第16話「相談役は腹黒いポジション(偏見)」

 お団子は美味しかった。なんていうのか、とても庶民的というか……基礎的な味がした。


「……って、ちょっと待って?ㅤコンビニの袋だよね、それ」

「あたしが案内してる間、茜莉ちゃんに買い出しに行ってもらいました!」


 奈津さんがエッヘン、と胸をはるけど、そうじゃない。そういうことじゃない。

 ティートさんの言葉を思い出す。……僕も出口は知らない、と、そんなことを言ってた気がする。


「ここから出る方法、あるの?」

「んー、ササッと行ってササッと帰らないとわたし達は身体が持たないですね~」

「出口自体は……?」

「ありますよ~」


 茜莉さんはのほほんと答えてくれる。

 よくよく考えれば、恵子……ケイトが定期的に里帰りするとはいえ、高校生として生活してるんだ。……ティートさんの「出口を知らない」って発言は、どうも、矛盾してる。


「えっと、そこ、連れてってくれない?」


 その答えは、権之助さんからも、茜莉さんからも、奈津さんからも聞くことはできなかった。


「駄目ですよ」


 その声は、私の背後から響いた。

 今までどこにいたのだろう。権之助さんの横に立つのは、袈裟を着た青年。

 ターバンから溢れ出た黒髪が、サラリと揺れる。


「貴女にはまだ、いてもらわなくてはならないようです」


 ゆっくりと細められていた目が開く。

 黒い白目の中に浮かんだ、赤い瞳がこちらを見ている。

 威圧されたみたいに、声が出ない。


「……どうして、という顔をしておりますね」


 静かな声で、霧島さんは続ける。


「それは、わたくしにも分かりません。……わたくしはただ、皆様の思うままに動いていますので」


 十字を切り、霧島さんは深々と礼をした。……そのまま、煙のように跡形もなく消えてしまう。


 謎すぎるよぉ……。


『ふーん……?ㅤ何の用なんだろうねぇ』


 権之助さんは小首を傾げている。……どうやら、何もかもを見通しているわけじゃないらしい。


『外にいるアマデオくんに聞いてみたら?』


 黒曜石のような瞳が、くりくりと扉の方に向く。

 私もそうしたいけれど、その前に、言うべきことがあった。


「アマンダさんって呼ばないと怒られますよ」

『いいのいいの、聞こえないから』


 そうかな……。たぶん、今頃くしゃみしてるんじゃないかな……。



 ***



「ふふ……協力ありがとう、ティートおじ様ッ」


 廃墟の影。ヒカリゴケがステージのように照らす岩の上。

 リビングデッドの少女は、セーラー服姿でくるくると舞う。


「……どういたしまして、ケイト。うちのお嬢からも頼まれているからね。あと、君達だけだとどうにも心配だ」


 グレーの瞳を細め、片腕の紳士は穏やかに告げた。


「『死なせて』本当のお友達にしてしまおう……なんて、思いかねない」

「ぎ、ぎくッ。……い、いやぁ、酷いじゃあないかティートおじ様。は、ははは、我輩はそ、そんなこと全然思わなかったしィ~」


 目を泳がせつつ、図星を刺されたケイトは後ずさる。

 ティートは苦笑し、肩を竦めた。

「お嬢」もそうだが、どうにも彼女は行動が突飛すぎる。


「……冗談はともかくとして……知ってもらいたいんだろう?」

「うん、僕のことを、そして我らのことを、雪に……アリシアに……知って欲しかった。……だって……ずっと、ずっと友達になりたかったんだからッ!ㅤ100年前からッ!」

「一人称がブレブレだけど、良いのかい」

「緊張してるだけらッ、問題ないッ」

「セリフを噛んでるけど、大丈夫かい」

「も、ももも、問題らいッ」


 戯れはまだまだ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る