第33話 現実への帰還
浮かび上がっていく。
世界が変革する。
魂と肉体の間に繋がりを感じる。
少し脚の方が寒い。
けれど、温かくもある。
特に上半身。
というより、何か柔らかいものに包まれているような……?
「んぅ、っ……はぁ、あぁぁ……」
んん!?
な、なんだ今の妙に艶かしいというか、エロい声は……?
ってか、何故俺の頭上から……?
ま、まさか俺を包んでるこの柔らかいのって……。
女の子の素敵なナニカで出来ている俗に言うパイという奴なんじゃ……。
も、もう少しこのまま寝てようかな……。
いやいやいや!! お、俺は一体何を!? ってかまず誰だよ!! いや、冷静に考えろ俺。竜草の採取の仕事で
ゴブ美ちゃん、こんな大きかったのか……。
……ま、マズいッ!? か、顔がッ!! 緩む、緩んでしまうッ!!
照れが俺から冷静な思考を奪ったのだろう。
急に頭をあげればゴブ美ちゃんの頭と衝突することぐらい分かる筈なのに、緩んだ顔を見られたくないが為にバッ! と頭をあげる。
「ちょ!? ウィリアムさ……」
ゴンッ!!
「痛った~!?」
「痛ッ!?」
でこに走る鈍痛。
視界一杯に広がるゴブ美ちゃんの顔。
慌ててその場から離れる。
「わ、わりぃゴブ美ちゃん! 痛かったか……?」
「痛いです……」
軽く目を潤ませて言うゴブ美ちゃん。
「だよな、ごめん……って、そんな場合じゃねぇだろ!! 大丈夫かゴブ美ちゃん!? 怪我は!!」
「でこが痛いです……」
「いやいやいや! それは確かに痛いだろうけどそーじゃなくて! 腕! あの黒い蛇に貫かれただろ!? 大丈夫なのかよ!!!」
「それを言うならウィリアムさんこそです!! どれだけ心配したと思ってるんですか!? 馬鹿です馬鹿!! ウィリアムさんなんてもうバカウィルで十分です!!」
「ば、バカウィル……」
でも、そうだよな……。
あんな暴走して、自分で自分も抑えられなくなってゴブ美ちゃんたちを危うく殺す所だったんだもんな……。
はぁ……ホント最悪だな、俺。
「……でも、私の為にあんなに怒ってくれたのは嬉しかったです」
「え? ごめん、なんて?」
「何でもないです!! とにかく、ウィリアムさんには魔王としての側面があると分かりました。今後は出来るだけ怒らないようにしてください。もし街の中で今回の様なことが起こって仮に魔王が目覚めてしまえば、英雄になる夢は叶わなくなってしまいます」
「あ、あぁ……出来るだけ頑張る。てか、なんでアレが魔王だって知ってんだ?」
結局ウィリアムさんって呼んでるぞとは言わないようにしよう。
ホントにバカウィルって呼ばれたくはないしな……。
「あ、その……なんていうか、ウィリアムさんのお母さんに……教えてもらいました」
……え、え?
「俺の、母さん……? え、つまりセラフに? え、なんで」
え、マジで訳が分からない。
本当に理解が追い付かない。
俺の母さんに教えてもらったって、どういうこと? 何故にゴブ美ちゃんが母さんに? どうやって? え、あの黒い穴ここ来たの? ってかあの黒い穴喋れんの? いやそもそも理性あんの? だったらなんで俺の世界消されたの? いやそれは違う。親父が存在を反転されてどうちゃらこうちゃら言ってたから母さんが悪いわけではない。うん。
じゃあ……一体、どうやって会ったんだ?
「あの、村長……私のお爺ちゃんいるじゃないですか。あの人、実はウィリアムさんのお父さんだったみたいです……」
「いや、それは知ってるけど。それとこれに何の関係が……って、あ!! そういうことか!! え、つまり……なに? ゴブ美ちゃんって、俺の……なんだ? 俺の親父が、ゴブ美ちゃんの爺ちゃんで、え? 一応俺の親父の血をゴブ美ちゃんも引いてるわけだから身内ってことになるんだけど……なに? 全然分からん」
あれ、でも正確には親父は親父でも平行世界の親父なわけだから血の繋がりは無い、のか……? ん? ヤバい、ホントに頭がどうにかなりそうなんだが。
「え……? あ、そういえばそう、です……ね。え、あれ? ウィリアムさんはお爺ちゃんの子供な訳だから立場的にはお父さんの兄弟ってことになりますけど、ウィリアムさんは平行世界出身な訳ですし……お爺ちゃんはお爺ちゃんでも平行世界のお爺ちゃんの子供ってことになるから……血の繋がりはない、んじゃないですかね……?」
「あ、やっぱりそう……だよな? 別に妹みたいな立場になる訳ではない、よな?」
「そう、ですね……。でも私、一応スウィの力を受け継いでるんですよね……。
ウィリアムさんのように
ん、んん? 精神世界でスウィから力を貰った……だって? 精神世界?
「え、ちょ、待てよ? つまり……ゴブ美ちゃんもしかしたら死んじまってたかもしれねぇってのか!?」
「そう、ですね……私の魂の中にいたスウィを殺さなければ、私の魂は崩壊し死んでいました」
「……」
殺さなければ、ゴブ美ちゃんの魂は崩壊していた……。
母さんのおかげで、ゴブ美ちゃんは今……生きてる、のか。
「母さんは、どんな人だった……?」
聞けば苦しませる。
分かっていた。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「……優しい、お母さんという言葉がよく似合う人でした。本当に。ウィリアムさんが私に向ける好意が羨ましいって、言ってました。育ててあげたかった、って」
震える声。
潤む瞳。
頬をつたう雫。
「そう、か……。育ててあげたかった、か……。母さん……っく」
ダメだ。
俺が泣いては。
赤子を捨てるようなクソ共とばかり思っていた俺に泣く権利なんか……。
「泣く、権利なんか……!」
今にも零れようとする涙を必死に堪えていると、不意に……ぎゅっと優しく俺を包む柔らかな腕。
「ッ!」
強くつぶっていた瞳を開けると、そこには……
「ゴブ美、ちゃん……?」
優しく俺を抱きしめ、笑うゴブ美ちゃんがいた。
「泣いてください、ウィリアムさん。ウィリアムさんには、泣く権利があります。我慢しないで、いいんです」
囁かれた、涙まじりの言葉。
それをキッカケに俺の眼は、全く言うコトを聞かなくなった。
「……やめろよな。ホントに、あーもう……止まれよ。……っく、うぅ……あぁあぁあぁぁ!!! 母さん……!! 会いたかった、たった一度でいいから、話してみたかった……!! 子供らしく、甘えてみたかった……。なんで、なんでだよ!! なんで……っく、母さん……!」
知らない生みの親より、知る育て親。
確かにその通りだ。
実際、今でも先生のコトは大好きだし、本当に母親だと思っている。
でも、もし普通に親父と母さんに育てられていたら……そう思わずには、いられないのだった。
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