第17話 「反社会勢力こわい」

 権之助さんの部屋を出、奈津さん、茜莉さんに見送られ、鳥居まで戻る。

 アマンダさんは不機嫌そうに、隻眼を私に向けた。


「……遅かったじゃないの。おかげで冷えちゃったわ。くしゃみなんか出ちゃったし」

「あ、ほんとにくしゃみしてた……」

「何よ」

「なんでもありません!」


 アマンダさんの隻眼に睨まれると、やっぱり怖い。本人は加減しているつもりでも、ほら、マフィアだし……滲み出すものがあるよね。


「ところでアンタ、いつまでここに居座ってんのよ」


 ……どうやら、アマンダさんはティートさんの思惑を何も知らないらしい。

 ぶつくさと文句を垂れながら、タバコに火をつけ直している。


「一応ここの警護を担当してるのはティートだけじゃなくアタシもなんだから、訳を教えなさいよ、訳を」

「……まだいて欲しいって、霧島さんが」


 先程言われたことを伝えると、アマンダさんはきょとんと目を丸くした。


「……霧島が?ㅤってことは……必要なことなのかしら。アイツ、無駄なことが嫌いだもの」


 眉根にシワをよせ、アマンダさんは何事か考えている。


「そうなんですか?」

「ええ……この世で無駄が許されるのはブロッコリーだけだって言ってたわ……」


 ブロッコリーの無駄は許されるんだ……。

 ……ブロッコリーの無駄ってなに……?

 あのすました顔が、「この世で無駄が許されるのは、ブロッコリーだけですので」と言っている姿が浮かぶ。……確かに言いそうではある。

 でもブロッコリーの無駄ってなんだろう?ㅤ過剰供給?


「ティートさんも何か、隠してるみたいで」

「あいつの場合は、何か隠してないことの方が珍しいわよ。そもそも、アベッリファミリーは男女にデスゲームやらせるような組よ」


 まあ、うん、マフィアだもんね。それぐらいは、まあ、あるよね。

 怖すぎるよぉ……。


「……レッジファミリーはどうだったんですか?」

「うちは正々堂々カチコミ派だったわね」

「あっはい。ソウデスカー」


 よし、もう何も聞かないでおこう。

 ……と、アマンダさんはチッと小さく舌打ちをした。


「気に入らないわね。アタシに隠れて企み事なんて……」

「物騒なのはやめてくださいね?」

「分かってるわよ。でもシメたいわ」

「物騒なのはやめてくださいね!?」


 アマンダさんはしばし黙り込んで、「……ユージーンがいいわね」と呟いた。即座にスマートフォンを取りだし、なにか打ち込む。

 ……ま、また、怖い人が来るんだろうか……?


「アタシの部下をボディーガードにつけとくわね。ちょっと、調べ物ができちゃったもの♡」


 語尾についたハートが怖いです。というかマフィアが怖いです……!!


「アマデオの兄貴、何か用スか?」


 たくましい体躯の青年がのそのそと現れる。


「オイ姐御って呼べっつったろテメェ」

「あ、すんません」


 キレるアマデ……アマンダさんにも動じず、赤い髪に紫のメッシュを入れた青年はじっと私を見下ろしてくる。


 怖いよぉ…………。

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