第7話 「2人はズッ友」

「コイツはフィリップ・ヴィトン。私の友人で、生前は料理人だったのだ」


 サラッと生前はとか言ってるけど、皆さん活き活きしすぎてて死後の概念がゲシュタルト崩壊だよ。


「そ、そこは医者じゃないんですね……?」

「リビングデッドには、料理人は必須じゃないからな。まあ、医者もだけど」


 じゃあなんでフィリップさんは医者なの……!?

 リビングデッド界隈の常識がさっぱり掴めないよ!!


「HAHAHA、細かいことは気にしなくていいんだよマドモアゼル……えーと、お名前は?」

「え、えっと、月花 雪です」

「ユキさんって名前だったのか……」


 あ、聞くの忘れてた……って顔でアンリくんは呟いた。うん、私も完全にタイミング逃してたよね。

 ……そういえば、私はどうしてアンリくんをアンリ「くん」って呼んでるんだろう。

 どうしてだろう。いい人のはずなのに、複雑な思いが晴れない。……この、優しくなんかしたくないって気持ちは、どこから来るんだろう。


「それで、何の用だい?ㅤ筋肉を鍛えに来たのかな?ㅤそれとも、プロテインを買いに来たのかな?」

「プロテインって死体にも効くんですか?」

「ウィ。肉体が滅びようが、魂までは滅びない。つまり、筋肉ミュスクルは不滅だァ!」


 フィリップさんはムキィッと腕を上げて、盛り上がった上腕二頭筋を見せつける。

 筋肉って肉体じゃないんだろうか。それなら……筋肉って一体なんだろう……。


「なぁフィル。5キロくらいのボールを知らないか。頭くらいのサイズで」

「アンリ、君の頭じゃダメなのかい?」

「ダメに決まっているだろう!ㅤ私の頭で遊ばれたくないから聞きに来たんだ!」


 フィル……フィリップさんの愛称かな?

 強い語調で言い合っているけど、どこか楽しそうで……きっと、すごく仲がいい2人なんだと思う。

 その光景はすごく微笑ましくて、温かい。こういう友達がいるって、素敵だよね。


「なるほど、マドモアゼルは生者なのか。これは珍しいねぇ」

一般人せいじゃはめったに見かけないからな。フィル、扱いには気を付けろよ?ㅤお前ならうっかりで手足やら首やらもぎかねない」


 やめてー!?

 アンリくんとお揃いになったら普通に死んじゃうからやめてー!?


「おいおい、失礼なことを言うなよ。このフィリップ・ヴィトンがいつ人の手足マンブルをもいだって言うんだい?」

「カイがこの前、チェスしてたら手首を持ってかれたって言ってたぞ」

「それはまあ……殺人チェスだし……」


 すみません!ㅤ話に全くついていけないんですが!!

 あと殺人チェスって本当になに!?ㅤカイって人は無事だったの!?


「あ、あの!」

「おっと、申し訳ないマドモアゼル。話し込んでいた」

「色々言いたいことはあるけど、今は手っ取り早く済ませたいんで……えっと……。……あ、ボウリングの球とかありませんか?」


 すぐに持ってきてくれました。

 具体的な指示って大事だね、うん。



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