第20話「あなたと私は友達じゃないけどあなたの友達と私は友達」

「……っと、今回は嬢ちゃんが来てねぇな」

「キティのことスか?」

「キティって呼んだら怒るぜ。キャスリーンって呼ばねぇと」


 カイさんは苦笑しつつ、ユージーンさんをたしなめる。

 キティ……キャスリーン?ㅤって女の子も普段は来てるらしい。


「……ケイトと会ってるんじゃないのか?ㅤ帰ってきてたぞ」


 アンリくんの言葉に、思わず振り返った。

 アンリくん、ケイト……恵子と顔を合わせたんだ!


「あと、キティって呼んで怒るのはケイトだ。キャスリーンはむしろ推奨してたぞ」

「あー、そうだったか?ㅤあそこ、どっちも愛称が同じってのでつるんでるからなぁ」


 肩をすくめるカイさん。

 あー、わかる。恵子は「ちゃん」付けで呼ばれるのもあんまり好きじゃなかったと思うし……じゃなくて!


「アンリくん、どこでその子と会ったの?」

「……ん?ㅤさっき、親切な君マドモアゼルと別れてからすぐだったな……」


 アンリくんはそこで、はたと口を噤む。

 ちらりとユージーンさんやカイさんの方を見つつ、躊躇いがちに私を手招いた。


「……え、な、何……?」


 心なしか真っ白な肌に赤みが差している気もする。いや、気のせいかもしれないけど……。

 そのまま、アンリくんは小声で私に耳打ちしてくれた。


「……『昔の恋が叶うならどうする?』……と、聞かれてしまってな。そこの2人には隠してくれ。変にからかわれたくない」


 ……思わずどきりと心臓が跳ねたのは、気のせいじゃない。

 アリシアは私じゃないし、私はもう、アリシアじゃない。そのはずなのに……。


「変な話をした。忘れてくれないか、ユキさん」


 苦笑しつつ、アンリくんは顔を離した。

 ちょっと、変なところで名前で呼ばないでよ。……なんだか、こそばゆい。


「皆さま、遅れましたわ」


 ……と、フィリップさんに連れられて、淑やかな女性が部屋の中に入ってきた。


「……おや、初めまして」

「あ、初めまして……」


 私を見掛けると、淑女は穏やかに微笑んでスカートの裾を持ち上げ、礼をする。うーん?ㅤ私のお母さんぐらいの年齢だろうか……?ㅤちょっと年齢が分かりにくいけど、大人であることは確かだ。


「キャスリーン・アベッリと申します。キティ、と読んでいただいても構わなくてよ?」


 クスクスと笑うキャスリーン……キティさん。……と、フィリップさんが私に耳打ちをしてきた。


「こう見えて案外お転婆だし、マフィアの頭首カーポの一人娘だったりするから、遊ぶ時は気を付けるんだよ」


 ……マフィア……アベッリ……。

 あっ、ティートさんとこの組かー。そっかー……。男女でデスゲームさせるというあの……?

 フィリップさん、ありがとう。たぶんそれ生者パンピーとしてめちゃくちゃ重要情報。


「アベッリファミリーんとこのお嬢!ㅤ久しぶりッス」

「まったくもう、お嬢だなんて……。……でも、そうね……ティートおじ様の中では、ずっと小娘なのかしらね」


 少しだけ、キティさんは眉根を下げてみせた。

 ……もしかして、アンリくんとアリシアみたいに、死別自体は早かったりしたのかな、なんて、ちょっとだけ思ってしまう。


「あ、え、えっと、恵子……じゃなかった、ケイトと仲が良いんですかね……!?」


 流されそうになっていたので、自分から切り出してみる。


「ええ、そうよ。愛称がキティになる仲間だもの。よくイタズラ……じゃなかった、サプライズをして遊んでいるわ」


 今イタズラって言いましたよね?


「でも、そう、貴女がユキさんなのね。……ケイトから、話は聞いているわ」


 恵子……私のこと、ここでのお友達にも話してるんだ。そっか。


「とても怖がりなんですって?ㅤあと、お金にうるさいんだとか」

「うがー!!ㅤあんにゃろうロクでもないこと話してる!!」


 恵子。次会ったら、しばく。そう決めた私であった。

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