第8話「ホラーは、忘れた頃にやってくる」

「良かったね、アンリくん。持つべきものは友達だね」

「まったくだ。君も、友人アミーがいるなら大切にしたまえ」


 ボウリングの球を軽々と抱え、アンリくんは嬉しそうに口元を緩めた。

 そう言えば……恵子はどうしてるのかな。カバンが手に入ったら、電話してみよう。ティートさんも誰かと電話していたし、きっと繋がるはず。


「あ、いたいた。持ってきたよ」


 私の呼びかけに、赤い双子姉妹は二人同時にくるっと振り返った。ちょっと怖い。


「首だ」

「首っぽい」

「う、うん、ボウリングの球だけどね?」


 私のカバンと引き換えに、ボウリングの球を紅哉ちゃん、朱音ちゃんに渡す。

 2人は喜んで、キャッキャッとはしゃぎながらキャッチボールし始めた。……危ないんじゃないかなー!?


「アンリくん……その、ありがとう、付き合ってくれて」


 思い返せば、なんだかんだ付き合ってくれたアンリくん。

 首が落ちるのは怖いし、ちょっと苦手意識はあったけど……やっぱり、いい人だなと思う。


「何。君だって、私が首を落として困っている時に助けようとしてくれただろう?ㅤお互い様だ」


 胸に手を当て、アンリくんは恭しく礼をする。……ちょっと、かっこいいなと思った。


「また機会があったら、共に「黒棺」を」

「あの、コレ以上は本当にアウトになりかねないんで辞めてもらえますか?」


 確かに素敵な呪文だったけど、なんだか、恐ろしいものを読んでしまいそうな気がするから。……なんかこう、ウンエイ、みたいな名前の……。


「むむ、そうか……。よくわからんが、仕方ない。何はともあれ、君の旅路ぼうけんに幸多からんことを」


 優しく笑ったアンリくんに送り出され、私はさっきより、ずっと晴れやかな気持ちで前に進み出した。




***




ㅤ少し歩くと、双子の遊ぶ声も遠くなり、辺りに静けさが訪れる。アンリくんもどこかに移動したらしい。

 そろそろ、恵子に電話してみよう。……何か、外に出るヒントがあるかも。


「…………え?」


 恵子に電話をかけると、なぜか近くで着信音がなった。

 この音楽……恵子の着信音だ。ひょっとして、近くに恵子がいるの……?


「あら、もう少し寝ていたかったのに」


 ……物陰で寝転がっていた誰かが、ゆらりと起き上がる。胸元から何か、取り出す。……点灯しながら着信音を鳴らしているのは、間違いなく恵子のスマホだ。ゆるキャラ、「ドラキュレモン」のストラップに見覚えがある。


「初めまして、シニョリーナ?」


 真っ赤な口紅を引いた長身の男が、妖しい笑みを浮かべてそこにいた。

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