第18話「チンピラ×貴族かぁ……」

「じゃ、頼んだわよユージーン」……と、言い残して、アマンダさんは立ち去ってしまった。


「……フィリップと殺人チェスする予定あったのに……」


 はぁあ、と、ユージーンさんは大きくため息をつく。

 ユージーンさん、すごくやる気がなさそうなんだけど……大丈夫なんだろうか……。


「俺はユージーン・スミス。一応、レッジファミリーの構成員ッス」

「あ、そ、そうなんですか……」


 気だるげに語るユージーンさん。よく見ると、耳だけじゃなく、唇にもピアスがついている。


「……で、生者パンピーは脆いからとりあえずボディーガードしとけって言われたんスけど……」

「わ、私の方は予定ないし……えっと、殺人チェス?ㅤしたいなら、むしろ私がついて行きますよ……!」


 それに、ちょっと気になってたし。殺人チェス。


「お、いいんスか?」


 ……と、ユージーンさんの声が弾む。心なしか、金の瞳も輝いたように思う。

 よっぽど楽しいんだろうなぁ、殺人チェス。


「競技中は危ないんで、観客席で見てて欲しいっス」


 それで、やっぱり危ない競技なんだ……。



 ***



 ユージーンさんに連れられ、廃病院……というか、「殺人チェス道場」に辿り着く。

 ……と、門のところで、見覚えのある顔が佇んでいた。


「……お。先程の救いの女神マドモアゼルじゃないか」

「ど、どうも。ま……また、会ったね」


 アンリくん。私の前世……アリシア・ミラージェスの元婚約者。

 権之助さんから前世のことを聞かされたばかりだし……なんだか、気まずい。

 と、なぜかユージーンさんが舌なめずりをした。おお、舌にもピアスがある……。


「……へェ、アンリ坊っちゃんも来てたのか」

「ぐ、ゆ、ユージーン……!」


 ニヤニヤと笑い、ユージーンさんはアンリくんとの距離を詰める。

 私これ知ってる。カツアゲとかが始まるやつだ。


「相変わらず不安定そうな首だなァ……ついポロッとしたくなるぜェ……」


 顎をクイッとするように、ユージーンさんはアンリくんの首の継ぎ目を開かせようと……ギャァアやめて!?ㅤ断面見えそうだからやめて!?


「く……ッ、いい加減、悪ふざけカオス・プレイはやめたまえ……!」

「ハッ、……お前がポロリ欲をそそるのが悪ぃんだよ」


 涙目になりながら顔をそらせようとするアンリくんと、余計に笑みを強めて顔を近づけるユージーンさん。

 ねぇこれ何の話?ㅤ背後に薔薇とか散らせるべき?


「やめるんだユージーン!ㅤアンリが嫌がってるだろう!」


 ……と、建物の中からフィリップさんが現れた。


「フィル……!!」

「アンリは僕と『ハムナプトラ』を観る約束をしているんだ!ㅤ首が無くなっては困る!」

「バカヤロォオオオ何回観させられたと思っているんだ!!ㅤいい加減TSUTA〇Aに返しに行け!!」


 いやぁ、本当に仲が良いんだなぁ……。

 それはそうとして、延滞料金とか大丈夫なんだろうか……。

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