君が偉業を成して帰った時、俺はどうなっているのだろう…。
アイアンハンド
第1話 プロローグ
村民は50人。どうして知っているか聞かれたら、そりゃーこんな小さな村だから知ってるよとしかいいようがない。
隣の家のマックスさんと村から一番外側に住んでるベルンさんまで。
俺が知らない村人ってないんだから…。
そんなちっちゃな村だから村の名前もない、と思っていた。だけど…。
俺がまだ幼い頃、お爺さんに聞いてみたけど、優しく微笑みながらこう言った。
「リチャード。いいかい?村の名前はいないほうがいいのじゃ…」
俺はその時、なぜそんなことを言うのか分からなかったが…、
今になってははっきりとその理由をわかるようになった。
そんな小さな村で俺はある一人の幼馴染と毎日を楽しく過ごしていた。
赤い髪を肩まで伸ばして、ちょっと強気な印象を与えてしまう目が少し吊り上った女の子であった。口癖はいつも「リチャードってこんなことも知らないの!」だった。
花の名前を知らなかったらバカにする。
森で道に迷ったらバカにする。
昨日話したことを忘れていたらバカにする。
だから、本当は俺も怒ってやろうと思ったこともあった。
だけど、たった50人でなっている村だから、俺と同年代の友達は彼女しかいなかった。
友達が1人だということは、どれほど喧嘩しても仲直りをするしかないということだ。
その上にもし喧嘩したらいつも俺が悪いというな流れになってしまうから、
だから妥協した。まあ、受け入れたといったほうが正確だろうけど。
俺たちは毎日一緒に遊んでいた。森の中に入って魚を釣ったり、木の枝を集めて秘密基地を作ろうとしたり。
まあ、そんな日常も15歳になったら畑仕事に引っ張られて終わりだろうと、俺自身はそう思っていた。
それほど、俺は、子供の頃から冷めていたと思っている。
でも彼女は違った。
いつまでも明るいし、いつでも強気でいた。森の中で道を迷って日が沈んで大人たちに発見されるまでも泣いてもいなかったし、恐れてもいなかった。
そんな彼女を俺は尊敬していた。
俺が15歳になった時、村にどんどん外部から人々が移って来た。
大人の男性たちは皆病気にかかっていたり傷を負っていた。
痛みと苦しみから嘆きが終わることなく響いていた。
俺の父は村長だった。
村長として、父は村に来た多くの人々に薬と食べ物、そして寝るところまで準備してくれた。村に来た人々は感謝していた、だけどその流れは終わりなく続いた。
俺を含めた村のみんなは父のそういう対応を反対していた。
「なぜ助ける?」
「この冬を乗り越える食糧も充分ではないんだぞ!」
でも父はみんなをなだめてこう言った。
「現実的な理由と、個人的な理由がある。助けるしかないんだ。」
父は疑問を表すみんなにこういった。
「俺たちはこの村を諦められない。だとして、彼らを追い出そうとしたら殺す気でかかってくるだろう。そうなると……みんなわかってるな?村人の何人かは死ぬ可能性がある。」
その言葉に村の大人たちは黙るしかなかった。
父はちょっと悲しいような目をした。でも微かに微笑みを浮かべてこういった。
「個人的には…そうだな…過去の自分に戻りたくないからだ…」
その言葉に何人かは静かに涙を流して父の決断に従うと言ってその場を去った。
俺たち家族の家。つまり集会場を去った大人たちを見送って、俺は母に聞いた。
「母さん…過去に何があったの?」
その問いに答えてくれたのは、父だった。
「リチャード。それは言えないな…だけど一つだけ教えてやる。俺は…助けを求める人間を放り出せないんだ。」
俺はその言葉を忘れられない。
それが俺がなすべき事だったと思っている。
人々の移住が終わりなく続いた。
そしてそんな人々の大人の男性たちはみんな病気になっていたり、負傷していた。
何人かは村に来て、家族をどうかお願いしますと言って死亡した。
突然の死だった。人間が死ぬということはわかっていた。
でもそれは…そうだな。その時まではその事実を冬になれば木の葉が落ちて、春になれば芽生えが始まるというみたいな感じで思っていた。
だけど、他人の死であれ人間が死ぬことは衝撃だった。
そして、いつまでも強気で勇敢でいた俺の幼馴染はワンワン泣いていた。
ひどく悲しむ彼女の姿は俺はその時が初めてだった。
そんな彼女を見る俺を見た父は俺の肩に手を置いた。
「な。リチャード。」
父は俺の背中を押した。
「お前の幼馴染が泣いてるじゃないか。」
「うん…だね。」
父は軽くため息を吐いて笑った。
「そばにいてやれ。」
「うん…。」
どうやら恥ずかしがる俺の気持ちを察したようであった。
父は俺の背中をそっと押してくれた。
声はなるべく殺してはいるが、涙は止まらない彼女であった。
埋葬の儀が行われているそこから彼女の手を握ってその場を離れる。
村の外に出て歩き出す。
彼女は握った俺の手をほどくともせずにただただ一緒に歩く。
冬が近づく秋の終わり頃、赤く染まる森に向かって歩いた。
森の全体が見えるところで足を止めて彼女に向かって言う。
「大丈夫か?」
「…何言ってるの?全然何もないけど!」
なぜ怒るのか。
それを心の中では思っていたけど言わなかった。
代わりに。
微笑んでしまった。
彼女はまたいつもの彼女に戻った。
強気で、勇敢で、そして優しい。
それが俺に取って、とてもほっとするような安堵をもたらしたからだ。
「何笑ってるのよ!リチャードのくせに!」
「いたっ!」
彼女の拳が俺の頭を叩く。
マジで痛い。
彼女は子供の頃から力強かったから。
いつも思うけど、なぜほかの子供や年上には手を出さないのに、なんでいつも俺だけ叩かれるのか。
理不尽過ぎる。
だけど、なぜだろう痛いのに笑ってしまう。
「変態なの?!もっと叩かれてほしいのね!」
彼女は俺の反論抗議も聞かずに手を握ってこぶしを作り、何回も俺の頭を叩いた。
「違うって!安心しただけだから!」
彼女の暴力が止まる。
良かった。生き残った。
頭を守っていた腕を下して彼女を見る。
なぜか顔が赤い。
真っ赤になっている。
心配だ。
「顔赤いぞ?熱?」
泣きすぎて熱でも出しているのか心配だ。この時期で病気になったら下手したら死んでしまう。
彼女ははっと慌てて距離を取る。
「な!…なんでもないよ!」
「いや。油断しちゃダメだ。俺がおんぶしてやる。」
彼女が驚愕してなお距離を取る。
「お?!…おんぶ?」
「当たり前だ!病気にかかったら体力を温存するべきだ。なぜ言わなかった?ここまで歩くのに大変だったんだろう…。」
村から森までは結構遠い。
村の外には基本的に畑の平地が続き、畑が終わったら草原が続いて、その先が森だ。
森に入らずとも、ここまで歩いた距離も結構長いのだ。
「い!いらないって!」
「…病気ではないのか?」
熱を出したら、判断力が落ちる。彼女ははっきりと会話を続けているし、まあ俺を叩いた時の力強さを考えたら病気ではないのは確かだな。
「わ!私が病気にかかるわけないじゃん!」
「…。おいここで俺がその言葉に肯定したら殴るだろう?」
「…あ!当然よ!」
今更気づいたようだ。
でも本当に安心した。
俺は彼女を見ながら言った。
「よかった。本当に。君が病気になったら…たぶん俺は寝ても覚めても不安で普通にはいられないだろう。」
「えぇぇぇぇぇ?!」
彼女が先よりもっと顔を赤くしている。
病気ではないとしてもその異変は心配だ。
「やっぱりそれ明らかにおかしい。ちょっと父に聞いてみる。」
「い…いや!聞いたら殺す!あんたを殺して私も死ぬ!」
彼女のその反応を見て、俺はどうしようもできないからこういうしかなかった。
「…わかった聞くのはやめよう。ただし、何があったら絶対教えてくれ。君と俺は幼馴染だろう?」
「…あ…そうね。」
顔を赤くしたり、がっかりしたり。
まあ、女の子の心はよく知らない。
秘密にしてほしいというならそれに従うしかないだろう。
俺は帰り道に何回も何回も絶対に他人には言わないと彼女に約束した。
彼女はずっとぶつぶつ言っていたから、俺はかなり信用されないのかも知らない。
そして村に定着した人数が500名になった時。
俺の人生の中でけして忘れられないことが起こった。
冬をやっと乗り越えて、ある程度、新しい希望が、未来が始まるとする瞬間に彼らはやってきた。
徴兵管理官。
そして騎士たち。
狡猾な印象の曲がった髭を手でいじりながら馬の上で人々を嫌悪するような表情をした男、徴兵管理官が村人たちを見下ろしながら細い声で告げる。
「偉大なるゴリオス王国の国王陛下の勅命に従い、徴兵を実施する!17歳を超えた男は全員徴兵対象だ!ささっと前に出ろ!」
そして騎士たちがある程度の身長を超えている男を強引に引っ張り出して隊列に並ばせた。
人々は悲痛なうめき声とともに哀願した。
―まだ16歳です!
―どうか1日だけ!1日だけでも一緒にいさせてください!
―父ちゃんを連れてかないで!
―お父さん!
俺は15歳であって、身長も大きくなかった。お父さんとお爺さんは人々を代表して前に出た。騎士たちの前にひざまずいて、頭を地面に落として、哀願した。
「偉大なるゴリオス王国の徴兵管理官様。どうか!この者たちに家族に別れを告げる時間を!どうか!5分だけでも!お願いします!どうか!」
長い髭をいじりながら徴兵管理官は嘲笑した。
「フン!5分だ!5分が過ぎても従わなかったら!みせしめとしてお前を一番先に殺してやる!」
「有難うございます!偉大なるゴリオス王国に祝福あれ!」
お爺さんはその瞬間でも笑っていた。
「さよならじゃな。ええかい?リチャード。けして無謀なことはするんじゃないじゃよ。わしはこれでよいと思っとる。お前とお前の母ちゃんが無事ならそれで十分じゃ。」
何も言えなかった。
他の子どものように泣いたかった。
ただ、泣いても、解決にはならないのはわかっていた。
それほど、俺は、冷めていた。
お爺さんはそれだけ言って笑って列に真っ先に入った。
お父さんはそんなお爺さんを見て軽く笑った。
「リチャード。よく聞け。これで最後だからいらないことは言わない。必要なことだけをいうつもりだ。」
お父さんは俺と母さんをその大きな腕で抱きしめてささやいた。
「家族でいてくれてありがとう。二人とも愛している。これまでも、そしてこれからも。大好きだ。有難う。元気に生きてくれ。」
母さんは言葉にならない微かな声で喘いで泣き崩れた。
俺は冷めた人間などではなかった。それを聞いて、我慢していた感情が壁をぶち壊して目から熱い液体を流せ始めた。
俺は母さんの横で泣きながら叫んだ。
「俺は…!俺は絶対…!絶対許さない!この国の王様なんてやつを含めて!お前ら全員ぶっ殺してやる!」
俺の叫びを聞いた騎士が鬼のような顔をして腰に掛けていた剣を抜いて俺に振るった。
俺は目を瞑った。
言いたかった。叫びたかった。
だから子供だろう。いくら冷めていても、俺は子供であった。悪いことには前後を問わず怒られる存在であった。でもその剣は俺に届かなかった。
―ぶすっ
分厚い何かが堅いものにぶつかった音がした。
目を開けたら見えたのは、剣の頭がお父さんの右腕を半分切って出ている光景だった。
「お父…さん…?」
「無事か…?リチャード…?」
「お父…さん…?」
壊れたオルゴールのように俺はその言葉を繰り返していた。
騎士は剣を抜いて俺をかばって剣をその身で防いだお父さんの背に何回も切りまくった。だけどその剣はお父さんの背によって塞がれた。
狡猾な男がついにあくびをして騎士を呼び止めた。
「無礼者の裁きはその辺にして、王都に帰還しましょう。ケリアン殿。時間が惜しい。」
ケリアンと呼ばれた男は剣をお父さんの死体から抜いて、唾を吐いた。
「フン!命拾いしたな小僧!下等な身で偉大なる国王陛下を侮辱したその命をいつか奪いに来てやる!」
騎士が剣を収めて村の男たちを連れて去っていた。
俺をかばったお父さんはすでに息を止めていた。
血だらけで、体のあっちこっちが切り落とされていた。その姿は、誰かの目には吐き気がするようなものだろう。
または息子をかばった崇高な成人に見えるかもしれない。
だけど俺には…俺にはただのお父さんであった。
どんな姿になってもお父さんだった。
この世でたった一人の存在であった。
俺はお父さんの死体を一度ぎゅっと抱きしめた後、村の外の墓地に運んだ。
涙は止んでいた。
ただひたすら地面に穴を掘り続けた。
そして俺の隣に彼女が来た。
無言のまま、シャベルを握って穴を掘った。
ただ彼女が俺と違うのは涙を流していたことだった。
2時間ぐらい掘った後。
体の損傷が激しいその死体は、ただ顔だけは…笑っていた。なんの後悔ひとつないような顔をしていた。
母さんは墓地に来てお父さんを抱いて激しく泣いた。
そして俺を攻めた。
「あんたのせいよ!あんたのせいで死んだのよ!この人殺し!」
狂気に満ちて、自分を失って叫ぶお母さんに向かって俺は笑った。
「違うともお母さん。」
その表情が周りにどう映っていたかは一切気にしない。
俺の中での何かはもう壊れていたから。
「国・が殺したんだね?ねーお母さん。俺さ、夢ができた。」
俺は誓った。
「この国を滅ぼして、王と王に従っていたみんなを殺してやるのが夢になった。」
俺は決めた。
「一人残さず、従っていたみんな殺してやるのさ。」
そして俺はそれを実行するために変わると決めた。
「みんなそうだよね!息子を!夫を!お父さんを!奪われた!この国に奪われた!問答無用で奪われた!俺たちが何をした!罪を犯したのか!王に悪いことをしたのか!そうではないなら国は俺たちに何をしてくれたのか!いや!何かしてくれたとしても!俺はそんなの受けたことないし聞いてもない!」
俺は叫んだ。
「俺は村長になる!そして市長になって国王になって!ゴリオス王国という国をぶっ壊して!それでお父さんを殺した敵討ちをしてやる!手伝ってくれとはいわない!だけど!」
俺はこぶしを挙げて叫んだ。
「復讐したくはないか!」
女性と子供しか残ってない村から賛同の声が空高く響き渡っていた。
ただその叫びに彼女、俺の幼馴染であり、英雄と呼ばれたリサの声はなかった。
「ねえ。リチャード。」
その夜、父の墓の前で沈黙している俺のそばにリサは静かな足音とともに近寄って隣に座った。
「何?リサ。」
「復讐…するつもり?」
俺は微かに笑った。
「もちろん。そのために村の皆を味方にしたじゃないか。」
「…ねえ。リチャード。私は…あなたのそういう面があることはわかっていたの。いつもぼんやりした顔で、何も知らないような顔をしているけど、その心の中に火が灯る瞬間どうなるかわかっていたの。」
いつもおしゃべりな彼女であったが、その夜はもっと口数が多かった。
「私ね?…あんたがそういう能力があるの知っていたから、あえてバカにして私が前に出てあんたの困るようなことはさせないようにしていたの。あんたにはあなた自身を無能力な人間なだと思わせるためにね……。」
それを聞いて、今から彼女が言おうとしていることが何かわかるような気がしていた。
「そう…なんだ…。」
リサはそれを言って真正面を見ている俺の肩を強く握って自分のほうを向くようにした。
「ねえ。リチャード。聞いて!あなたの復讐は私がしてあげる!だから!……だから!復讐をすることはやめて!」
俺は冷めている。
だから聞かないといけない。
「なぜ…そこまで?」
リサは。
俺がそういう人間だと。
こ・う・な・る・こ・と・を知っていたのか。
リサはつらそうな顔をして虚しいような微笑みとともに答えた。
「私…勇者なの…。」
俺はその答えを聞いて、目を閉じて軽くため息をついた。
「なるほど…。」
リサは微笑みを消さずにただ悲しむように目を落として口を開けた。
「驚かないんだ…。」
「子供の頃、森で迷子になった時、オオカミ3匹を追い払ったことがあるからね。まあ、その時からはリサは特別な力があるんだよなぐらいしか思わなかったけど。」
リサは真正面に向かっている俺の瞳をじっと見つめて以前と違って明るい普段の笑い声と一緒に俺の肩を叩いた。
「だから!ね?復讐は諦めて待ってて!私があのくずをここに連れてくる!私は勇者だから!王様も顎で操れるよ!」
リサは自信満々にそう言った。
俺は否定した。
「嘘だね?」
「え?」
俺は同じくリサの瞳をじっと見ながらこう言った。
「まず、先の話…なぜそこまで俺の復讐を止めようとするの?」
「それは…。」
リサが明らかに慌てて顔をそらした。
俺はそんな彼女の顔を両手でつかみ俺を見るようにした。
「当てて見ようか?リサには未来が見えるんだ。」
リサの慌てぶりがもっとひどくなり、瞳が激烈に揺らぐ。
「どうして…?」
俺は軽く笑った。
「リサ。先から‘こうなることはわかっていた。’みたいな言い方をしている。」
「それは!…」
「長い付き合いだからわかるとは言わないでくれ。だって俺もリサが勇者だなんて想像もしなかったから。それに…。」
俺は冷たい微笑みとともにこう言った。
「それを知っていたから止めようとしたんだろう?」
リサは血が抜けたような青ざめた顔で唇を噛んだ。
「未来が見えた。だからこうなることはわかっていた。そして…俺が成そうとするこの先の未来も知っていた。そして…………その先はリサにとっては受け入れない未来であった。そのため、俺の復讐を止めようとした。だね?」
リサは涙を浮かべて俺の手を打ち飛ばして大声で叫んだ。
「そうよ!未来が見えるの!今日の惨劇も!そしてこの先の絶望的な未来も!見えるの!だから!…だからね?…リチャード…お願い…復讐は諦めて…諦めて私を待ってて…約束する!私が必ず!あんたのお父さんを殺した騎士と管理官を連れてくるから!だから!…」
俺はリサのその叫びを黙って聞いた。リサがちょっと落ち着きを取り戻したところで俺は言った。
「嘘だと思った理由…なんだけど…。」
俺は冷めている。
俺は冷めていてよかったと思う。
彼女が見た未来はたぶん彼女が先見せた通り、虚しく、悲しく、絶望的な未来だろう。
俺がきっと暖かい人間なら、彼女のその悲しむ姿に心が動いていたんだと思う。
でも俺は…。
冷めている。
「リサは人間を殺せないんだね?」
その言葉を聞いた彼女は衝撃を受けたように酷く歪んだ顔で問いてきた。
なぜそれを知っていると。
「簡単だね。そうなる未来がわかっていれば、あのくずたちを殺すことは出来た。少なくとも脅かして追い出すようにすれば良かったのではないか?でもそれは出来なかった。リサが弱いから?いや。オオカミ3匹はただの獣かも知れないけど。何もしてないのに獣自ら逃げるようにするなど無理に決まっている。だとすればその能力は人間に使えないのかそれとも使ってはならないのか、それとも…。」
俺は笑った。
「そもそも人間には効かないのか…。」
俺は肩を落として笑いながら言った。
「リサの能力は人間には使えない。その能力が何かは知らないけどね?もちろん本当に勇者だったら王に要求することぐらいはできるだろう。なにせ勇者は唯一無二の存在だから。でもそれを聞くか聞かないかは王しだいだな。そもそも人間に効かない能力なら、それがばれたらむしろ危ないね。絶対脅迫されて利用されるか…はたまたは玩具にされるか…。」
そこまで言って俺は一つ悟ったことがあった。
俺は完全にあきれたように何も言わずにただ衝撃を受けている彼女に付け加えて言った。
「たぶんリサは…そうだな。仲間を待っているのかな?」
リサの表情は豊かだ。彼女の表情は子供の頃から見てきたからわかる。
でも今は衝撃の衝撃を重ねった彼女の表情を見て今更関心する。
目の視線が激しく揺らぎ、衝撃で開いた口は閉じることなく開いたままであった。
「リサはあいつらを連れてくるといった。だとしたら村から出るということだろう。でもまだ出てない。人間が脅威になるからだ。だとしたら信頼できる護衛が付く必要があると言うことだろう。信頼できる護衛といえば、未来が見えるリサに取っては仲間が適当だ。共に命を懸けて戦う仲間。そしてその仲間が来てからこそリサは堂々と村を出て‘勇者‘として名乗れるということだろう。誰でも考えてみればわかることだ。」
そこまで聞いてリサは俺を見ながら笑った。
「本当に……あんたは凄いよ…あんたのその能力は……前から知っていたけど…。」
そして彼女はどんどんこみ上げてくる感情で涙を流した。
「そうよ!だから!だからお願い!お願いだから…お願いだから…」
俺は笑うしかなかった。
彼女が言う未来が見えてきたからだ。
俺は彼女の涙を拭いてやるしかなかった。
ただそれしかできなかった。
月光が父の墓を照らした。
赤髪が肩まで伸びて、ちょっと上に吊り上がった目の形のせいで強気な印象を与えてしまう女の子。でもとても可憐で、とても弱く、他人のためにいくらでも涙を流す少女が俺の手を握り涙をぼろぼろ流しながら俺を見つめていた。
寂しい夜だ。
悲しくてしょうがない。
未来が見える。それがどれだけつらいかは目に見えるのだ。
だけど俺の決心が揺らぐことはない。
だけど…。
だけど俺は心配であった。
俺の幼馴染。
とても気弱く、誠実で、どうしようもないほど優しい彼女はこれからどうなるんだろう。
だから応援の言葉を含む俺の気持ちを彼女に伝えることしかできなかった。
「君が偉業を成して帰った時、俺はどうなっているのだろう…。」
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