても俺についてきてくれるなら約束しよう!この先、その最後で俺たちは今日の辛さを何倍にして幸福になる!みんな俺についてきてくれるか!」


「おおおおお!」


みんなの歓喜の声が空高く響いた。俺の名前を連呼する部下と涙を流しながらこぶしを上げるもの。


そしてリサは暗い顔で下を向くだけだった。


見たくないものから目をそらすように。








俺はみんなを警戒させつつ回収した武器を配って武装を強化させた。


その後、降参した敵の手首を縄で拘束した。三十人に捕虜の警戒任務を任せて、


残りの七十人は村の探索を行った。


捕虜になった男は三十名。みんな大人だ。


子供はいない。


(予想通りだな。いらない口は増えなかったことに感謝すべきか。


俺は心の中でそう思いつつ、村の真ん中一番大きい家の前に立った。


ついてきているのは、レックスとリサと十五人の十五歳の少年たち。


俺はそこでこう告げた。


「この中には俺とレックスだけが入る。残りは周囲の警戒につけ。」


「はい!」


みんながそう答える中、リサは反対意思を表明した。


「私も入る。」


「命令を聞け。」


俺は顔をしかめて拒絶した。


「いやよ。それに…。私の能力知ってるでしょう?もう…わかってるの…。」


「…勝手にしろ…。」


俺は舌打ちをしてそう許可した。


門のとってを握った瞬間後ろから声が聞こえた。


「リチャード兄さん。」


俺は後ろを振り向いた。


「ジョン…なんだお前も中に入りたいのか?」


「うん。」


俺は俺より背が小さくまだ子供の無邪気な雰囲気が残っている少年を見つめた。大きいエメラルド色の目と茶髪の髪色をした少年。最近の狩りと訓練で唯一泣き声を上げなかった少年だ。


むしろ面白さを感じているようにも見える。


俺はそのジョンをじっくり見つめた後口を開けた。


「許可する。」


「ありがとう!」


「お!…おい!」


レックスが慌てて俺の肩を掴んだ。


そして小さな声で俺を制止する。


「まじかよ!リサは躊躇ったのにあいつにはなぜ許可するんだよ!」


「ジョンはいつも冷静でいられる上に俺の支持にきっちり従うからだ。」


「いや!そうだけどさ!」


「それにこの経験もジョンには必要だ。」


「え?」


レックスが疑問を表したが俺はそれを無視して中に入った。


そこにあるのは大きな金貨の山。


まるで自慢するように、この財宝は自分のものだから誰が見ても関係ないと。


盗まれるわけがないと主張するように露骨に置いてあった。


それを見てレックスはその財宝を見て衝撃を受けたか何も言えずにただ口をパクパクとしている。


リサは興味なさそうな顔で何かを覚悟するようにどこかを凝視している。


ジョンは財宝よりもあっちこっちを見て何かを探そうとしている。


3人の反応を計らいつつ、俺はその中央からそれぞれ右と左の門を見て指差す。


「リサとレックスは右の部屋。俺とジョンは左の部屋に入る。」


リサは何かを言おうとしたが俺は目でそれを制止した。


右の部屋に入ったレックスは歓喜の声を上げた。


「なんだこれ!すごい剣があるじゃん!それとなにこれは!うおおおおお!」


武器と防具か。村のみんなを武装するには十分だろう。


戦力増加が期待できるな…。


そんな思いに深けている俺をジョンの声が呼び起こす。


「ねえ。兄さん。この中に何があるの?」


俺は素直に答えた。


「多分若い女性と子供だろうな。」


「へえー何で兄さんはそれを知ってるの?」


「それで金を稼いていたのだろう。周囲に鉱山があるわけでもないし、大規模の畑があるわけでもなかった。特産品なんかないとしたら金を稼ぐ手段はそれしかないだろう。まあ確信を持った切っ掛けはレックスの話だったがな。あいつ、この村に来たとき、あいつの村の若い娘をロイキンと呼ばれた男に襲われそうだったと言ってた。」


「なるほど!そうなんだ。」


中に入ったら生臭い悪臭が漂っていた。魚が腐るような臭いであった。


そして目の前に広がるのは全裸の女性たちだった。


何一つ隠せていないで目線は空中を泳いでいて、正気を見失っているように見えた。


背を壁に凭れてただ息をしている。


そしてその大きな部屋の反対側の壁には折に入っていたり、足首につながった鎖に鉄球がついて動けない女性が一部いた。


何があったかは容易に想像できる。


それをジョンはフウンと軽く声を上げた後、俺に振り向いた。


「どうしよう。」


冷静沈着。まさにその通り。


だが、そこには感情一つ見えない。


「まず、足鎖とかをほどくべきだろう。それはレックスに任せよう。ジョンお前は部屋の調査をして服を探し出してあの人たちに渡してやれ。」


「うん!わかった!」


ジョンが部屋の片方にあるクロゼットをあけ服や毛布などを探し出してベッドの上に着々置く。


「どいて。」


後ろからリサの声が聞こえ振り向いた。


リサは悲しい顔をしていた。


「見たくないだろう。」


俺のいらっとした声にリサは目をまっすぐ見て言った。


「見たくないから目を背ける人間にはなりたくないから。」


(くっそ!)


心の中で悪口をしつつ俺はリサが通れるように横に立ち下がった。


俺はもう金貨と銀貨。そして鉄のインゴットと武器・防具を運びだしている部下たちを見ながらレックスを呼んだ。


「馬車はあったな?」


「おう!がっちりしたものがこの家の後ろの馬小屋にあったぜ!」


「何台だ?」


「それがさ!三台もあったのよ!」


「全部運べるなこれは。」


「そうだぜ!これで冬は心配なくすごせるよ!」


「捕虜たちは?」


「村の外の平野に集めておいた!」


「今回はいいけど次からはメリに指揮を執るようにしろ。」


俺の命令にレックスは首を傾けた。


「あのかわいいらしい女の子にか?」


「判断力、分別力、対応力。すべてにおいて俺は満足している。彼女は優秀だ。」


「わかった!」


俺はレックスを連れて村の外に出た。


そこには捕虜たちが地面に座りこんで不安に怯えていた。


「この中で、ロイキンの足枷を解除するためのカギがどこにあるか知ってるもんはないか?」


俺の言葉にざわめきが広まっていく。


そして数秒が経たない内に誰かが拘束されたまま立ち上がった。


「え…えっと…それって…あの女たちを解放するつもりなんでしょうか?」


俺は無言のまま頷いた。


立ち上がった男は何がを恐れて風に揺れる木の枝のように震えた。


「だ…ダメです!そんなことしたら!絶対殺される!」


「徴兵管理官は心配要らない。そもそも誰がやったかわかる筈がない。」


男は意表を突かれたか変な声を出した。


「え…?」


「お前たちが心配する対象は金を渡す存在の返り討ちをするかが心配なんだろう?でも考えて見ろ。誰がやったかわかる筈がない。」


男は首を左右に強く振った。


「あんたはあいつらがどんな人間か知らない!絶対許すわけがない!この周辺にある村を全て焼き付いても探し出すさ!」


「好都合じゃないか。」


「え?」


俺の即答に男はきょとんとした。


「お前はあいつらを見て思ったことはなんだ?」


男は周りの仲間たちを見たが首をかしげるだけだった。


俺はそれを見て強く主張した。


「管理官。つまり文官一人と騎士一人残りは十五人ぐらいの兵士だ。」


それを聞いた男は驚愕した。ひどくゆがんだ顔でこういった。


「まさかあんた…あいつらと戦うつもりか?!」


「当然だ。」


「そんなことしたら俺たちは死刑だぞ!」


俺は鼻で笑った後大声を出した。


「バカめ!誰が死刑を執行するんだ!よく考えて質問しろくっそバカが!」


俺の気迫に尻を地に落として引き下がる。


「そもそもこんな大人の男性をここに置いておく時点で兵は十分だということだ!その上にひとりになった女性を力で奪い売り物にしている!何を意味するか考えてみたことがあるかくっそバカが!あの徴兵管理官というやつは上から管理されていないということだ!それが意味するのはたった一つ!あいつなんか死んだとしても誰も気にしないかむしろ気づくかさえわからんということだ!バカめ!わかったらさっさと鍵を渡せ!」


俺の罵声に男はヒイと驚き答える。


「あ!…あの家の引き棚にしまっているはずです!」


俺はその答えを聞いてロイキンの家に戻った。


家に近づくと先までなかった女の子たちの泣き声が聞こえてきた。


その嘆きはとてつもなく悲しい声で飾られていた。


俺は貴族や王族ではない他人の悲しむ姿を見て何も感じない人間ではない。


例え冷めていても感情がないわけではないのだ。


俺は家の前で警戒に当たっているみんなを馬車の警護に当たらせた。


レックスを連れて家の中に入った俺はリサと部下の少女たちに慰められている女性たちにこういった。


「起きろ。」


リサの目が鋭い光を放って俺に言った。


「何言ってるの?みんな傷ついたのよ?!」


「わかってる。辛いのもわかるし悲しいのもわかる。だからだ。傷は治らないけど同じ傷を与えることはできる。」


そこまで話した瞬間リサが俺に罵声を上げた。


「リチャード!あんた本気で言ってるの?!」


「勿論だ。俺は冗談が好きだが今回は冗談で言ってるわけではない。」


俺とリサの会話を見ていたジョンが仲に入った。


「ねえー兄さん。何するつもり?」


「捕虜になった男たちをどう始末するか選択権を与えるつもりだ。」


それを聞いてジョンは大喜びした。


「面白そう!やろう!」


「ジョン!あんたは黙ってて!」


リサはジョンに険しい表情を作り叱った。


だけどレックスは悩んだ後告げた。


「俺は…リチャードのいうことが正しいと思う。」


「レックス!」


「ほら…。もし俺が弱かったら…俺の村の女の子もあういう風になってっただろう…その上にあの子は母親と二人きりだ…父は徴兵されたんだぞ…もしあういう目にあったら俺なら…。」


「でもみんな協力的ではないはずよ!」


「だから言っただろう。選択権だ。」


俺は二人に対してそういった。


「俺が決めるわけではない。なおさら君たちに決めさせるわけでもない。どんな罰を与えてほしいのか俺に訴えるのかはあの女たちに任せる。不満があるなら、そして決定について何か話したいならあの悲しむ女たちに言え。特にリサ。」


リサは俺を燃え盛る目で憎しみを持って睨みついた。


「あんたはどんどん最低になっていくね。」


「…お前はどんどん矛盾の塊になっていくように見えるな。リサ。」


俺も負けずにリサを見つめた後、被害を受けた女の子たちを連れて村の外に出た。


それに続いて物資を乗せた馬車もついてきていた。


「そういうわけだ。お前たちに危害を加えたものをどうするかお前たちが決めろ。」


その言葉を聞いて今までじっとして黙っていた男たちが罵声を上げた。


「何だお前!俺たちは生かせるのではなかったのか!」


「このクッソガキ!ぜってぇぶっ殺してやるわ!」


「首洗って待ってろよ!殺してやる!」


男たちの犯行を見ながら横でそれを見ていたジョンに俺は告げた。


「ジョン。あいつらを黙らせろ。」


「え?レックス兄さんではなくて?」


「あいつに任せるとただ力で負けるから黙るように見せるだけだ。お前が好きなように黙らせろ。俺が言おうとしていることを理解できるか?」


「ああ!わかった。好きにやっていいよね?」


「二言はない。」


ジョンはウキウキしながら立ち上がって抗議を表す連中に近づき何のためらいもなく喉首を刺した。


ープシュッ!


空気が抜けるような音とともに血しぶきが空を赤く染めた。


「きゃああああああ!」


「うわああああ!」


それを見ていた女性の一部が悲鳴を上げたがほとんどは目を輝かせながら見ていた。


部下たちが混乱しているのを見て俺は命令を発した。


「全員槍を持ち上げ!」


「はっ!」


部下たちは頭で考えるより繰り返されていた訓練で身で覚えた動作で槍を持ち上げ盾を立たせた。


いくら大人の男性だとしてもそもそも自分の長がやられたところで降参した連中だ。


戦闘経験はおろか戦う覚悟さえない連中なのだ。こんな奴らが今まで生きている分ロイキンは仕事をしていたと言えるだろう。つまりこいつらはロイキンの武力に頼りすぎていたということだ。


しかも武装も没収されている。


ジョンはそんな様子を見て笑って言った。


「黙れ。静かにしないとまた一人殺す。」


無邪気で純粋。


ではない。


ただ残酷なことが大好きなだけだなあれは。


ジョンにも才能があると思い俺はあれを利用しようと思った。


「おい…ジョンと言ってたかあいつ…やばくねえか?」


「大丈夫だ。ジョンは俺たちの仲間だ。その上でのあれなら使い道はいくらでもある。だが…。」


「うん?だが何?」


「なぜ俺に従うのかが分からない以上注意はしないとな。」


「単純にお前がかっこいいだからではねえのか?」


「主君と呼べ。面白い話だな。お前は俺がかっこいいと思うのか。」


「はあ!べ…別にそんなんじゃないんだけど!フン!」


何でだろう。吐き気がするな…。次に同じことをやったら殴ってやろう。


「さあ、次に行こうか。お前たちが決めろ。生かすか。殺すか。全員生かすかそれとも一部を殺すか。」


俺は女たちにそう告げた。そして出てきた回答は想像していた通りだった。


「全員殺して!」


「あいつらも私たちを…私たちを…うう…。」


「ただ見ていた!何もしなかった!同じつらさを知っているはずなのに!虐待される痛みも!奪われる悲しみを知っているはずなのに!」


俺はしばらく彼女たちの怒りの罵声を聞き続けた。そして宣言した。


「ではほとんどの意見が全員死刑に見えるからそうしよう。」


その決断に男たちは立ち上がった。


「ふじゃけんな!クッソガキが!俺たちはただロイキンに従っ!…。」


ープシュッ


「静かにしろと言った。二言はない。」


うん?


俺の真似をしているのか?


大声を出していたものが喉首を手で塞ぎながら地面に倒れる。


俺は男たちを見て告げた。


「そんなに死ぬことが怖かったならなぜ恨みを買うようなことをした。ロイキンがお前たちを守ってくれると思ったか?バカなことだ。だから死ぬのだ。」


俺はそういいながらレックスから奪った鉄のロングソードを持ち男たちの前に立った。


「この中で女に手を出さなかった者は手を上げろ。」


沈黙。


「この中で泣いて慈悲を乞う女を見て行為をやめたり助けた人間は前に出ろ。」


静寂。


「この中でロイキンの暴政を止めようと立ち上がったものは…ないのだ。」


俺は剣をおろしまず一人を殺した。


「そして何よりの問題は…。」


俺は笑ってしまった。


一番の理由はそれだと。


自分自身が一番よく知っている。


それは自然な考え方だと思うほどそれが自分自身に一番響いていた。


「お前たちは無能過ぎて俺には必要ない。」


その日俺は抗うもの、静かにいるもの、泣くものすべて合わせて三十人の男を死刑した。


村に火を放った俺はみんなを率いて帰還した。


武装が強化され次はトロールとノールの狩りをする準備ができた。


今回の戦闘でジョンの才能とメリの才能を改めて確認できた。


人口が増えった分。兵科を分けてもよいだろう。


次は森の奥を探ってみようと俺は決心を強めた。

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