第27話 「2人はズッ友?」

「ケイトはまだ準備ができてないんだってさ。……心の」


 トランプを片付けながら、アーベルさんが言う。

 ちらっと部屋の隅を見ると、いじけるユージーンさんを、カイさん、ノエさんが慰めている。

 アーベルさんに乗っかって罠にはめたの、悪いとは思ってる。ごめんなさい。


「心の準備……。彼女は、何をするつもりなの?」

「そんなに不安に思わなくても大丈夫だと思うよ。友達なんでしょ?」


 そうは言われても……不安なものは不安だ。

 私の知っている恵子が、恵子じゃなかったかもしれない……なんて、思ってしまう。

 実際、名前は違ったわけだし。


「信じてあげなよ。あの子、ああ見えてかなり緊張してるはずだし」


 アーベルさんの言葉には、どうにか頷いて返す。

 ……なんだかんだ、ここの人達は愉快で、面白い人達だ。

 きっと、悪いようにはならない……よね?




 ***




 舞台袖。準備は着々と進み、あとは開場を待つだけとなった。


「あれは、あたしがまだ死体だった頃の話」

「今でも死体だが」

「レディにそんなこと言わないの!」


 ぺちん、と少女が頭を叩くと、話し相手の首がぐらぐらと揺れる。

 慌てて押さえ、青年は余計なことを言わないようにと口を噤んだ。それを見て、少女は大きく頷き、話を続ける。


「その頃、アリシアは楽しそうに家族と語らって、友達と遊んでた。……あたしも、そうしたかった。声を聞くだけで……きっと、きっと、すごく可愛い子なんだろうなって思ってたから」

「……そんなにも可憐プティトゥな声だったのか」


 アンリは静かに、過去の恋へと思いを馳せる。

 ……と、そこに困ったような声が飛んでくる。


「おーい、話すのもいいけど、機材を運ぶのは私だけなのかい?」

「フィル、お前の筋肉ミュスクルに不可能はないはずだ」

「HAHAHA、君の頭のほうは不可能だらけバカなのかい?ㅤ「できない」んじゃなくて、「やりたくない」んだよ!ㅤ少しは手伝ってくれ!」


 フィリップとやいのやいのと言葉を交わし、アンリはちらと舞台の方を見た。

 観客はぞろぞろと集まり始め、舞台は整った。

 ケイトはふう、と、ため息をつく。


「やっぱりコンビニ行ってくる!!!」

「奈津さんがさっき行ってきてくれていたぞ、ほら、そこに団子がある」

「ぐう!!ㅤさすが気が利く!!ㅤでも今はそのオモテナシいらなかった!!」


 少女はまだ、心の準備ができずにいた。

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