第28話「カオスは、気付いた頃に傍にある」
「アーベルさん~準備できてたって
聞き覚えのあるゆるい声が、ドアの隙間から聞こえた。
「首返しに行ったら、準備できてた」
「首じゃないけど返しに行ったら、準備終わってた」
ひょこ、ひょこと双子ちゃんがドアの隙間から覗いてくる。……姉妹だなぁ。
「じゃあ、行こうか」
アーベルさんが手を差し伸べ、私をエスコートしてくれる。
本当、自分の顔に似合う立ち居振る舞いを分かっていらっしゃる。
……まあ、首が不安定だったり、うっかり落としちゃったり、友達と馬鹿みたいに騒ぐ紳士も悪くは無いけど。……なんてね。
***
ライブハウス風味の部屋に通されると、もう既に見覚えのある顔がたくさん集まっていた。
「
奈津さんの横でサングラスとマスク姿の権之助さんがとぐろを巻いている。
何を隠してるつもりなんだろう。もしくは何を隠せてると思ってるんだろう。
『これからみんなの熱気で暑くなる?』
「熱気出す人はほぼいないと思います☆」
不安そうな権之助さんと、晴れやかに語る奈津さん。
そうだね。きっとリビングデッドあるあるだね。たぶん。
「……お、俺……前座頼まれた……」
……と、後ろの方からノエさんの震え声が聞こえてきた。
「まあ適当に頑張りなよ」
アーベルさんの声からは「あー、良かったー僕じゃなかったー」って感情が拭いきれていない。
「ノエなら何とかなんだろ。心も骨も解放してこいよ」
ユージーンさんはまた口説いてる(?)。
骨はもう解放してる気がする。ほら、今も前髪のあいだからちらちら見えてるし……。
「なんなら演出で火でもつけてみるかァ?」
やけに楽しそうなユージーンさん。
さすがに火は危ないと思うな……。
──火は熱くなるから、やろうとしたら止めてね
こ、これは権之助さんの声……!?ㅤまさか直接脳内に……!?
ノエさんも救いを求めるように周りをきょろきょろ見てる。あっ、目が合った。ど、どうしよう……。
「も、燃やすのはいつでもできるし、今はやめとこう!?」
ごめんノエさん、これが限界だった。
「そっスね。いつでもできるッス」
うんうんと頷くユージーンさん。無事納得してくれたらしい。
「い、いいいつでも燃やすな……!!」
悲鳴のようにツッコミを入れ、ノエさんは舞台袖の方へと向かう。今のでなんとなく、シャウト上手いんだろうなと思った。
「おじ様、ひょっとして席を取っていてくださった?」
「もちろんですよお嬢。見えやすいように前の方に……」
「あら、まだ子供扱いかしら?」
「おや、大人になって好みは変わってしまわれました?」
「……そんなことはないわ。前の方が楽しいですもの」
隣ではティートさんとキャスリーンさんが微妙な距離感でロマンスし初めて、とてもむず痒い。
この空間、情報濃すぎ……!!
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