第9話「恵子よいずこ」

「どうして……どうして、あなたが恵子のスマホを……」

「恵子?ㅤだぁれ、それ」


 はらり、と、顔半分を覆っていた前髪が揺れ、片目を見事に潰した火傷がちらりと見える。

 ……恵子、まさか、このお兄さん(お姉さん?)に捕まっちゃったんじゃ……。


「アマデオ」


 ……と、聞き覚えのある声がした。

 こ、この、渋くてイケてる声は……!!


「ティート。何度言ったらわかるの?ㅤアマンダ、って呼んでちょうだいな」

「おっと、済まない。昔のくせが抜けなくてね。……それはそうとして、お嬢さんが怯えているじゃないか」

「本当に女の子には甘いのねぇ。アタシにも優しくしてくれると嬉しいんだけど」


 どうやら、ティートさんの知り合いだったらしい。……昔なじみってことは、もしかして、このお姉さん……お兄さん?も、マフィア……?

 それにしてもピンチの時に助けに来てくれるティートさん、本当にイケメンだなぁ……。


「驚かせてしまって申し訳ない。彼……彼女はアマンダ。かつて僕の同業者だった者だよ。ならず者だけど、一般人に手を出す男……女じゃない。安心してくれ」

「もう無理に言い直さなくてもいいわよ。悪かったわねオネェで」


 アマンダさんは火傷の痕を再び前髪で隠し、恵子のスマホを差し出した。


「……霧島きりしま晴明せいめいってやつが持ってきたのよ、これ」

「ど、どなたですか?」

「あら、そっちの世界でも有名なんでしょ?ㅤセイメイ」


 それは安倍あべの晴明せいめいですね、はい。思いっきり晴明違いですね。

 ……いや、実はその人が1000年生き延びた安倍晴明本人だったりするの……?ㅤまさかね。


「まあいいわ。……それでねぇ、ちょっとお話を聞かせて欲しくなっちゃったの」

「お、お話ですか」


 何だろう。怖い。目が笑ってないよこのおに……オネェさん。


「アマデオ、一般人カタギのお嬢さんを怖がらせるんじゃない。口調を柔らかくしたら優しく聞こえるってものでもないんだよ?」

「知ってるわよ。あとアマデオじゃなくて、ア・マ・ン・ダ!」


 隣にティートさんがいてくれるから、まだ心強い。アマデ……アマンダさんのことも上手くたしなめてくれてるし……。


「ケイト・レーモンド」

「……はい?」

「このスマホの持ち主の名前よ。これ、アタシや霧島が連絡用にって調達したものなの」


 ……ケイト?ㅤ恵子……じゃなくて……?

 ティートさんが言葉を引き継ぐ。


「リビングデッドは、基本このカタコンベの中でしか生活……死活?ㅤができない。だけど、ケイトは外の世界を知りたがった」


 あ、律儀に死活って言い直してくれた。別に気にしなくていいのに……。


「だから、晴明に頼んで外に出られるようにしてもらったんだ。……定期的なを条件にね」


 ……待って、つまり、恵子もリビングデッドで、ここの仲間だったってこと……?

 玲門れいもん恵子けいこと、ケイト・レーモンド。……たしかに、そう言われてみると、名前の響きはよく似ている。

 アマンダさんとティートさんが目配せする。……やがて、ティートさんが言いにくそうに口を開いた。


「ケイトがね、姿を消したんだ」

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