第4話 「アンリ、首が落ちるってよ」

 首無しの胴体を持って、どう見てもホラーな双子姉妹(?)が姿を表しました。

 あ、これ、今日が私の命日になるやつだ。むしゃむしゃ食べられるやつだ。


「アリエールさん、落し物だよ」

「アンリだ。そして、落し物はたぶんこっちの方な気もする」

「アリエッティさん、神経質だ」

「アンリだ」


 そんな私の心配をよそに、2人はアンリくんに身体を渡す。着物の方がひょいと大きな胴体を持ち上げて、ドレスの方がひょいとそれを首の隣に置く。

 見かけの割に力持ちな人たちだ……。ついでに口調も見かけの割に幼い……?


「ち、ちょっと待て!ㅤ秘めたる内側だんめんが見えるように置くのはちょっと……うえええ」


 あ、アンリくん、グロいの苦手なんだ。仲間だった……。


「朱音たちは届けにきただけだから」

「紅哉たちはもう帰るね」


 私の方には目もくれず、双子の姉妹はさっさと姿を消した。足音すら立てずに。

 うーん、ミステリアスだなぁ……。


「彼女らは、困ったことがあるとどこからかやって来る。また、顔を合わせる機会もあるだろう。……ところで愛深き美女神ヴェーニュスのごとき通りすがりのご婦人マドモアゼルよ、繋げるのを手伝ってはくれないか……?」


 ええー……。

 私、生首触るの嫌なんだけどな……。

 まあいいか、それくらいやってあげよう。このままはさすがに不憫だし。


「逆だ!!ㅤせめてこっちを見ながらやってくれマドモアゼル!!」

「やっぱり無理無理無理無理!!ㅤあっ、置くとこ間違えた」

「ギャァァァア落ちるぅううう」


 うっかり地面に落としてしまったせいで、アンリさんは生首のまま泡を吹いて目を回してしまった

 うん、悪いとは思ってる。ごめんなさい。



 ***



「うう……まだ目の前が混沌たる暗澹立ちくらみに苛まれている……」

「ご、ごめんね?ㅤ生首触るの初めてで……」

「いや、それも仕方あるまい。怯えるのも当然というものだ」


 どうにか首は載せられたけど、大丈夫かな、これ。またすぐポロッといったりしない?

 アンリくんは眉間を抑えつつ、ふらふらと立ち上がる。見ているだけでポロりそうなくらい、危なっかしい。


「もうそれ、縫ってもらった方がいいよ……」

「むむ、医者か……しかし、アイツの世話になるのはなぁ……」


 あ、お医者さんいるんだ。

 リビングデッドなのにお医者さんに当てがあるんだ……。


「フィリップ・ヴィトンという男なんだが、アイツの診察で言われることはだいたい決まっている。『胸鎖乳突筋を鍛えるんだ』……だな」


 そうですね。そもそも繋がってないので鍛えても意味がありませんね。っていうか死後でも筋トレって意味あるの?


「でもな、アイツに話を聞いてもらうと、やはり楽になる。特に、この前落ちていた漫画の話になると楽しくて時間を忘れてしまうくらいだ。なんだったか……BLEAC」

「ちょ、コレ著作権の限界に挑む作風じゃないんでぇ!?」


 あれ?ㅤ私は何を口走ってるんだろう。まあいいや。


「む、チョサクケン……?ㅤ聞き覚えのない代物だが……」

「気にしないでアンリくん。それを気にするべきなのはきっと私たちじゃないから」


 ともかく、ティートさんには待っていて欲しいって言われたけど、アンリくんの首も心配だし……どうしよう。

 あの人、いつ帰ってくるのかな……。

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