第5話

ー情けないー


─希子目線─


─病院─


紅蓮は病院に運ばれ病室でぴくりとも動かない。


目も覚まさない。


私は自分自身が情けなかった。


紅蓮と初めて会った時にあの悲しげな瞳を見たとき、私は紅蓮を護りたいと思っていた。


けど実際は護ることも出来なくて歯痒かった。


私にもっと力があれば紅蓮を護れたのかもしれない。


情けなかった。


私がもっと周りに気にしていたら火鳥くんの乱入を防げたかもしれない。


私がもっと強ければ共闘できたかもしれない。


私が…私が…


希子

「ごめんね。紅蓮。」


私は紅蓮の左手を握り締めて謝った。


騎士

「冬野さんは悪くないよ!!悪いのはあの通り魔だよ!!」


女子1

「しかしまた派手にやられたみたいね。死ぬんじゃない?」


女子2

「右腕を切り落とされていますねぇ~。」


女子3

「本当死ぬかもしれませんわね。」


私は火鳥くんのその一言が腹が立つ。


紅蓮はあの戦いの時、力でも技でもあの通り魔を凌駕していた。


あのまま戦っていたらおそらく負けることはなかっただろう。


なのに火鳥くんが妨害した所為で紅蓮は火鳥くんを庇って斬られて、右腕を切り落とされてしまった。


おまけに妖刀の能力の毒で紅蓮は苦しみ続けている。


紅蓮が傷ついたのは騎士を庇ったからなのに騎士はまったく反省の色が見られず、まったく悪びれもしない。


それが腹が立つ。


騎士

「紅蓮はきっと大丈夫だよ!!心配ないよ!!」


希子

「何が大丈夫なの?何を持って『心配ない』って言えるの!?」


私の堪忍袋が切れた。


希子

「大体何で紅蓮の戦いの邪魔したの!?」


騎士

「邪魔してないよ。ただ加勢しようかと。」


希子

「それを邪魔って言っているんです!!」


女子1

「ちょっと!!それじゃ騎士が弱いみたいじゃない!!」


希子

「『弱いみたい』じゃない『弱い』んです。」


騎士

「僕は弱くない!!それに僕は紅蓮の戦いを邪魔した覚えは…」


希子

「それはあなたが通り魔に蹴り飛ばされて気絶したいたから覚えていないんですよ。その後、あなたは通り魔に斬り殺されそうになったのを紅蓮があなたを庇って斬られた。あなたが戦いに乱入してこなければ紅蓮は右腕を切り落とされる事は無かった!!」


女子1

「ちょっと!!それじゃまるで騎士が足手まといみたいじゃない!!」


希子

「『足手まといみたい』じゃない『足手まとい』なの!!」


騎士

「そんな事ない!!僕は強い方だ!!僕はいつも複数の不良を相手にケンカをして負けたことないよ!!」


希子

「その時いつも一人だった?」


騎士

「紅蓮と二人だったけど。」


希子

「一対一で喧嘩をした事はありますか?」


騎士

「そ、それは…ないけど…。毎回紅蓮と二人で不良達と喧嘩をした。」


希子

「あなたはいつも紅蓮に護られていた。紅蓮はあなたをいつも庇いながら戦っていた。大体…」


紅蓮

「それくらいにしといて。」


希子&騎士&女子1&女子2&女子3

「「「「「!?!?」」」」」


私達は紅蓮の声が聞こえ紅蓮の方を見る。


紅蓮は目を覚ましていた。


紅蓮

「痛っ!?全身に痛みが…。」


希子

「紅蓮!?大丈夫なわけないか…えっと…その…」


紅蓮

「姉さん落ち着いて。僕は大丈夫だから。」


希子

「よかった…。目が覚めて…。」


紅蓮

「ごめん。迷惑掛けて。」


騎士

「紅蓮よかったよ。」


紅蓮

「よくねぇよ。右腕を切り落とされてた。まったく。君って人は…。まったくついでに言うけど三途の川を後もう少しで渡るところだったよ。」


女子1

「アンタ、ゴキブリ並の生命力ね。」


女子2

「ある意味すごいですぅ。」


女子3

「凡人の身体にしてはまあまあですわね。」


紅蓮

「あの後、病院に運ばれたみたいだね。でも何で関係ない連中もいんのかな?まー、だいたい想像はつくけど。」


騎士

「僕が呼んだんだよ。」


紅蓮

「まったく、君って人はさ本当に関係ない人を巻き込むの好きだね。まー、いいや。そろそろみんな帰った帰った。あ!姉さんは残っててちょっと話がある。」


騎士

「ちょっと待ってその前に聞きたいことがある!!」


紅蓮

「おっと僕も聞きたいことがあったんだ。」


騎士

「何で一人で通り魔と戦ってたの!?何で僕を呼ばなかったの!?」


紅蓮

「何でってたまたま通り魔と会っちゃったし襲ってきたから。呼ばなかったのは呼ぶ必要が無かったら(かえって足手まといになるから)。」


騎士

「僕が来なかったら死ぬところだったよ!!」


紅蓮

「…逆に死にかけてるんだが。まーいいや。で?なんで君はあそこにいたのかな?」


騎士

「紅蓮とやっぱりパトロールしようと思って紅蓮を探してたんだけど、その時に紅蓮が通り魔に襲われてるのを見つけて助けに行こうとしたんだよ。」


紅蓮

「そして返り討ちか。」


騎士

「うっ…。」


紅蓮

「しかしよく僕があの公園にいるってわかったね。」


騎士

「あー前に冬野さんの話をしようと思って冬野さんの後を付けてたら紅蓮がいつもあの公園で冬野さんといたのを思い出して。」


紅蓮

「ストーカーかよ。」


騎士

「別にストーカーをしたわけじゃ…。」


紅蓮

「まー、いいや。今は。さてと用が済んだらさっさと帰んな。」


騎士

「またあの通り魔と戦うの?」


紅蓮

「どうだろうな。」


紅蓮はあの通り魔に目をつけられている。


また会うならおそらく戦うことになるだろう。


騎士

「僕も戦うよ!!」


紅蓮

「やめて!!マジでやめて!!足手まといだからマジでやめて!!」


紅蓮がめちゃくちゃ必死で断る。


紅蓮

「とにかくさっさと帰ってくれ。」


騎士

「その前アイツをなんとかしないと!!」


紅蓮

「大体即効気絶した君になんとかできる相手じゃないでしょ。」


騎士

「で、でも!!」


紅蓮

「とにかく帰った帰った。今ここで話をしてもどうにもならないでしょ。」


女子3

「ちょっと!!死にかけの凡人風情が騎士様にあれこれ言う権利はないですわよ!!」


女子2

「そうですぅ!!死にかけの人は騎士くんの言う事を聞くですぅ!!」


女子1

「アンタごときが私達にいちいち命令してんじゃないわよ!!」


紅蓮

「うるさい。病院の方々に迷惑でしょ。」


医師

「まったく最近の子供は騒がしいね。」


話をしていると紅蓮を治療してくれた医師が入ってきた。


その医師は少しゴリラに似ている顔をしていた。


紅蓮

「騒がしくしてすみません。あなたが治療してくれたですか?」


医師

「まーね。ただ特殊な毒だったからね。貴重な解毒薬を使用することになったよ。」


女子1

「ちょっとアンタ誰よ!?」


医師

「医師だが。」


女子2

「ゴリラ顔の医師なんて聞いたことないですぅ。」


医師

「最近のは騒がしいだけじゃなく失礼な子もいるのかい?」


紅蓮

「騒がしくて失礼な子供ばかりですみません。」


医師

「それにしても厄介な物で斬られたみたいだね。」


紅蓮

「ああ。全身に痛みがあるのは解毒薬の後遺症ですか?」


医師

「まーね。二日もすれば痛みも引くだろうが。」


紅蓮

「とりあえず助かりました。」


医師

「まー、僕は医師だからね。それに僕と君の仲じゃないか。君を死なせるわけないだろう。」


紅蓮は医師の男の人と親しげに話をしている。


紅蓮

「それで僕の切り落とされた腕は使い物になりますか?」


医師

「そのことなんだけどね…。言いにくいんだが…。毒に侵され使い物にはならないだろうね…。僕の力じゃなんともならない…。」


紅蓮

(まーそうだろうね。あの毒じゃ使い物にならなくなることくらい目に見えてたからなー。)


騎士

「先生!!そこをなんとかなりませんか!?あんたは医者なんだろう!!」


医師

「完全に無理だね。」


騎士

「そこをどうにかしてくださいよ!!」


紅蓮

「騎士、医師が無理って言ってるんだ。どうにもならないよ。」


騎士

「でも!!」


紅蓮

(今後の事を考えてちょっときつく言っておくかな。これ以上痛い思いをするのは嫌だし。)


紅蓮は少々真面目な顔をした。


紅蓮

「騎士。君は相手の力量も知らないのに無闇に何の策もなく飛び込んだ末路だ。僕は気絶した君を庇い腕を切り落とされた。君が正義感が強いのは構わない。策もなく飛び込むのも人に迷惑を掛けなければ構わない。だがな周りをよく見て、戦場の状況などを判断しないで飛び込むと死ぬぞ?」


紅蓮

「とにかく君も今回の事でわかっただろう?周りをよく見て状況を判断しないとどうなるか。間違いなく相手は君の手に負える相手じゃない。でなければ次は死ぬぞ?」


騎士

「……………………。」


紅蓮

(ちょっときつく言い過ぎちゃったかな?でも騎士みたいな超鈍感はコレくらい言わないと分からないだろうしなー。)


女子1

「黙って聞いていたら偉そうにアンタみたいな雑魚の凡人が偉そうな事を言ってんじゃないわよ!!!!」


女子2

「そうですぅ!!!!大体あなたは騎士くんが来なかったら今頃絶対死んでましたぁ!!!!」


女子3

「貧民の凡人風情が騎士様に何という無礼を!!!!死んで詫びなさい!!!!」


紅蓮

(やっぱりうるさく言ってくるな。騎士のハーレム達が…。)


紅蓮はやれやれとため息を吐きながらまた真面目な顔をした。


紅蓮

「黙れよ。僕が右腕を切り落とされたのは騎士を庇ったが為だ。なのに君らは僕を悪者扱いかい?ふざけるなよ。なんで護ってやったのに文句言われなきゃならないんだよ。『騎士が来なかったら今頃絶対死んでました』って言った奴いたよな?は。笑わせないでくれ。こっちから言ってみたら少なくとも『騎士さえ来なければ右腕を切り落とされる事はなかった』って考えている。騎士を庇って斬られたんだからな。」


女子1

「アンタ!!」


騎士のハーレムも内の一人が殴り掛かってきたが紅蓮は躱してみぞおちを殴った。


殴られた女子が咳き込み床に膝を付ける。


騎士

「紅蓮!!何て事を!?!?」


紅蓮

「正当防衛だ。てか怪我人に殴り掛かってくる方が悪い。」


医師

「あんまり暴れるとマジで追い出すぞ。」


医師の男の人の目が怒ってる。


紅蓮

「騒がしいバカ共で本当にすみません。」


医師

「まったくだ。紅蓮も大変みたいだね。」


紅蓮

「はい。とても大変です。さて、とにかく帰った帰った。もう真夜中だし。姉さんは残っててちょっと話があるから。」


希子

「うん。」


女子1

「待ちなさい!!まだ話は…」


医師

「追い出し部隊の皆さんお願いします。」


武装した看護師達が現れて火鳥くん達を連行して行った。


紅蓮

「やれやれやっと出ていったか。」


希子

「どうするの?通り魔のターゲットはたぶん紅蓮だよ。」


紅蓮

「だろうな。さっさとどうにかしないとな。」


医師

「どうするつもりだい?今の身体ではまともに戦えないだろう?しかも片腕ないし。」


紅蓮

「こっちがリミッターを解除して戦うだけだ。」


紅蓮には能力を封じているリミッターを付けている。


左の足首に着けられたミサンガがそうだ。


紅蓮の意思で外すことが可能らしく、紅蓮の意思でまた着けたりする事が出来るらしい。


希子

「さっきから気になってたけど紅蓮と医師の人と知り合い?」


紅蓮

「まーね。紹介するよ。この人は森山さん。森山さんこの人は僕の姉です。」


希子

「冬野希子です。弟を助けていただき本当にありがとうございます。」


森山さん

「あー気にしなくていいよ。僕、医師だし。それに紅蓮くんとは昔からの付き合いだし。」


希子

「昔から?」


紅蓮

「僕が国の裏で働いていた頃だよ。森山さんは国の裏側でもかなりの実力者だよ。国の裏側の幹部だったし。」


森山さん

「昔の話だよ。今じゃ引退して医者をしている。しかし、かつて『氷帝』とまで言われた最強の男とはいえその身体じゃ無理なんじゃない?なんなら僕も久々に戦うけど?」


紅蓮

「最強の盾と言われた『森帝』と呼ばれたあなたが出るまでも無いよ。相手はそんなに強い敵じゃないよ。今回は馬鹿を庇って腕を切られただけだよ。」


森山さん

「そうかい?あまり無理はしないようにね。」


紅蓮

「了解。」


森山さん

「わかっていると思うけど、君の身体は今は長期戦は出来ない身体だよ。出来る限り早めに決着は付けた方がいい。」


紅蓮

「その方がいいみたいですね。それより奴の居場所を探さないと。仕方ない。ちょっとキツいけど久々に感知を使うか。」


紅蓮は目を閉じた。


その瞬間一瞬寒気がした。


希子

「紅蓮何したの?」


紅蓮

「感知だよ。僕の今使った感知は、一度会った事がある相手を探す感知だよ。姉さんは敏感だし、勘が鋭いからね。何かあったらすぐに気が付きやすい体質なんだよ。」


森山さん

「それで見付けたかい?」


紅蓮

「ああ。さてと居場所もわかったことだし行くとするかな。とその前に姉さん頼みがあるけどいい?」


希子

「何?」


紅蓮

「『白蛇』を持ってきてくれる?」


『白蛇』は紅蓮が国の裏側にいた時に愛用していた紅蓮の妖刀。


希子

「わかった。」


私は『白蛇』を取りに家に向かった。


─希子目線終了─


___________________________________________


森山さん

「まさか紅蓮が国の裏側を辞めてからも苦労人になっているとは思っていなかったよ。」


紅蓮

「騎士っていうなんも分かっていない野郎の所為で苦労しているだけですよ。姉さんとの暮らしはなかなか楽しいですよ。」


森山さん

「そうかい?まー、君の国の裏側の勤務は大変だったからね。君の上司が酷い怠け者だから大変だったでしょ?」


紅蓮

「まったくですよ。国の裏側にいた時代は後輩の勤務を考えたり、書類見直したり、後輩の訓練プラン考えたり、いきなり海外の方に行く事になったり、上司が派遣場所間違えたり、勤務内容がいきなり変わっていたり、24時間勤務をいきなりやらされたり、会議にいきなり出されたり、会議の記録をして報告書を仕上げたり、大変だったなー。今は騎士っていうなんも分かっていない野郎がいきなりいろんな野郎に喧嘩吹っかけて騎士っていうなんも分かっていない野郎を護りながら喧嘩させられ、感謝すらされないし、悪い噂は流されるし今も大変だけど。今の僕には姉さんがいるから耐えられるよ。」


森山さん

「シスコンになっちゃって昔のクールな君はどうしちゃったのやら。」


紅蓮

「僕は別にクールなわけじゃないけど。今も昔もね。」


紅蓮

「そう言えばあの僕の上司どうなりました?」


森山さん

「君の代わりに『てい』の称号を持ったよ。確か彼の能力が『その場にある土や砂、岩とかを操る能力』だったから『地帝ちてい』だったかな。まぁ、帝は国の裏側の中で強い奴10人に与えられる称号だったはずなんだけどね。君が抜けた後、君ほどの実力の代わりになる奴がいなくてね。仕方なく代役も兼ねて彼になった。確か彼の名前なんだっけ?」


紅蓮

「『三神みかみ 友梨ともなし』。一応S県の支部のトップだったよ。まったくあんな男が帝とは世の中末だな。」


森山さん

「まー、そう言うなよ。まー、大抵彼の後輩は苦労しているって噂はよく聞くけどね。」


紅蓮

「だろうね。あの人、仕事しないから。」


森山さん

「やっぱりね。国の裏側の幹部は君に国の裏側に戻って来て欲しいみたいだよ。かつて『氷帝』と呼ばれ世界が滅ぶ危機を何度も救った英雄の君に。」


紅蓮

「…僕は英雄なんかじゃないですよ…。多くの人々を救うためにいろんな人を殺して来た殺人兵器ですよ…。別に後悔はしてません。誰かがやらなきゃならなかった事ですから。でも人を殺すのがもう嫌で国の裏側を辞めたんです。昔の僕は皆んなを救える英雄になりたかった。けど、無理だった。皆んなを救える英雄は夢物語でしか存在しません。僕の力では全ての人を救える英雄にはなれません。」


子供の時、皆、ヒーローに憧れるモノだろう。


弱い人を救い、悪人を懲らしめ、改心させる。


僕はそんなヒーローになりたかった。


それが僕の考える英雄だ。


けど、僕にはなれなかった。


僕はそれが出来るのはおとぎ話の英雄だけだと思い知らされた。


僕にはそんな力は無い。


そんな事をすれば、仲間を危険に晒すだけだった。


だから仲間を護る為に僕は戦陣でただひたすらに敵を斬る。


だから僕は殺人兵器である。


故に英雄なんかじゃない。


英雄には決してなれない。


僕は殺人兵器だった事は後悔はしていない。


僕が殺人兵器にならなければ誰かが殺人兵器として人を殺める事になっていたし、殺さなければより多くの人が死ぬ事になっていただろうと思う事は何度も有ったから。


紅蓮

「僕は『殺人兵器』であって『英雄』ではありませんよ。寧ろ『英雄』と言うなら森山さんの方が近いでしょう。多くの人々を治療しその命を救ったり、多くの仲間を護ったんだから。」


森山さん

「治療は僕の仕事だったからね。それに僕の能力は意外と治療に役立つし、防御にも役に立つからね。まー、老いた僕にはもう国の裏側でやっていけるほどの体力は無いけどね。いやー、歳は取りたくないもんだよ。」


紅蓮

「森山さんの能力なら国の裏側でもまだやっていけるでしょ?」


森山さん

「こんな老いぼれじゃ無理だよ。」


紅蓮

「さて、昔話はさて置いて。通り魔の話をします。森山さん、今回の通り魔してる奴は大した事ありませんが奴の持っている武器ですが、妖刀『毒虫剣』です。」


森山さん

「『毒虫剣』って確か『黒長 松久』ってテロリストが使っていた妖刀の一つだよな。何でまたそんなモンを?」


黒長くろなが 松久まつひさ

能力者のテロリストの中で史上最悪とまで言われたテロリスト。能力者の犯罪者の中では五本の指に入る能力犯罪者の一人。かなりの実力者で僕が昔、戦った時も殺しきれなかった相手だ。彼の能力は『強奪ごうだつ』。相手の能力を奪い、その能力を使用者同様に扱う事が出来る能力者。そんな彼が扱っていた妖刀の一つが『毒虫剣』なのである。



紅蓮

「何で奴が『毒虫剣』を持っていたのかは、わかりません。ですが、何らかなの形で『黒長 松久』と繋がっている可能性があります。そして、もし、『黒長 松久』と戦う事になるようならすぐに逃げます。正直、今の体の状態じゃ通り魔には勝てても『黒長 松久』には勝てません。」


もっと言ってしまえば万全の状態でも『黒長 松久』と正面から戦って勝てるかどうか微妙である。


『黒長 松久』の奪った能力は僕も把握し切れていない。


紅蓮

「クソッ。やっぱり通り魔をあの場で捕まえたかった。騎士の野郎が邪魔しなかったらあんな奴、すぐに捕まえられたのに。」


森山さん

「運が悪かったしか言えないね。騎士って奴を見殺しにしていたら捕まえられただろうが君はそうしなかった。理由は君のお姉さんの目の前で人の死を見せてしまいトラウマにならない為の配慮をしたから。人の死ってのは残酷な死に方ならトラウマになりやすい。」


紅蓮

「…。」


森山さん

「死っていうのは残酷な死に方だとすごいトラウマになるからね。だから騎士という少年を庇った。違うかい?」


紅蓮

「森山さんには何でもお見通しなのね。」


森山さん

「長い付き合いだからね。君があの男の弟子だった頃からの付き合いだしね。」


紅蓮

「…。」


あの男とは僕の師匠の事だ。


僕の師匠の名は『風影かぜかげ 氷鬼ひょうき』。


彼は僕と同じ氷の能力者で初代『氷帝ひょうてい』だった男。


僕は彼の死後、『氷帝』の二つ名を受け継ぐ事になった。


つまり、僕は二代目『氷帝』って事になる。


僕は彼に能力の使い方を学び、戦い方を教わり、何度も命を救われた。


そんな彼は僕が弟子になってしばらくし僕を護る為に自分を犠牲にし、死んでしまった。


僕は不意に師匠の事を思い出していた。


紅蓮

「…師匠…。」


森山さん

「…話を戻すか…。」


紅蓮

「…そうですね…。すみません。ちょっと師匠の事を思い出していました。」


森山さん

「分かるよ。長い付き合いだから。さて話を戻すがヤバくなったら連絡をしてくれ。国の裏側の連中に連絡して応援を寄越すよ。君の実力だと下手に応援寄越しても君にとって足手まといにしかならないかもしれないからね。」


紅蓮

「そうですね。正直森山さんくらいの実力がないと僕とのコンビネーション合わせられませんからね。」


森山さん

「無理はするなよ。」


紅蓮

「分かってますよ。」

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