第19話「男たちの仁義なき(?)争い」

 なんやかんやで、殺人チェスの会場に案内されました。


 廃病院のロビーを改造して、真ん中にチェス卓。そして、遠巻きに観客用のソファー……それだけ。


「おお、ユージーンか」


 話しかけてきたのは、くたびれたシャツを着て、齧りかけのリンゴを片手に持ったおじさん。


「久しぶりッス、カイの兄貴」

「おいおい、俺はマフィアに入った覚えはないぜ?」

「でも……ここでのゲームでは大抵俺が負けてるんで」


 この人が、「殺人チェス」で手首を持って行かれたカイさんか……。

 ティートさんとはまた違う雰囲気だけど、彼も渋い。ワイルドなおじ様って感じがする。


「俺はカイ・マガト。……話はアンリから聞いたぜ。迷子なんだってな?」


 リンゴをガリリと齧りながら、カイさんはニヒルに笑った。

 ……あ、よく見たら手首に縫った痕がある。


「説明するッスけど、フィリップは「殺人チェス」だけじゃなく、料理対決や図書勝負、ハムナプトラ鑑賞会……色んな催しをここで開催してるッス。料理対決は大概アンリ坊っちゃんが無双するんで、最近は開催されてないッスけど……」


 つらつらとユージーンさんが説明してくれる。

 そっか……アンリくん、料理作るの得意なんだね……。


「そ、それで、殺人チェスっていうのは……?」

「チェスの手番で駒を取ったら、相手への攻撃が許されるんス。そこで相手をKOさせたら一発逆転も可能って感じで……まあ、あとはただのチェスなんスけど」


 ずいぶんと物騒なチェスだね!?

 なるほど、ここの住人はもう死んでるからある意味では不死身のようなもの。つまり、殺すような手段でKOさせても問題ないと……。

 いや、怖いよ。


「で、アンリ坊っちゃんは首が弱点なんでめちゃくちゃ不利ッス」

「それもはやルール自体がアンリくんへの嫌がらせでしょ」


 元貴族で首が不安定って……肉弾戦で弱そうなイメージしかないよ……。


「その通りだ!ㅤ図書ビブリオ・勝負サバイバルで『僕のは求人雑誌だよ』と申告しながらタウ〇ページで殴ってくるのがフィルのやり方だからな!」


 アンリくんはうんうんと頷き、また首を落としそうになっていた。慌てて落ちないように支えている。

 うーん、危なっかしい……。


「いやいや誤解だよアンリ。あれは素で間違えたんだ」


 裏方からフィリップさんの声が飛んでくる。

 まあ、うん、タ〇ンワークと〇ウンページ、名前は似てるもんね……。厚さは全然違うけど……。

 そもそも本を使う勝負が殴り合いって……どうなの……?ㅤグーテンベルクが活版印刷機で殴りに来そうな勢いだよ……?


「そのままポロッちまえば良かったのよォ……」

「相変わらず、ユージーンはアンリの首がお気に入りだなぁ」


 ユージーンさんとカイさんは楽しそうに会話中。

 ユージーンさん、そんなにアンリくんの首をポロりたいんだ……?


「なァ、坊っちゃん……もっと見せろよ。あの恥ずかしい姿をよォ」


 あのー!?ㅤ言い方がやらしいんですが!?

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